邂逅
辿り着いた白亜の城は、私の記憶の中の姿とはかけ離れた姿になっていた。白く輝いていた壁は引き裂かれたような爪痕と黒い錫でまみれ変色している。
美しく整備されていた中庭も、荒らされて土がむき出しになっていた。花々も踏み荒らされ、地面に伏す。
「酷い……」
あまりにも無惨な光景に息を飲んだ。
これが姚国、同胞たちがしたかった事なのだろうか。
これまで仕出かしたことの数々に頭が着いていかない。
「皆……アシビさんは……どこ……」
逃げ遅れたりしていないだろうか。
無事に帰ってくるように、と送り出してくれたアシビさんの姿を探す。
厩へ走り出そうとした時、背後から声がした。
「あなた、誰……? あ……」
振り返るとそこには、狐の面を被った人間が立っていた。森で出会った人だと、すぐに気づく。
相手も同じらしく、声を上げる。
「怪我してるの……!?」
くぐもって聞こえる声は、少女の声のようだ。
森で聞いた声は作っていたのか、見た目では分からない幼さが垣間見える。掴んだ手首も細く華奢だ。
「なんて事ないよ。それよりもなんてことしてくれたの? あなたたち、ここをどうするつもり?」
駆け寄って私の怪我を診ようとする少女の手を掴む。
すると、思ってもいない行動に少女の手が跳ねる。慌てて逃げようとするが、私はその手を離さなかった。
しばらくして少女は諦めたように大人しくなる。
「どうって、カロラを破壊するだけだよ。私たちのことを認めてもらうだけ」
「認める? こんなことで認められるとでも思ってるの?」
「こうして、私たちはここに居るって認めさせてやるわ」
「こんなことして姚国の人間が受け入れられると思ってるの? どんどん嫌われるだけだよ!」
破壊することが?
そんなこと、有り得ない。と思った。
言い争っていると、いつの間にか中庭に同じような面を被った姚国の人間が集まってきていた。
そして、報告通り魔物も数匹混じっている。
「同胞だ」「だが、仲間では無い」「カロラに味方するのか」 「そいつから手を離せ」
と、口々に私を非難するような声が上がる。
同じ場所で育ち、同じ場所へ逃げてきたのにこうも考え方が変わってしまうなんて。
そしてこうも思う。
あの時、ローレル様たちと出逢えたから、私は救われたのだと。皆は、ローレル様のような人に出会えなかったから、分かり合えなかったのだ。この国の人と。
だったら、今度は私がその橋渡しをしよう。
今の私なら、カロラと姚国を繋げられる。
「ねぇ、聞いて。もっと違う方法でカロラの人と関わりあえる。私たちはもっとお互いに認め合えるはずだよ」
私は華奢なその手首を離して、少女と向き合った。
私たちは対等だ。
だから、拘束せずにゆっくり向き合いたかった。
と、同時にどこからか馬の蹄の音が近づいてくる。
手筈通りだ、と私は振り向く。
やがて近づいてきた黒い馬。操っていたのは。
「お待たせ、シオン」
「とてもいいタイミングですよ、ローレル様」
さっそうと馬から降りたのは、ローレル様だった。
「まさか、この国の王子!?」
「あぁ、そうだよ。僕はローレル カロラ シオール。この国の正真正銘の王子だ」
堂々とローレル様は名乗り、少女は驚いたように数歩後ずさって尻もちを着いた。
まさか、ここに王子がいるとは思っていなかったらしい。私とローレル様を何度か交互に見ては言葉を失っていた。




