再会したのに
「何故、この国の王子が姚国の人間と? いや、まずなんでここに?」
混乱した頭で考えていることが、口からただ漏れになっている少女は頭を抱えていた。
まさか、姚国の人間とカロラの人間が並び立つなんて思ってもみなかったらしい。
目の前の光景に目を疑っているようだった。
そんな様子の少女の前にローレル様が立つ。
「シオンとは仲良くしている。国など関係なく、ただ対等にありたいと僕自身が願った。シオンはそれに応えてくれた。ただそれだけだ」
そう言ってローレル様は膝を付いた。
まるで私と初めて出会った時のように、視線を落とし目線を合わせる。
あぁ、そうか、あの時もローレル様は私と対等だ、と示すために膝を付いてくれたのか……。
「君の名は? なんという?」
ローレル様に問いかけられ、少女はたじろいだ。
名乗っていいものかどうなのかを、図りかねているようだ。
それでもローレル様は笑みを絶やさずに、根気よく待つ。
「私は……」
「名乗るでない」
少女が意を決して口を開いた時、別の硬い声色が遮る。
皆、その声の方向に目を向けた。
そこには、がたいの良い一人の男が立っていた。太い腕が逞しく、少女と同じように狐の面を付けている。
あっ、と少女は男の姿を見ると誰かわかったようだった。
「喋るな」
「は、はい……」
どこまでも厳しい音声で少女は制される。その声色に、俯いて少女は口を開かなくなった。
萎縮してしまいそうな怖さを含むその男に、ローレル様は怯まなかった。
「初めまして。僕はローレル カロラ シオール。この国の王子です。あなたは?」
「あなたのことは噂はかねがね聞いている。カロラの変わり者と。私の事は、そこの娘が知っている」
その視線は私を射抜く。
誰……? 検討もつかない。姚国の人間なのは間違いないのだから、私の知り合いだろうか。
だけど、くぐもった声だけでは判断がつかない。
「そうか、私のことも忘れてしまったのか」
残念だ、と言うと狐の面に手をかけて、紐を解いた。しゅり、と面が顔から落ちた。
その顔は長い年月生きてきた証の皺を刻み、目は鋭く優しさの欠片も見当たらない。
けれど、忘れるわけは無い記憶の中の顔と重なる。
「おと、うさん……」
そう。その人は間違いなく私の父親――ハル リュウタンだった。
孤児院に私を置いて、姿を消した父。
そして行方不明になり、今まで連絡さえも取れなかった父が目の前にいる。
「お父さん…なんで……」
生きていたことが嬉しい。また会えた。
けれど、この再会はある意味望んでいなかった。お父さんはあちら側にいるから。
「何故、と問うか。……いや、それもそうか。シオンは何も知らない」
父は、私を突き放すように言う。
まるで私のことなど宛にしていない、とでも言うようだ。
「お父さん、どういうこと? 何をしようとしてるの?」
「シオンには関係ない。してローレル王子、何を隠し持っているのか」
父は私に興味を失ったかのように、視線から外しローレル様を見据えた。
なんで、と私は膝から崩れ落ちる。この国に来る前はとても優しい父だったのに。抱きしめられた心地良さも、温かさも覚えているのに。
離れている間、どれだけ遠くなってしまったのだろう。
とん、と不意に肩を叩かれて顔を上げた。
ローレル様は大丈夫、と口を動かしてにっこりと笑った。




