白亜の城3
優しい手つきで私に触れながら、そつなく消毒をしていく姿に、視線を私はさ迷わせた。
こんなにも他人に触れられたことはなく、この国の人にも初めてだった。
なんでこの国のこの王子は、こんなに私に良くしてくれるのだろうか?
「ローレル様、どうして、私にこんなに良くしてくれるんですか? 私は、カロラ王国では嫌われ者です。なのに、どうして……?」
その問いかけに、ぴくりとローレル様の肩が揺れた。ぱっと顔を上げたローレル様の表情が曇る。明るいいつもの笑った顔ではなく、どこか翳りのある暗い表情。
聞いてはいけないことを聞いたのかもしれない。そう思い、私は言葉を失った。どう取り繕えばいいのだろう。何か言わなければいけないのに、その言葉が出てこない。何かに触れてしまったことは分かる。触れてはいけないことを、触れてしまったから。
その間、ククルはベッドの柵に止まり、毛繕いをしたり、ちちちっと鳴いたり、私たちの様子を見ていた。
「……ごめん、なさい。要らないことを聞きました」
長い沈黙の後、やっとでてきた言葉は謝罪だった。
無理して、ローレル様が言いたくないことを言わなくてもいいように、私は頭を下げる。
言いたくないことは、言わなくていいのだ。それが、何かの傷になるのなら尚更。
そう、今のローレル様はとても傷ついたような顔をしていた。
それが、私がさせているのだと思うと、申し訳なくて、ローレル様から顔を逸らした。
膝に乗せていた手を強く握りしめて、私はその手をじっと見つめる。
やっぱり、ここに来るべきじゃなかったな……。とそう思った。
「あの、ありがとうございます。私、行きます。これ、返しますね」
首に下げていた、ローレル様から手渡された鳥笛を外す。無理やり押し付けるようにローレル様に渡して、部屋を飛び出そうと駆け出した。
「ちょっと、待って……!」
「は、離してください」
駆け出した私の手を、ローレル様の手が強く掴む。
振りほどこうと私は手を引くが、その強さがそれを許さない。
どうしよう、何か言われるのだろうか……?
「ごめん、黙って。なんて言ったらいいのか、分からなかったんだ。今はその……傍にいたい。君の、力になりたいそれだけなんだ」
ローレル様が言った言葉は、私を責めるでも、怒るでもない別のものだった。
ただ一緒にいたい、というローレル様の願い。
予想だにしていなかった言葉に、私はゆっくり振り返った。
ローレル様と視線がかち合う。
翳りのある表情は消え失せて、いつもの明るいローレル様がそこに居た。
「今は、それだけじゃだめかな?」
「……だめな、はずないです」
だめなものか、そんなことあるはず無かった。
私の力になりたい、と言ってくれたことはとても心強い。それに何より。
「ローレル様は十分、力になってくれました。じゃなかったら、今ここにわたしは居ないですから」
そう、あの教会から連れ出してくれたのはローレル様他ならないのだから。
十分すぎる程だ。あのきっかけが無かったら、私はいつまでも教会に囚われて決断も出来なかっただろう。それははっきり言える。
「本当に、ありがとうございます。ローレル様……」
そう言うと、ローレル様は笑った。
「それが本当なら嬉しいな」
ははは、と声を上げて本当に嬉しそうにローレル様が笑う。
白い歯を見せて、目を細めるその笑顔を見て私はあぁ、ローレル様の素はこの笑顔なのかもしれないと、この笑顔が絶えませんようにと、心の底から思った。




