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ブラック・ディヴィジョン  作者: 天一神 桜霞
第一章 悪魔の契約
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④ 冒険者の心得

 翌日、サリーから愛想を尽かされないようにしなければ…と心機一転気合を入れ直して、次の依頼のための調査に向かった。

 朝起きて、すぐに誰かの姿が見えるのは、それだけで懐かしくて嬉しいものだが、それがかわいい女の子となれば、その喜びはさらに輪をかけて大きなものとなる。

 そんな気持ちのいい朝を共に迎えたサリーと朝食を軽く摂ってから、彼女に案内されて、図書館を目指し町の中を散策していた。

 しかし、すぐに目的地へ辿り着けるものだと思っていたのに、意外と歩き回っていて、雲行きがだんだん怪しくなってくる。

「あれぇ?この辺だと思ったんだけど…おかしいなぁ」

 彼女は思い当たる場所を回っているようだが、一向に図書館らしき建物が見えてこないので、自分でも不思議に感じているようだ。

「ここ、さっきも通らなかったか?」

「えぇ~?本当?」

 視界に入る道に沿って店を構えた家々も、先程見た気がするので、同じところをぐるぐると回っていたのかもしれない。

「なんだよ。この女、方向音痴か?使えねーなぁ」

 全く役に立っていない悪魔から辛辣な指摘をされ、その心ない言葉は彼女の心を傷つけてしまった。

「ゴメンね、クロムくん。私、案内できるって言ったのに…」

「そんなに気にしなくてもいいよ。あとは、二人で探そう。な?」

 こんな小さなことでも申し訳なく思っているようで、気落ちしている彼女の姿を見ていられず、俺は彼女の肩をポンポンと軽く叩いて励ました。

「うん…。ありがと、クロムくん」

 その甲斐あって、彼女の表情はだいぶ柔らかな雰囲気に戻り、落ち着いたようだ。

「プルも、あんまり虐めてやるな……っ!」

「へいへーい。善処しまーす」

 反省の色が全く見えない返事や態度をしている悪魔よりも、少しだけ身体が触れるくらいの距離で、寄り添うように肩を並べるサリーの方が気になってしまった。

 俺としてはあまり落ち着かないが、それでも彼女がこの方が良いというのなら、甘んじて受け入れるくらいの度量は、持ち合わせているつもりだ。

 この周辺にあるというサリーの情報を一応当てにしながら、再度探し歩き始める。

「サリーは、道を覚えるの苦手な方か?」

 藪蛇を突くような話だが、これは今後も支障をきたすことでもあるので、同じパーティの仲間として知っておく必要がある。

「うーん、実は…得意ではないかな。この町でも、お風呂屋さんとか宿の場所とかは覚えてたんだけどね」

「興味が無いとなかなか覚えられないって話は聞いたことあるから、サリーもそうだったのかもしれないな」

「俺も必要に駆られて、あちこち覚えておくようにしているだけだから」

「そうなんだ」

 冒険者である以上、何が自分の助けになるか分からないから、色んな事に注意しておく癖が身に付いた。

 あとは、一人で行動することが多かったから、頼れるのは自分だけなので、自分でどうにかするしかなかったのだ。

「まあ、役割分担ってことで、サリーは迷子にならないようにだけ気を付けてくれればいい」

「うん、わかった。気を付けますっ」

 そう返事をして、一瞬キリっとした顔を見せたかと思ったら、またいつもの朗らかな笑顔に戻った。

「あ、あれじゃないか」

 道を曲がった先に見えたのは、落ち着きのある雰囲気を醸し出す一軒の建物。

 その建物自体大きくはないが、他の建物と壁の色合いが違っていて、ちょっとオシャレな造りをしている。

 人気こそ多くないものの、それはどの町でも似たようなものだ。

 閑散としている方が集中できて、情報が頭に入ってきやすいので、その方が好都合でもある。

「そうそう、あそこだよ」

 彼女の記憶もあながち間違ってはいなかったらしく、浮き足立ったサリーが駆け出して手を引かれる。

「おっ、と。そんなに慌てなくても、図書館は逃げたりしないぞ」

 彼女に連れられて、ようやく目的地に辿り着くこととなった。


 図書館の館内は、外観を見て思った通り、そこまで広いわけでもなく、蔵書の数もまずまずといったところだ。

 王都にある王立図書館は、蔵書の数もこういった町の図書館とは比べ物にならないと聞いたことはある。

 しかし、今必要なのは、おそらくこの規模の図書館でも足りる情報なので問題ないだろう。

「ダンベルモ塔に関するものとヘビビンガー・マダダス・オーガスに関するもの、この二つを手分けして探すぞ」

「はーい」

 サリーも手伝ってくれるそうなので、それぞれ担当を分けて蔵書の中からそれらしいものを探していく。

 ある程度分類分けはされているようなので、塔に関しては歴史や地理、モンスターに関しても区分があるので、そちらで探せば何かしら収穫はあるだろう。

 本の背表紙と暫くにらめっこして、お互いに目ぼしい本を持ち寄り、閲覧用のテーブルに集合した。

「クロムくん、これ見て」

 意気揚々と掲げたのは、『ダン・ベルモと塔』という見ただけで当たりとわかるほど分かりやすい本だった。

 一回り小さい子供でも分かりそうな物であっても、サリーは自分の手柄を褒めて欲しそうに燦燦と煌めく笑顔を振りまくものだから、対処に困る。

「でかしたぞ、サリー。早速、中を確認してみよう」

「うんうん」

 もはや、子供や小動物を相手にする時のように頭を撫でてしまったが、それでも隣に座る当の彼女は上機嫌で一緒に本を覗き込んだ。

「えっと、なになに……」

 最初の印象通り、紛れもない当たりを引いたようで、ダンベルモ塔に関する様々な情報が掛かれていた。

 今からおよそ200年以上前、古の大戦争の時代にこの塔を建てる建設計画が始まった。

 塔の名は、その設立の発端となった者の名前、ダン・ベルモから名付けられたものだ。

 見張り台や灯台としても使用が見込まれて建設が始まったのだが、一見順調に思えた工事も途中豪雷に襲われ、最上階が半壊、その一つ下の階も一部壊れてしまう。

 今現在の街の家々(お城や城壁などの見張り台を除く)を見てもかなり高い建物なので、当時は天界の神の逆鱗に触れたと揶揄された。

 その後も、不定期に雷がよく落ちており、死傷者も出たことで計画は頓挫してしまう。

 半壊した塔を崩すにも手間や費用がかかる為、放置されることとなり廃墟となった。

 今現在は、この塔があることで、近隣の村や町に雷が落ちることが減り、避雷針としては役に立っているらしい。

 本に書かれていた情報を要約すると、こんなところだ。

「この情報からすると、随分古い建物みたいだけど、大したお宝ものは無さそうだな」

「そうだね」

「うーん…?」

 若干、期待外れの結果を受けて気を落とす二人の間で、一人だけ首を捻っている者がいた。

「どうした?」

「いや、ちょっと気になることがあってな」

「へぇ。ろくでもないことじゃなければ、聞こうか」

 こういう勿体付けた時、大概ろくでもない話であることが多いプルに釘を刺して促した。

「この塔はもう使われてないんだろ?だったら、なんでそこの掃除を依頼したんだ?」

「あぁ…確かに」

 誰も使っていない廃墟であれば、わざわざ依頼を出すのも変な話だ。

「近くに住んでる人達が、このモンスターたちに生活を脅かされてるとか?特にこのヘビ…なんとかってモンスター、結構強いんでしょ?」

「ふむ、その線が妥当だな」

「そう。だが、妥当だからこそ、闇ギルドに依頼した理由が分からんのだ」

 サリーの的を得た推理が真実だとすれば、プルの言う通り表のギルドに依頼を出せばいいはずだ。

「サリー。ギルドに行ったときに、これと似た内容のものは見た覚えあるか?」

「ううん、無いよ。こんな名前のモンスターが掛かれていたら、きっと目に留まるはずだから、間違いないと思う」

 彼女の言葉を信じるか、あるいはもう一度確認させるにしても、闇ギルドにだけ依頼を出したと仮定するならば、不審に思う点はある。

「なるほど。これが闇ギルドの依頼ってわけか」

 今回初めて闇ギルドに立ち入って受けた依頼だが、従来通りただ内容をこなせば良いというわけではなさそうだ。

 訳ありでこの依頼を出した依頼主の目的を汲んで取れれば、記載された報酬以上の報酬を得られるかもしれない。

「建設が頓挫してから随分時間も経ってる。だから、この一件を知らずに、この塔を利用していた奴がいるのかもしれないぜ」

「でも、不定期に雷が落ちる…とも書かれてる。こんな危ない所を好き好んで使う奴なんて、いると思うか?」

「うーん?普通はいないと思うけど…」

「逆にいえば、普通じゃない奴らが利用していたのかもな」

 人間からすれば普通じゃない存在の悪魔が言うと、妙な説得力があった。

「街から追い出されたり、国に追われていたり、要はならず者だな。そういう連中なら、いい隠れ家として使っていた可能性はある」

「町に戻りたくても、戻れないような輩か。なるほどな、一理ある」

「で、モンスターたちに襲われて追い出されてしまったから、その隠れ家を取り戻して欲しいってとこだろう」

「あぁ…だとすると、もしかしたらそいつらの置き土産が何かあるかもしれないな」

「へへっ、そういう事だ。塔についたら、あちこち念入りに探してみようぜ」

「あー、悪い顔してるぅ」

 金になる物が手に入ったりしないかな…と悪魔と二人で黄金色の未来を想像していたら、サリーから呆れるように指摘されてしまった。

「この顔は、生まれつき…でもないな。作り物だから、直りませーん」

 ふざけた顔や物言いをしているが、こいつは悪魔だからこそ、人の悪事に聡いのかもしれない。

「それで、場所はどの辺なんだ?」

「それなら、こっちの地図で見てみようよ」

 もう一冊持っていた本を広げると、この辺りの周辺地図が乗っていた。

 古くからあった建物だけあって、廃墟となった今でもその地図にダンベルモ塔の文字は刻まれている。

 おそらく、危険な場所だから、安易に立ち寄らないようにするための配慮でもあるのだろうが、今回俺たちはそこへ出向かなければならない。

「この距離なら、また3~4日歩かないと行けないな」

 もしかしたら、この塔の影響かもしれないが、近くを通る街道もなく、馬車も通っていないだろう。

「じゃあ、そのための準備もしないと、だね」

「ああ。あとは、例のオーガについてだな」

 そう思って、拝借してきた本を二冊三冊と開いてみたものの、聞いていた以上のものは、ほとんど得られなかった。

 強いていえば、名前の由来にもなっていることの一つが、死んでもなお毒液を吐き続けるということくらいで、一応留意しておくことではあった。

「こっちは、大きな収穫は無かったか」

 何か攻略する為のヒントでもあれば…と思っていたのだが、そういったものは特に見当たらず、落胆の息が漏れてしまう。

「毒が厄介なのは、事前に知っておくかどうかで全然意味が違うぞ。そのための薬を、多めに用意できるからな」

「まあ、そうだけど…それは元から知ってたから」

「クロムくん。毒なら、私も魔法で治せるから、ほとんど用意しなくても大丈夫だと思うよ」

 頼ってくれていいんだよと言わんばかりの視線を感じたが、実際回復魔法も使えるのだから、薬代が浮く分、経済面で地味に助かる。

 俺自身が回復魔法を使えないので、今までは薬任せだったが、回復系の魔法が得意な所謂白魔導師がパーティにいる利点の一つともいえるだろう。

「こういう言い方は、あまり良くないかもしれないけど、サリーがいると便利だな」

「ふふ~ん、そうでしょ?回復は任せてくれていいよ」

 ここ一番の場面で、随分と得意げな様子だ。

 余程、自信があるのかもしれない。

「なーんてね。本当は、ケガとかしないで済めば一番良いんだけど…」

 どうやら、ちょっとした茶目っ気を見せただけらしい。

 それにしても、回復魔法で役に立てるとはいえ、それが必要にならない方が喜ばしいとは、全く以って心根の優しい少女である。

「俺だって、痛い目に遭いたい訳じゃないからな。気を付けるよ」

 そうして、下調べは一通り終わったところで、本を元あった場所に戻して退散する。

 例のダンベルモ塔に向けて出発するのは翌日にすることに決まり、今日のところはそのための買い出しをする為に、再び町の中を歩き回った。

 夜は、昨日と同じ宿に泊まることになったのだが、やはり女の子と一緒の部屋で寝るというのは一日二日で慣れるものではない。

 一応、寝不足にならない程度には就寝できたので、旅路に支障が出るほどではなかった。

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