表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック・ディヴィジョン  作者: 天一神 桜霞
第一章 悪魔の契約
9/31

⑧ 悪魔には内緒のひと時 ★

「おーい、クロ。聞いてるか?」

「え?ああ、なんだって?」

「まーただよ。お前、今日ずっとそんな感じじゃないか」

 翌日、温泉を後にして山道に向かって歩いていれば、プルに呆れられながら指摘された。

「そうか?」

「そうだよ!ボケーっとしやがって、そんなんでモンスターに襲われたら、また死にかねないぞ」

 注意力が散漫だと怒られてしまったが、内心それどころではなかった。

「やっぱり、昨日の女の子のこと…気にしてるの?」

 プルが昨日の件を掻い摘んでサリーにも話したようで、彼女は心配そうにしている。

 他の女の子との問題をあまりサリーに話すべきことではない気もしたが、俺は胸の内を正直に答えた。

「なんか、心にぽっかり穴が開いてしまったような気分なんだ」

「そっか…」

「それは、きっと恋煩いってヤツだな。人間は男も女も、初めての相手は特別に想うらしいから、お前もその口だろう」

「そう、なのかもしれないな…」

 恋、か…。

 思えば、今まで生きるのに必死で、愛だの恋だのに現を抜かしている暇は無かった。

 もちろん、サリーのようにかわいいと思う女性は今までもいた。

 けれども、それ以上何かを思っても、自分には縁の無い話だと無下にしていた。

「せめて、今まで通りくらいには、早くシャキッとしてもらわんと、こっちも敵わんが、この手の話は面倒だし、尾を引きそうだな」

 マコのことを改めて思い返すと、彼女の何を知っているわけでも無かったが、昨日の出来事はまざまざと脳裏に刻まれている。

 もし、昨日の彼女との出来事が夢だったというなら、あんなにリアルで生々しい夢はそうないだろうと思えるほどだ。

「なんとか治す手立ては無いの?」

「あるにはあるが、少々荒療治になるぞ」

 サリーとプルが何かを話しているようだったが、さほど気にもならず、昨夜の楽しいひと時を思い返し、想いを馳せていた。

「えっ!?…それで、本当に元気になるの?」

「ああ、間違いない。騙されたと思ってやってみろ」

「んぅ…分かったよ。今のクロムくんのまま、放っておくわけにもいかないからね」

 悪魔がサリーに耳打ちして、悪知恵を仕込んだらしい。

 しかし、当の俺には、全く聞こえておらず、幻想を夢見ていた。

「クロムくん、大丈夫?私ので良かったら、おっぱい揉む?」

 悪魔の策略により、俺の手は頬を赤らめているサリーの胸に押し付けられた。

「あっ、この感じ…」

 ボーっとしたまま、思い出深い感触が手のひらに蘇ると、徐にもう片方の手も伸ばして、その感触を再び堪能してしまう。

 しかも、それだけでなく、後ろに回り込んで改めて胸を触ると、今度は身体を密着させて彼女を求めた。

「きゃっ、あぅ…んっ、んぅっ…ク、クロムくぅん…」

 サリーが切ない声を上げたことで、意識がハッと戻り、自分が犯していた所業に気づいて、慌てて彼女から手を引いた。

「ご、ごめんっ!」

「クロムくん、意外と大胆なんだね」

 少し乱れた服を直す彼女から、頬を真っ赤に染めて言われてしまうと、余計意識してしまうんですが、それは…。

「…でも、お尻に固いの押し付けるのは、やりすぎだよぉ」

「え!?そんなことまでしてたの?」

 もはや無意識に身体が動いていたので、自分では全く気付いていなかった。

「うん。ビックリしちゃった」

「重ね重ね、お詫び申し上げます…」

「…ううん、驚いただけだから大丈夫だよ。クロムくんだって、男の子なんだし…その、そういう衝動に駆られちゃう時も、あるんだよね」

 サリーは気が気でない様子で、チラチラと俺の身体の下の方へ目を向けていた。

 彼女の理解と優しさが身に染みる…が、その優しさに付け込んで、他の男が良い様に利用しないか不安でもある。

「少しは気が晴れたか?」

「亡き人を想うのは、悪いことじゃない。でも、いつまでも引きずるのは良くない。お前まで霊界に連れてかれちまうぞ」

 珍しく良いことをいう悪魔の助言を受けて、少しは気持ちの持ちようが変わった気がする。

「ああ、気を付けるよ」


 改めて考えると、せっかく親密な関係になった女の子がすぐに目の前から姿を消したとは、実に惜しいことをしたと悔やみきれない。

 だから、ついこんなことを言ってしまったのかもしれない。

「サリーも、一緒に入るか?」

「…うん。そうしようかな」

「え?」

「えぇ~!?」

 男二人で驚いたのも至極当然。

 昨日に続いて、今日も道中で温泉を見つけて立ち寄ったのだが、あまりの閑散とした様子に冗談でサリーを誘ってみれば、思いもよらぬ結果を招いてしまったからだ。

 確かに、マコがこの辺りには、他にもいくつか温泉があると言ってはいたが、丸一日歩いて辿り着くような距離においてあるのだから、もはや旅の者が使うことを想定した場所に設けてあるとすら思える。

 しかし、そう都合良く温泉が湧くわけは無いので、おそらく偶然の産物だろう。

 ありがたくその恩恵を受けることとするが、サリーのおかげで更なる至福の時となろう。

 管理している人が住む村が昨日の温泉と同じだとすると、ここまでだいぶ距離がある所為か、こちらの方が規模が小さく、あまり手入れが行き届いているわけではないようだが、問題なく使えるだけありがたい話だ。

 本来、この温泉も男女別で利用するような作りになっており、男湯・女湯と区切られていたのだが、外から感じた通り、今度は完全に無人のようだ。

 少なくとも、男湯の方は。

 万が一の為、脱衣所も男湯の中も一通り見て回ったので、間違いない。

 ここで、誰か先客の一人でも居てくれれば、まだ引き返せたものの、自分から誘ってしまった手前、簡単に引き下がることもできない。

 早々に服を脱ぎ捨てて男湯にやってきた俺は、サリーを待っているのだが、待ち惚けていては身体を冷やしてしまいそうだったので、掛け湯だけして一度湯船に浸かることにした。

「ふぅ…」

 温かな湯に心が洗われるようで、木々が風になびく自然の音の中、束の間の穏やかな時を過ごす。

「お待たせ、クロムくん」

「うぉっ…」

 しかし、いざ彼女の声がして振り向いたら、あまりの光景に驚いて声が出てしまった。

 遅れて入ってきたサリーは、いつも下ろしていた長い髪を結っていたので、普段と少し違った印象を受けたが、もはやそれどころではない。

 その色白で美しい身体を白い布一枚巻いただけでそれ以上隠そうともせず、月明かりの下で、惜しげもなく披露しているからだ。

 見てはいけないものを見てしまったと感じた脳は、反射的に目を逸らさせた。

「どうしたの?」

「い、いや…あれ?俺が変なのか?」

 当の本人は、特に恥ずかしがる様子もなく、嬉しそうに微笑んでいる。

 マコも比較的平然と肌を晒した記憶があるが、もう少し照れはあったような気がする。

 俺が思っているより、女の子ってのは、もっとオープンな考え方をしているのだろうか。

「せっかくだから、背中流してあげる。ほら、こっち来て」

「お、おう…」

 湯船から引っ張り出され、また女の子に先導されて風呂椅子に座らせられる辺りデジャヴを感じるが、彼女の柔肌に時々触れてしまい、頭が混乱してしまいそうだ。

「ところで、プルはどうした?こんな状況なら、真っ先に来そうなものを…」

「えっと、実はね…」



「だぁー、もう!早く!行かないと!お楽しみタイムが、終わっちまうってのにぃ!」

 当の悪魔、プルは未だ脱衣所に幽閉されていた。

 先程、サリーが脱衣所に入った際に、悪魔の下心が見え見えで、そのいやらしい目で見られることが嫌だったため、彼を目隠しした上で縛り付けていたのだ。

「目隠しに拘束、放置プレイだなんて!喜んじゃいそうだけど、今じゃないのヨ!」

「ぐおぉ…もう、少しぃぃ…」

 妙なところで意外なチカラを発揮する悪魔は、この状況を見過ごせず、なんとか身体を捻ったり動かして、拘束から逃れようとしていた。

「よっ…し。あとは、目隠しを取って…さぁ、行くぞ!ウヒヒぃー!」

 強引に呪縛から突破したプルは、脱衣所と男湯を隔てる扉に向かい、彼の身体からすれば、大きくて重すぎる扉を開けようとするが、なかなか難しい。

「ぐぬぬぅ…くそぅ。あと少しなのに……ん?」

 一度落ち着いて辺りが静寂に返ると、何やら声が聞こえてきて、より一層耳を澄ませた。

「ここ、すごい固くなってるよ…」

「うほっ…!」

 悪魔は、普段聞いたことのない艶めいた女の声を漏らすサリーの言葉に聞き入ってしまった。

「あぁ…まあな」

「やっぱり異性と一緒の旅だと、何かと大変だよね?」

「いや、そんなことは…ない、とは言い切れないが、サリーに助けられてる部分もあるし、大変って事ばかりじゃないよ」

「そう?良かった」

「…あの、そんなことまでしてくれなくても」

「ううん、大丈夫。こういうことは一人だと処置が大変だろうから、私に任せて」

「まあ、そう言ってくれるなら、お願いするよ」

「うん。私が、いっぱい気持ち良くしてあげるからね」

 聞こえてくる言葉は、何やらいけない妄想が捗る内容だったので、悪魔はいたく期待を抱き興奮していた。

「なぁにぃ!?一体、ナニをしてるんだ!俺様にも、早く見せろおぉぉぉっ!!」

 火事場の馬鹿力ともいうべき身に余るチカラを発揮し、その身体の何倍もある重さの扉を開けて、ついに念願の光景を目の当たりにした。

「ふぁ?」

 しかし、彼の過度な妄想とは異なり、現実は腰掛けたクロムの後ろから、サリーが布一枚を巻いた姿で肩のマッサージをしているだけだった。



「お前ら、何やってんだよ。いや、むしろナニもやってないのかよ!?」

 プルが勢い良く扉を開けてやってきたと思ったら、突然怒鳴り出した。

「あーあ、萎えるわ。気分悪い。もうマッサージでもなんでも、勝手にやってろよ」

 そして、憤慨した悪魔は、もうサリーの裸どころではないようで、言いたいことだけ言って、ぷんすか拗ねながら、どこかへ飛び去ってしまった。

「何だったんだ?」

「さぁ…?」

 プルの動向を追うために振り返ったら、サリーと目が合ってしまった。

 彼女も同じように首を傾げていたが、特に気にしていないようで、にこやかに笑い直した。

「続きするから、前向いて」

「あ、ああ…」

 再び前に向き直って彼女のマッサージを受けるが、歩き通しなので、どうせなら脚の方もしてもらいたい。

 その旨を伝えると、彼女は快く返事をして、脚の方まで手を伸ばした。

「んっ…んぅっ…、こうかな?気持ちいい?」

「ああ、とっても」

 脹脛ふくらはぎの辺りまで手を伸ばそうとすれば、自然と身体を密着させるように押し付ける格好になり、背中越しに彼女の女性らしい膨らみが感じられる。

「んっ、ふふっ…良かった。そう言ってもらえると、嬉しいよ」

 それに加えて、耳元で聞こえる吐息が、次第に色っぽいものに変わってきたことにも興奮して血流が良くなり、自然に下半身へ血が集まっていくと、前を覆い隠していた布にテントが張られていく。

「ねぇ…、昨日の女の子には、どんなことしてもらったの?」

「え?いや、背中を流してもらっただけだよ…うん」

 さすがに女の子相手に明け透けに言うには憚られる内容だったので、言えずにいたが、プルの奴も同じように言わずにいたのだろう。

「背中を…こんな風に?」

 マッサージの手を止めると、今度は意図的に自らの柔らかいものを動かし、背中に擦り付けてきた。

 ふにふにと形を変えて伝わる確かなボリューム感は、目に見えないことでより想像を膨らませる。

「な、何故それを?」

「プルちゃんから聞いてたのもあるけど…クロムくん、さっきからずっと背中の方を気にしてるんだもん。分かるよ」

「そうか…そうですか」

 俺は、悪魔を買い被っていたらしい。

 奴には、配慮というものが無いようだ。

 でも、そのおかげでこうしてまた至福のひと時を味わえるのだから、これは一体誰に感謝すればいいのだろうか。

 最初にこんなことをしてくれたマコか、それを伝えたプルか、あるいは聞き及んだことを実行に移したサリーか。

 ともかく、この場を以って全員に感謝しておこう。

「こういうの、好きなんだ?」

「あぁ…はい。まあ、俺も男の子だから…さ」

 もはや処刑台に立たされて、死ぬ間際の最後の最後に良い思いをさせてもらっているような気分すら味わえる。

「サリーは嫌じゃない?」

「ううん、嫌ってことはないよ。でも、これ…私まで…ううん、何でもない」

 気になるところで言葉を濁した彼女は、ナニかに気づいて背中越しに俺の身に纏う布へ手を伸ばした。

「あっ…。こっちも、すごい固くなってるよ」

「お、おい…そっちは」

「男の人は、こうなると辛いんだよね?こっちの凝りも、解してあげよっか?」

 誘っているのか、ただの親切心か、はたまたからかっているのか。

 表情も窺えないため全く見当がつかず、なんと返事を返したものかと考え込んでしまうと、返事を待たずに、彼女はそのしなやかな手でスリスリと擦り始めた。


「ふぅ……」

 心地良い疲労感が温泉のリラックス効果と合わさって、眠気を覚えてしまうが、それ以上に何か満たされたような幸福感が大きかった。

「ふふっ、気持ちいいね」

 隣に腰掛け、満天の星空を見上げて入浴を楽しんでいる彼女もまた、柔らかな表情をしている。

 昨日までよりも、さらに大きく一歩距離感が近づいたようで、今は肩と肩が触れ合うほど密着し、お互い生まれたままの姿で寄り添い合っている。

「そうだな」

 初めて会った時は、まさか彼女とこんなに距離が近づくことになろうとは思いもよらなかったが、悪魔との出会いも含め、人生何が起こるか分からないものだ。

「でも、良かったのか?俺は気持ち良い思いをさせてもらったけど、あんなことまで…」

 ちゃっかり好意に甘えてから言うのも可笑しな話だが、ふと冷静になってしまうと、罪悪感を覚えてしまう。

「うん、そんなに気にしないで。気持ち良かったんでしょ?」

 誇らしげに胸を張る彼女の問いに、完全に同意した。

「本当に嫌だったら、さっきみたいなことも、こうして肩を並べることもしてないから」

「そうか…。それならいい」

 彼女の好意が身に染みるようで、優越感すら覚えてしまう。

「うん。でも、私もああいうことするのは初めてだったから、新鮮で楽しかった。クロムくんにも喜んでもらえたなら、何よりだよ」

「また辛くなったらいつでも言ってね。…私で良ければ、チカラになるから」

 ドキリっ。

 期待する目でそんなことを言われたら、またその言葉に甘えたくなってしまうではないか。

 そんな俺の葛藤を余所に、当の彼女は優しく微笑んで、肩に頭を預けるように、そっともたれかかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ