プロローグ
愛とは、何なのでしょう。
特定の相手を愛しいと思うことが愛情と言われたり、相手を大切にしたり可愛がることも愛の形とされています。
しかし、私の下を訪れた愛の体現者は、単に欲望に囚われてそれをぶつけたいが為にやってきた方たちばかりでした。
もちろん、彼らが愛を体現していたとは到底思えません。
他人に必要とされたり、好意的に思ってもらえるのは嬉しいことです。
ですが、それは私の何を以って好意的に捉え、必要と考えたのでしょうか。
恵まれた容姿に惹かれただけなのか、あるいは私個人を気に入って下さったのか。
その事実を知るのは怖いですが、多くはその人のだらしなく鼻の下を伸ばした顔を見れば分かってしまいます。
恵まれた容姿は私にとって唯一の誇れる長所であると同時に、黙っていても災厄を招くことから生まれ持った罪とも言えました。
同性には嫌われ、異性には嫌らしい視線を向けられ続ける日々。
その耐え難い日常も、魔法の師の助言によって少しは変化が訪れました。
光ある未来を手放して薄暗い闇の世界へ踏み出すには勇気が要りましたが、自分が自分である為と思えば不可能なことではなかったのです。
しかしながら、私が新しい生活の中で様々なことを知っても、それだけは知り得ることがありませんでした。
そう、私はまだ――愛を知らないのです。




