誰かが呼んでる
「じゃあ……まずは朝市に行ってみようか! 軽くご飯を食べよう!」
はい、と私は頷く。
確かに、食事を摂っていないからお腹は空いた。色々あって忘れていただけで、こう自覚してしまうともう無理だった。
ぐぅぅ、とお腹が鳴る。あまりの音にお腹を押さえると、ローレル様は気を使って見て見ぬふりをしてくれた。
さっと、前を歩き行くよ、と声をかけてくれる。
私も、何事も無かったかのようにローレル様の一歩後ろについて歩き出した。
街は、さらに賑わいを増し、近くにいなければローレル様を見失いそうになる。
だけど、見失わないのはローレル様がちらちらと後ろの私を気にして、歩幅を合わせてくれているからだ。
それに有り難さを感じていると、不意に美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってくる。
いつの間にか、道の両脇に飲食系の露店が並んでいる。
サンドイッチやスープなどの軽食から、クレープなどの甘いもの、はたまたがっつり系の串焼きなどバラエティ飛んだメニューが所狭しと並んでいる。
まるで、お祭りか、といった様子に私は目を奪われた。
まぁ、姚国のお祭りはもっと質素などちらかというと儀式に近いものではあったけど……。
そんなことを思っていると、いつの間にかローレル様が目の前に立っていた。
その手には先程あったクレープが握られている。だけど、その中身はクリームや果物ではなく、代わりスクランブルエッグとレタス、ハムが挟まっていた。
甘いものでは無いそれに、私は目をパチクリとさせる。
「はい、これ。今、流行りらしいんだよね。片手で食べる朝食、って触れ込みが今どき、なんだってさ」
これ食べてみたかったんだよね、と一口食べたローレル様は目を見開く。
「これ美味しいよ? シンプルだけど中にオリジナルのソースが入ってて美味しい。シオンも食べてみなよ!
」
手渡されたクレープを受け取って、私もひとかじりする。すると、シンプルながらどこかフルーティなソースの味が相まって、美味しい。
思わず、表情が綻ぶ。
「美味しいです!」
「だよね、良かった〜、一緒に来て」
こうやって、ローレル様と笑い合う。
こうして、ローレル様と城下町で過ごしているなんて信じられない。
しかも、お忍び、と言うやつで。
でも、ローレル様もすごく楽しそうだ。
「こうやって、街の様子を見てるのは好きなんだよね。人々が活き活きしてるの見るとさ、頑張ってきた甲斐があるなって思って……」
人々の様子を眺めながら、ローレル様は優しく微笑む。本当に、この国を、人を愛しているんだなぁとひしひしと感じる。
「そうですね。私もそれは分かります。ローレル様やリーク様、この国の全ての人が頑張ってきた成果何でしょうね」
「……それだけじゃ、ないけどね……」
「……?」
どうしたんですか、と聞き返そうとした時、不意に背中に呼ばれた気配を感じた。
その気配は、鋭いと言うよりも私を恋しがっている、懐かしい気持ちにさせる。
まるで、手招きされているようなその気持ちに、胸を抑えた。
「な、に……? どこにいるの……?」
振り返り、私はその気配を探した。
誰かが私に会いたがっている、そんな気がしてしょうが無かった。
そして私も、その誰か、に会いたかった。
それが、誰かわからなくても、会いたい気持ちになった。
人の中に、その呼ぶ人を探したけどどの人ではないようだ。
「ここには、いないのね。今、行く……」
「どうしたの、シオン……!!」
私の耳に、ローレル様の声は届かない。
今は、立ち止まってはいられなかった。ここで無視してしまったら、もうその誰かは読んでくれないような気がしたからだ。
私は自然と気配のする方へ走り出していた。




