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雑草少女と花の国  作者: 山名真雪
雑草少女と引き裂かれる絆
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暗い影と足音


市場の人混みをぬい歩きながら、指定されたものを買っていく。持ってきたカバンに買ったものを入れていくと、それなりの重さになった。


「あとは……岩塩だ」


これは人用ではなく、馬用のだ。

飼育されている馬は、ナトリウムが不足しがちなので岩塩を舐めさせたりして補う。

その岩塩が無いので、買いに来たのだが。


「ゴメンな、今売り切れちまってるんだ」


頭にタオルを巻いた店主が、手を合わせて謝ってくる。


「それは、仕方ないです。いつ、入荷予定ですか?」


すぐに、とは言わないが、いつ買いに来ればいいのか予定だけは立てておきたかった。それに、アシビさんにも報告したい。

しかし、店主は更にバツの悪そうな顔をした。


「それがなぁ……。当分入荷できそうにないんだ。実はな、ここだけの話」


と、私に耳打ちをし始めた店主に耳を傾ける。


「岩塩は北の国境付近の山から取れてるんだが、そこに山賊が出るらしくてな。最近、その連中が荷馬車を襲っているらしいんだ。今日入ってくるはずだった岩塩も、そのせいで届かなくてなぁ」


参ったもんだよ、と店主は頭を抱えた。

どうやら、そのせいで荷馬車諸共被害を受けているらしく、再起に時間がかかっているようだ。

岩塩が届くにはどれくらい時間がかかるか検討もつきそうにない。


岩塩が届かないのは構わないのだが、山賊に少し私は恐怖を覚える。北の国境付近はここからかなり遠い。

だけど、何かしら影響があるとこの賑やかな城下にも、暗い影を落としているように感じる。


これ以上、被害が出ないといいんだけど……。


「まぁ、そういう事だから、よろしく頼むよ。入荷したら知らせるからさ」


「分かりました。お願いします」


ずっとバツの悪そうな店主に、そう伝え店を離れる。

アシビさんにも相談が必要だろう。他をあたるのか、今後どうするか相談しないといけない。

買い物も終わったし、早く帰ってアシビさんに会おう。


カバンを胸に抱き、一抹の不安を抱えながら帰路を急ぐ。

城下を抜けて、城へと向かっている途中に人だかりが見えた。


「ねぇ、怖いわね」「本当ね」「外に出るのが怖いわ」


人だかりに近づくにつれて、口々に買わされる言葉が耳に入る。


「何かあったのかな……」


嫌な胸騒ぎがして、人だかりの隙間から覗くといくつかの荷馬車と運転していたであろう従者、そして近衛兵が見えた。


荷馬車はところどころ壊れ、荷馬車の帆は鋭利な刃物で切り裂かれ、従者も馬も傷だらけで戦闘を繰り広げた様相だ。

そして、その中心にリーク様が立っていた。


「リーク様!」


城に戻っただろうリーク様がここに居るのはただ事じゃない。

私は思わず声をかける。


リーク様は呼ばれたことで振り返り、人混みの中を探すように辺りを見渡して私を見つけた。


「まだ城下にいたんですね」


私の元に来たリーク様は、穏やかな様子だ。


「は、はい。リーク様は城に戻ったのでは?」


「そうなんですが、この有様ですよ」


リーク様は振り返り、荷馬車を見つめる。


「どうやらことは大事になってきているようです。私が動かなきゃいけないかもしれません」


そう言って、リーク様は私に向き直った。

考え込むような素振りを見せて、こっちにと人の輪から私を連れ出す。

人混みから外れたことで、こちらの声が聞き取れない距離をとる。

何か聞かれたくない事柄なのだろう。


「いいですか、これから私は北の国境付近に行かねばなりません。所謂山賊を討伐しないといけないので」


「そうなんですか……気をつけて」


討伐なら、危険を伴うだろう。どんな戦いになるか想像もつかない。けれど、身の安全は保証されないのは確かだ。気を抜けばただじゃ済まない。そんな戦地に赴くリーク様の身を案じた。


「ありがとう。それから……あまり口外できないのですがこれから城下に降りてこない方がいいです。少なくとも、山賊の討伐が終わるまでは。これは忠告です」


「忠告…… 」


「城の中なら、比較的安全だと思います。では、私はもう行きます」


戦地に向かうリーク様の目は本気だった。

それはこれから起きることに対し、国境付近から離れたこの城下にも影響が出ることを予見しているかのようで。


その場から私は動けなくなった。

賑わいを見せるこの城下を脅かす、何者かの足音が迫って来ていた。









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