孤児院の女主人
「夢……?」
夜明け前、夢の終わりと共に目が覚めた。
随分、昔の夢を見た頭はぼんやりとしていた。長く会っていない父の顔を思い出しながら、ぐぐぐっと固まった身体を伸ばす。
埃が舞う狭い部屋。いらない本や地図、聖書などが詰め込まれた倉庫が'私が与えられた部屋だ。
カロラ王国の首都の端、国境近くのロベリア協会。女神が映るステンドグラスが印象的な教会だが、長年この地に建っているためか植物のツタが巻きついた、雰囲気のある場所になっている。
そこは孤児院にもなっていて、複数の子供たちが共に生活を送っていた。私もその一人。
だけど、ただの孤児ではなかった。
「よし、今日も頑張ろう!」
自分自身に気合を入れるために、両頬を叩く。幾分目が覚めてくると、ハンガーにかけてあった着古されたワンピースに着替える。
白かった生地は黄ばみ、重ねてきた赤茶色エプロンはほつれて破れてしまっていたが、これが仕事をする時の服だ。
それから、赤いバンダナで黒い髪を隠す。
立てかけてある姿見で身なりを整える。
くるりと一周し問題ないことを確かめると、部屋の扉を開ける。
石造りの廊下は薄暗く、唯一灯りは揺れる蝋燭だけ。日が昇っていない今の時間帯では、ひんやりとした空気が流れている。
。
中に入ると直ぐにいくつものベンチが設えてあり、全ての向きかステンドグラスへ向いていた。ステンドグラスの手前には十字架と牧師―フォン・ベラドンナ、この教会の主が立つ祭壇がある。
その奥の隠れたようにある扉を開けると、孤児院へと続く廊下がある。そこから、パンのやける匂いがしてきて、私は急いだ。
キッチンへと着くと、白いエプロンをつけた女性が豪快に鍋を振る。
「遅くなりました! シャントリエリさん、すぐ手伝います!」
恰幅の良い腕っ節の強そうなこの人は、主の奥方―シャントリエリ・ベラドンナという。
この孤児院の母親役をしているこの人は、さしずめ孤児院の主だ。