懇願と命令
いつもより短いです。
でも、区切りはここがいい気がします。
だけど、ローレル様は無情にも情報を教えてくれた。
「今、その魔獣を使って姚国は我々に宣戦布告を仕掛けてきている。自分たちの待遇の改善を求めて。だけどそれは、とても悪手だと思っている」
拳を握りしめたローレル様は、私をまっすぐ見た。
「暴力に対して暴力を駆使しても、ただ溝が深まるだけだと思う。力をさらなる力でねじ伏せても、同じようにねじ伏せられるだけだ。いつかどちらかが倒れるまで」
「そうですね……。なら、止めなきゃ。皆を……」
争いが争いを呼んで、止まらなくなる前になんとしてでもこんなこと辞めさせなければいけない。
カロラの人達に、危害を加えるなんて。
爪がくい込みそうになるほど、強く手を握った。
「ローレル様、お願いがあるんです。私を、私を北の国境付近に連れていってください!」
ひとりで北の国境付近へ行く力なんてなかった。
そんな私が、北に行って何が出来るかなんて分からなかった。
ただ、成り行きを見守ることなんて出来なくて。
何かしなければ行けない衝動に突き動かされる。
足でまといになるかもしれない。
だから。
「北に着いたら私ひとりで、姚国のみんなを探します。私だけが出来ることがあるかもしれないから……だからお願いします」
と懇願することしか出来ない。
そんな私の肩をローレル様の手が優しく掴む。
まるで、労るかのように。
「大丈夫。僕も一緒に行くよ。それに元々、シオンに来てほしいって相談しに来たんだ。だから、シオンが行きたいって言ってくれて良かったよ」
そう言ったローレル様は優しく微笑んだかと思うと、すぐさま凛々しさを持った表情に変えた。
それはいつも私に向ける柔和なものでは無く、この国の王子としての矜持を感じさせた。
「出発は明朝。ハル シオン、君に北の国境付近遠征隊の騎馬隊の一員として参加してもらいたい。何か異存はあるだろうか」
硬い声に私の背筋は伸びる。
これはローレル様が王子として権力を用いて私に命令している。
その言葉に私は拒否権など持ち合わせていなかった。
だけど、断るなんて選択肢にまるでない。
私はその場で両膝をついて、頭を垂れた。
まるで祈りを捧げるようだ。
「そのご命令を承ります。私の方こそ、よろしくお願いいたします」
この姿勢はこの国の忠誠を示す姿勢だった。
かくして私は、ローレル様と共にリーク様がいる北へと向かうことになったのだ。




