ちぎれる親子の絆
約束を破った、と言われればそうだ。
だけど、私はあそこに居続けることが難しかったのだ。自分を、蔑ろにされ続けるあの場所が、苦しかった。
それをお父さんに伝えたかった。私も頑張ったのだ、と。耐えてここまで来たのだと。
けれど、一言も言葉にならなかった。
う、うぅ、と言ううめき声が私の喉から発せられて苦しい。
顔を両手で覆い、声を殺して泣く。今までこんなに泣いたことがなかった。むしろ、我慢してきたあの日々が追いかけてくるように涙だけが止まらなかった。
「シオン……大丈夫……。大丈夫だ」
隣に立っていたローレル様の優しい声がする。
とんとん、とあやす様に私の背中を叩きながら、前を向く。
「約束よりも、大切なことがあるでしょう」
「約束よりも、か? そんなもの有りはしない。その約束よりも優先されるべきものなんて無い」
ローレル様の問いかけに、お父さんは吐き捨てるように返した。
「貴方は分かっているはずでしょう。この地で一人になる事の意味を。貴方は娘に幸せになってもらいたいは思わないんですか」
はっ、とお父さんは鼻で笑うと私を見る。
さっきとはうって変わって真っ直ぐに。
「娘には一人でいてもらわなければ困る。その為に、あそこにひとり置いていったのだから」
それが、答えだった。
行くぞ、とお父さんは背を向けて狐面を被った少女の手を引く。私ではなく、別の女の子の手を引いて去っていく。
一緒に連れて行ってくれないのは、私が約束を破ったからなのだろうか。
一人でいなかったから、隣にいられないのだろうか。
そんな思いがぐるぐると頭の中を回る。
―娘に幸せになって欲しいって思うのが親だと思うよ。
あの時、ローレル様が言ってくれた言葉が蘇る。
お父さんは、私の幸せを願ってはくれなかったのだろうか。
「私は、間違ってたの……?」
ぼろぼろとこぼれる涙は地面を濡らす。
隣にいてくれるローレル様が、何か言葉を言おうとしては口を閉じた。
けれど、上手く言葉が見つからないようで、背中を撫で続けてくれる。
それがとても有難かった。
今はきっと、どんな言葉も私は受け止めきれないだろうから。




