フロルを守るため
数日かかるフロルへの帰路を、休憩を最低限に走る。
馬の走る音だけが連なると、この軍隊がひとつの生き物のように感じた。まるで、ひとつの心臓みたいだ。足音はさしずめ鼓動、と言ったところだろうか。
私の心臓も早鐘を打っていた。
今もこの時、同胞たちがフロルを狙っているのだと思うといてもたってもいられなくなる。
と、その時甲高い歌声が聞こえてきた。
頭上を見上げると尾の長い白い鳥がローレル様の元へと降りてくる。ククルだ。
ククルは併走して、ローレル様の横を飛ぶ。
ふと、ククルの足を見ると紙が足に結ばれていた。
それに気がついたローレル様は、「止まれ」と隊列に声をかける。
列を乱さぬまま、各々周りの警戒をしたのを確認しククルを腕に止まらせて紙を解く。
開いた紙の文字を目で追っていたローレル様は、苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめる。
「やっぱり、やられた。国王の側近から連絡だ。今、北の方角から魔物を率いた何者かが進行、フロル付近で交戦。しかし、数名フロルに侵入したそうだ。そして、その魔物を率いているのは男、らしい」
それはいただけないですね、と顔を歪めたリーク様は悔しそうに呟く。
まさかの事態に、動揺は広がりかけた。
「落ち着いて。まず僕たちはこのままフロルに向かおう。北の方角なら僕たちは敵の背後を取れるはずだ。だけど、敵もそれは分かってるはず。だから隊を分散させる。リークはこのまま真っ直ぐ行って。僕は遠回りだけど西から回って反対側から攻める」
それでいい? とリークに確認を取るとはい、とだけ短く答えた。
「じゃあ、決まりだね。にして、シオン。君はフロルから離れて。姚国の人が気になるだろうけど、この事態は危なさすぎる。どこに居ても危険だから」
強い口調でローレル様は言うが、私は首を強く横に振る。
「嫌です。私も行きます」
覚悟は出来ている。どんなに危険かも分かっているつもりだ。だけど。
「みんなに、会わなきゃ。会って話をしなきゃ……こんなことしちゃいけないって」
だから行きます、と真っ直ぐローレル様の目を見た。一遍も逸らさず見ていると、リーク様はこの場に似合わず笑いだした。
「王子の負けですよ。彼女はとっくに決断しています。曲げるつもりもないと思いますよ。あとは、王子が覚悟を決める番」
「リーク……」
「それに、こんな森の中シオンを一人残すつもりですか? それこそ危険なのでは? どちらにしても危険ならば、身を呈して貴方が守ってあげれば良い」
「わ、私は…そんな」
つもりじゃない、と言いかけて口を噤む。
守ってもらおうなどと思ってはいなかったが、最終的にそうならざるを得ないだろう。
武術等の心得なんてないに等しく、足でまといになるのは確実だ。ローレル様や衛兵たちに守ってもらわなければいけない事態に必ずなる。
「ごめんなさい、迷惑をかけることになると思います。だけど……」
「いや、いいんだ。リークの言っていることは一理ある。ここでシオンを一人にして危険じゃないなんて言いきれなかった。ごめん」
ローレル様は頭を軽く下げた。
「行こう。シオンは絶対に離れないで。フロルを守ろう!」
おおお!! と衛兵たちがローレル様に答える。
そして、二手に別れそれぞれがフロルを守るため走り出した。




