星のブローチ
「お待たせ! ごめんね」
ハァハァと息を切らしながら目の前に来たローレル様はその箱をずっ、と私に差し出した。
「これは……?」
中身がなんだか分からず問いかけるが、ローレル様は頑なに開けてみて、としか言わない。
仕方なく受け取り、リボンを解く。箱の蓋をあけると綺麗なブローチが入っていた。どうやら真鍮製のものらしく、銀色に光っている。
「シオンに似合うかなって思って」
そう照れくさそうにローレル様は言う。
珍しく顔が赤く、少し自信なさげだった。
「これを私に……?」
この時間でローレル様は私を思って買ってきてくれたのだろうと思うと嬉しい気持ちが湧き上がる。
私に似合うと思ったこのブローチを、突き返す真似なんてできるはず無かった。
「ありがとうございます。大切にします」
箱ごと胸に抱き、ローレル様にお礼を述べる。
すると、ローレル様も安心したかのように、ほっと息を吐いた。
「少し、羨ましかったんだ。アシビがシオンに贈り物してて。僕も、何かシオンにあげてたくて」
どうやら照れ隠しで、ぶつぶつと呟くように言うローレル様。
「ローレル様……私、凄く嬉しいです。本当に。今付けてもいいですか」
「もちろん。なら、僕に付けさせて」
私はブローチを手に取ってローレル様の手の平に乗せた。
それをローレル様は壊さないように、私の帽子に結んであるリボンに付けた。
「これでよし。凄く似合っているよ」
「ありがとうございます」
帽子のブローチをそっと触れる。
こんな素敵な贈り物、生まれて初めてだ。
異性から送られる装飾品なんて、以ての外。それに、ローレル様から送られた贈り物だ。
大事に、大事にしよう。
「宝物に……します」
「そういってくれると、嬉しいよ」
自然と二人で見つめあって、じっと見つめられて照れくさくなる。
ふっと、視線を外した私の手をローレル様は握ってきた。
「シオン……」
なんだかドキドキして、名前を呼ばれただけなのに心臓がうるさい。
こんなにうるさくなることなんて、今まで無かったのに。
「何やってるんですか、ロイさん……?」
「うわぁっ!?」
甘い雰囲気を破った声に驚いたのは私だけではなく、ローレル様も同じだった。
ただ、叫ぶしか無かった私とは反対に、ローレル様はさも楽しそうに笑う。
「あ、みつかっちゃった」
なんでもないように言うローレル様と心臓がバクバクと嫌な音を立てる私。顔も熱く、息をするのも苦しいのに、ローレル様は余裕を見せた。
何も言えない私に変わって、ローレル様はその声の主、リーク様に詰め寄った。
「もう、邪魔しないでよ」
「ロイの仕事が沢山溜まっているから仕方ないです。無理を言わないでください。シオン、すみません。お借りしますね」
にっこりと笑ったリーク様に、ローレル様はやれやれと首を振った。
「ごめんね、シオン、また会いに行くから!」
「やれやれ、それは仕事が終わってからにしてくださいね」
少し残念そうに手を振るローレル様に、振り返ることも無く淡々と去っていくリーク様。
「はい、あの、またの機会に……」
その二人にただ手を振り返すことしか出来なかった。
でも、リーク様が来てくれて良かったなんて思ったら、ローレル様は怒るだろうか。
だって。
「あのままだったら、心臓が持たないよ」
去っていく小さくなっていく背中に、独りごちた。
「……私も早く帰ろう」
遅くなる前にアシビさんに頼まれた買い物を済ませて帰ろう。
よし、と気合いを入れ直して渡されたメモを開いた。




