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ブラック・ディヴィジョン  作者: 天一神 桜霞
第二章 焦土の魔女
14/31

② 惹かれ合う者たち

「ふぁ~ぁ…、ねみぃ…」

「今度は寝すぎなんじゃないか?」

「あぁ…、そうかもな……」

 誰よりも早く寝て、誰よりも遅く起きた怠惰な悪魔は、一番ゆっくり寝られたはずなのに、人目も憚らず大欠伸を掻いている始末。

 とはいえ、その怠けっぷりのおかげで、サリーと一緒のベッドで寝ていたことも知られずに済んだ経緯もあり、呆れるべきか安堵すべきか悩ましい所だ。

 きっと、先日に続いてサリーと仲良くしっぽり過ごしていたことを知れば、とやかく言われることは目に見えているので、その行いに喜ぶべき側面もある。

 ただ、それなら、そもそも関与してくれなければいいのではないかと、根本的な問題にも立ち返るが、相手は悪魔なのだ。

 誠実、清楚とは無縁な悪魔にそれを求めるだけ無駄というもの。

 当事者の片割れであるサリーは今朝も暢気なもので、夜の顔を感じさせない晴れやかな素振りをしていた。

 宿を後にしてから、明るくなった町を改めて三人で探索していると、道中でギルドを見かけたので、彼女とはそこで一旦別れて、そちらで新たな依頼を探すように頼んでおいた。

 そして、俺たちはというと、この町のアングラにいる商人へ例の届け物をする真っ最中である。

「その姿なら、昼間に眠いのはなんとなく分かるけど、夜にしっかり寝てんだから、世話ないな」

「うるせぇ。俺様は悪魔だから、惰眠を貪るのも普通なんだよ。それより、ちゃんと場所は分かってんのか?」

「あぁ、多分な」

「それなら良いが、どこもかしこも似たような色の建物ばっかで、迷いそうだぜ」

 今まで見てきたバラマンディ王国の町並みと違い、ここマルーンの町はサンドカラーが一面に広がっていて、どの家も似たような色合いで建てられている。

 レンガ造りや木造建築が多かった前者とはまるで違っていて、別の国まで来たのだと改めて思い知らされる光景でもある。

「確か、青い尖った屋根の塔が目印って言ってたから、あれじゃないか?」

「あー、ぽいなぁ。赤い尖った屋根とか、青くても丸っこい屋根ならあるが…他にそれっぽいものは無いし、そうじゃね?」

 建物と建物の間や路地から見える青い屋根を目指して歩き、たいぶ近くまで来ていたので、その高さもより迫力を増して見える。

 疑い深い悪魔が、パタパタと真上に飛んで建物の上から辺りの様子を探っていた。

 ある程度風魔法を使えれば、こういう時ひとっ飛びして似たようなことができるが、俺にはその適正が無い為、こういう時プルの翼が重宝する。

 コウモリのような姿をしているだけで、中身は別世界にいる悪魔だと自称する彼でも、その見た目通り飛ぶことはできるので、一役買ってもらったというわけだ。

「あー、ちかれた」

「何言ってんだ、ちょっと飛んできただけだろ? これからアングラに行くんだから、お前も目を光らせておけよ」

「俺様、光魔法使えないから、目をピカピカでぎませーん」

「はいはい、用心してお前に頼んだ俺がバカだったよ」

「まあ、そういうこった。ほら、キリキリ歩けよ」

「お前な…。あっ、肩に乗るのはともかく、鼻くそほじるな! 汚ねぇだろ」

「そんくらいで一々騒ぐなよ。ほら、もう奴さんがお待ちだぜ」

 塔といえば、高い場所から辺りを見渡し、その様子を窺う用途が主なものだ。

 無意識に上ばかり気を取られてしまう場所に地下への通路があるとは、アングラを作った者もなかなか良い性格をしている。

「そこ、通してくれないか?」

 塔の入口には、暇そうにしているやせ細った男が待機していた。

 裏社会にいるようなガタイが良い輩のイメージとはかけ離れた見かけをしているが、その虚ろな目は常人のものではない。

「悪いが、ここは立ち入り禁止だ。塔に用があるなら、他を当たってくれ」

「下に用があんだよ」

「あぁ…?」

 その一言を聞いた途端、素っ気なくあしらった彼から値踏みするように視線を送られた。

「それなら、こっちだ。早く行け」

 塔への入口を塞いでいた彼が避けると、そのまま扉を押して中へ入った。

 その内部は、天辺の裏側が見えるほどぽっかりと空いて吹き抜けており、なかなか開放的だ。

 塔といえば、ダンベルモ塔を思い出すものの、あそこほど大きくはないが、閑散としているのは同じだった。

「上へ繋がる階段もあるが…、これか」

 中央に建てられた謎の石像の裏から、螺旋階段の裏手に回り込めるようになっており、そこから地下へ螺旋状に階段が続いている。

 石像と螺旋階段の手すりによって、入り口からは見えにくくされているらしく、万が一間違えて子供が入ってきても、真っ先に階段を上がるばかりで、気づくこともないのだろう。

「あぁ…匂う、匂うぜ…。欲望に塗れた人間の匂いが、プンプンしやがる」

「じゃあ、間違いなさそうだな」

 一段下りる度に薄暗さを増していく階段は、まるで日の光が届かず、壁に備え付けられた小さな明かりだけが頼りなものだ。

 階段を下りきった場所にある扉を開けると、そこには見覚えのある怪しげな光景が広がっていた。

「どこの町も似たようなもんなのかな」

「さぁ? それは分からんぜ。とりあえず、その荷物を届ける相手を探さないとな」

 地上は真新しい町並みが広がっていたのに、地下ではそう変わらないというのも不思議なものだ。

 国の特色が変わっても、人の求める欲望は似たようなものなのかもしれない。

「ギルドは…、後で良いか。で、隣は…普通の酒場みたいだが、胡散臭いことこの上ないな」

「よく見ろ、どこが普通だよ。今の奴ら、奥に入って行っただろ? あれ、多分個室だろうな」

「昼間からコソコソ酒飲んで、何やってんだ?」

「裏でしか取り扱ってない情報でも仕入れてるんじゃないのか? もしくは、表立ってできない打ち合わせや取引なんかだな」

「なるほど。同じ酒場でも、ここにあることで意味がだいぶ変わるわけか」

「そういうこった。…おっ、あの辺じゃないか? なんかまた妙なもんが、色々並んでるぜ」

 あの店では、地上で出回っている同じ酒でも、値段がだいぶ違いそうだと余計な心配をしつつ、奥にある商店へ足を運ぶ。

 そこには、モンスターから剥ぎ取った素材を売っている店はもちろん、またよく分からない薬を売っている店もあった。

 そういえば、ハダルのアングラで出会った店の男は、あれから一儲けできたのだろうか。

「オスニエルってのは、あんたか?」

「ああ、その通りだ。もしかして、ハダルからのお使いか?」

「そういうことだ」

 三件目にして、ようやく届け先の男を見つけた。

 そいつの店では、白い粉を包んで売っていたが、中身もよく分からない物な上に、値段も相当なものだった。

「報酬は、あんたから貰ってくれって言われてる」

「ああ、話は聞いてるぜ。…ところで、この町に入る時、何かあったか?」

「いや…? 普通に入れたはずだが…、それがどうかしたのか?」

「ふぅん…、それなら良いんだ。取り決め通り、報酬として銀貨3枚を払おう」

「3枚? 俺は、銀貨4枚と聞いていたんだが?」

「なに…?」

「嘘だと思うなら、ハダルで貰った契約書も念の為に持ってきたから、見せてやろうか?」

「ああ、ちょっと見せてくれ」

 荷物を渡す前に、くたびれた契約書を渡してやると、彼は何度も何度も確認し、目を見開いて穴が開くほど見ていた。

「…確かに、相手の名前も向こうの闇ギルドの承認も本物だ。あの野郎…、この間の腹いせか?」

「あんたらの揉め事は知らないが、払う物払ってもらおうか」

「はぁ…、全く仕方ないな。ほらよ、銀貨4枚だ」

「ん、確かに。これが頼まれた荷物だ。ちゃんと渡したからな」

「一応、中の確認をしても良いか?」

「それは構わないが、見ての通り封をされたまま一度も開けてないからな。それ以上のことは知らないぞ」

 どうやら、予定外の出費に業を煮やしているようだが、俺までとばっちりを受けたら堪ったものじゃない。

 丁寧に封を切って、中身を取り出して見せた男は、念入りにブツを確認していく。

「こっちは問題なさそうだ。もう行っていいぞ」

「そうかい。じゃあな」

 用が済んだ途端、対応が変わって素っ気ないものだが、裏社会での取引なんてこんなものなんだろう。

 そういう意味では、この間の薬屋の男はまだマシだったのかもしれない。

「とりあえず、無事に事が済んで良かった…。お前が興味本位で開けてたら、もっと話がこじれてただろうし、あの時止めといて正解だった…」

「そうか? 俺様は、全く逆の感想を持ったぜ。あの時開けてれば、もっと儲かったかもしれないってな」

「あの白い粉、そんなに値が張るのか? さっきの店でも、かなり高かったけど…」

「あぁ、その筋の奴からすれば、喉から手が出るほど欲しいものだからな。場合によっては、いくらにでも釣り上げられるぜ」

「そうなのか。ちょっと惜しいことをしたかな…?」

「まぁ、あの手の物は、ちゃんと捌けるルートが無いと、持ち腐れになっちまうからな。今のお前には、ちょっと不相応だったみたいだし、ちょうど良かったのかもしれねぇ」

「ふーん…。なんだかよく分からんが、気を取り直して次の依頼を探すか」

「そうだな。もう済んじまったことを、うだうだ考えてても仕方ねぇし。その方が賢明だぜ」

 先程の闇ギルドがあった場所まで戻ると、依頼書が乱雑に貼られている殺風景な壁の前までやってきて、一つ一つ目を通していく。

「なんだかパッとしないもんばっかだな。どいつもこいつも、報酬がシケてんぜ」

「割のいい仕事ばかりじゃないってことだな」

「まぁ、こんなところに来る奴なんて、表のギルドにも顔を出せねえような連中だろうからな。金が貰える手立てがあるだけ、マシってもんなのかもしれねぇ」

「結局は、地道にこなしてくしかないか…」

「…いやぁ? そうでもなさそうだぜ」

 いやらしい笑みを浮かべた目ざとい悪魔は、一つの張り紙を指していた。

「なになに…、この町を拠点にしているならず者の集団『カッシタイト』から腕輪を取り返して欲しい、と。そんで、肝心の報酬は…銀貨10枚か」

「さっきのお使いの倍以上あるぜ。やることは単純で分かりやすいし、これで良いんじゃねえか?」

「まあな…。内容自体は失せ物探しで、こういった輩や盗賊に盗まれたってのも、よくある類の話だ。でも、これだけ報酬を懸けるってことは、よっぽど大事な物なんだろうな」

「あるいは、それ以上の価値がある貴重な腕輪なのかもしれないぜ。そのままパクっちまうことも考慮すれば、なかなか旨そうな話じゃねぇか?」

「…考えがあくどいと思ったが、そういえば、お前はそういう存在だった」

「へへっ、褒めんなよ。照れくせぇ」

 全く褒めたつもりなど無かったのだが、当の本人は気を良くしてしまったようだ。

「問題は、相手の規模と今の俺たちで倒せるのかどうかってことだが…」

「まあ、町の規模から考えて、アホほど数がいるとも思えないし、冒険者として活動してるわけでも無いなら、高が知れてるんじゃないか? それだけチカラがあれば、そんな生き方をしなくても、十分生きていけるだろうからな」

「確かに、その考えは一理あるな」

「とりあえず、受けるだけ受けて、サリーの奴にも相談してみるといいさ。どっちにしろ、これだけの報酬をみすみす見逃す手は無いぜ」

「そうするか」

 悪魔の考えに乗って、薄汚れた張り紙を引っぺがすと、受付の窓口まで持っていく。

「これ受けたいんだけど、このカッシタイトについても教えてくれないか?」

「あらぁん? 若い男の匂いがするわぁ」

「んげっ!?」

 てっきり、またガラの悪い女が受付をしてるのだろうと思っていたが、よく見なくてもむさ苦しいムキムキのおっさんだった。

 さらに見苦しいのは、その鍛えられた肉体よりも、褐色肌の上に分厚い化粧をしているからに他ならない。

 汗臭いおっさんの体臭に、化粧品独特の匂いが合わさって、目だけでなく鼻からも毒されていくようだった。

「んもぅ、そんなにフードを深く被って恥ずかしがらなくてもいいのよぉん。オネエさんが、優しく教えてアゲルんだからぁ」

「うへぇ……」

「こいつは、ほんまもん奴や。クロ、生理的に受け付けないのは分かるけど、めげるな! がんばれ!」

「それで、カッシタイトについてだったかしら? それなら、お兄さんには特別価格…銀貨1枚でいいわよぉ」

「たっか! むしろ、値段盛ってやしないか?」

「そうよぉ、だって特別だもの…、うふん。それに、彼らの情報を売るのは、どうしても高くついちゃうからねぇ」

 これから事を交える相手の情報は知っておきたいが、昨日のケバボ20個分と換算したり、以前は一日の稼ぎで銀貨1枚にも満たなかったことを考えると、なかなか簡単には出せるものではない。

 やはり、闇ギルドでの情報収集は高くつくと改めて実感したところで、まずは他を当たってみる方が堅実だろう。

 ここで情報を得るのは、最終手段として考えた方が良さそうだ。

「それなら、聞くのはやめておこう。でも、その依頼は受けるぞ」

「あらら、残念ねぇ。…そうそう、報酬は直接依頼主が渡してくれるそうだから、目的の物が見つかったらいらっしゃい。すぐ依頼主と連絡を取ってアゲル」

「あぁ…、分かった」

「もちろん、そうじゃなくても、また情報を聞きたくなったりしたら、いつでもいらっしゃいな」

 できればそうならないように願いたいと心から思いながら、早々にその場を後にした。



「あっ、クロムくーん!」

 これまでにない強烈な受付嬢(?)と出くわしてしまったアングラから地上に戻り、ギルドで別れたサリーの下へやって来ると、彼女もこちらを見つけて駆け寄ってきた。

 昨日一昨日と、随分世話になったことから、彼女の目を直視しづらい心境にあったものの、一服の清涼剤みたいにも感じられる笑顔を見ると、先程の気持ち悪さも含めて吹き飛んでしまった。

「その様子だと、良い依頼を見つけたみたいだな」

「あ、分かる? ふふっ、今回の報酬はすごいよ」

 まだ何も得られてはいないのだが、既に自分の手柄とばかりに誇らしげな様は、なんだか微笑ましくて穏やかな気持ちになれる。

 さっきまで、アングラのおどろおどろしい人間の闇や欲望が集まったような場所にいたので、まさに天国と地獄といえるほどの差を思い知らされるばかりだ。

 また、それと同時に、やはり彼女をあそこへ連れて行くべきではないと、改めて感じた。

「こっちも一応見つけてきたけど、先にそっちを聞いておこうか」

「うんうん。えっとね…」

 本当は、こんなギルドの近くで立ち話せず、ゆっくり腰を据えて話した方が良いと思ったのだが、早く聞いて欲しそうに目を輝かせている彼女を見てしまったら、そういうわけにもいかなくなってしまったのだ。

 とはいえ、実際俺も気になったので、お互い様ともいえる。

「簡単に言うと、とある貴族からの依頼で、『ハドウの腕輪』っていうのを探して欲しいんだって。報酬は、なんと金貨1枚!」

「金貨!?」

「うひょー!」

「でしょでしょ? やっぱり、驚くよねー」

 驚きのあまり大きい声が出てしまい、行き交う人々の目が一瞬こちらに集まった。

 しかし、それも僅かな時間だけで、すぐに気にした素振りを見せず、各々の向かう先へ歩いて行った。

「でも、それだけ高いのにも理由がありそうなんだよね。他の冒険者も、何人かこの依頼を受けたらしいんだけど、未だに解決されてないみたいだから…」

「この町一帯だけでも、なかなか広いからな。探すとなれば、手掛かりが無いと大変だろうし、外まで出ていたら、もう手掛かりすら掴めなくなっても不思議じゃない」

「金貨が懸けられている分、探すのが大変ってことかな…?」

「あぁ。ハドウの腕輪ってのに聞き覚えは無いが、値打ち物だとすると、余計狙う輩は多いだろうし」

「んー? その人、腕輪を盗まれたようなことも書いてあったから、もうどこかのお店に売られちゃってたりするのかなぁ?」

「盗まれた…?」

「うん。確か、依頼の張り紙にそう書いてあったよ?」

「ははーん。クロ、どうやら俺様たちが受けてきた依頼も、関係ありそうじゃねーか?」

「どういうこと?」

「俺たちが受けた依頼も、似たような感じだったんだよ。カッシタイトっていうならず者の集団から、腕輪を取り返して欲しいって」

「カッシタイト…。ああっ! それなら、私もさっき受付の人に聞いたよ。この町のスラム街に住むならず者たちの一派で、『シュメーラム』って同じような組織と対立してるんだって」

「へぇ、そっちは初耳だな」

「そうなの? なんでも、この町のスラム街は、その二つの組織が縄張り争いしてるらしくって、仲が悪いみたいよ。だから、そっちの方へ迷い込まないように気を付けてって言われたから」

「だとすれば、もしかしたらこれは…、意外と簡単に見つかるかもしれないな」

「クロムくんたちが受けた依頼の腕輪が、ハドウの腕輪かもしれないってこと?」

「そういうことだ。カッシタイトの連中が貴族から腕輪を盗み、その腕輪に何らかのチカラが付与されているなら、対立しているシュメーラムとしても、それを面白くないと思っているんだろう」

「だとすると、もし腕輪をカッシタイトの人から返してもらったとしても、どちらかにしか渡せないから、報酬も片方しか貰えなさそうだね」

「こっちの依頼は銀貨10枚だから、ギルドに渡して金貨を貰った方が、利益としては倍になる」

「ふむ…、なかなか悪くない推理だ。まあ、凡人としては、だがな」

 珍しく黙って聞いていたかと思えば、悪魔は不敵に笑いだした。

「じゃあ、お前の考えとしては、どうなんだ?」

「貴族から腕輪を盗んだのは、シュメーラムの方さ。だが、対立するカッシタイトの連中に奪われ、為す術もない。もし、腕輪に何らかのチカラがあるなら、尚更だぜ。それを持った状態で奪われてるんだから、無くなった現状で取り返せる手立てが薄いのさ」

「だから、闇ギルドにこんな依頼を出した。そう考えると、筋が通るだろ?」

「なるほど。プルちゃんの意見も、的外れじゃなさそうだね」

「そうか? そもそも、以前から対立してて未だに縄張り争いが続いてるなら、お互いの戦力は均衡してると考えた方が自然だ。なのに、それを一方が奪えるなら、もう一方も奪い返せる可能性はありそうなものだと思うんだけどな…」

「へへん。クロ、悔しいのは分かるが、俺様の悪魔的推理を認めろよ。まぁ、もしこの考えが当たっていても、それはそれで別の問題があるんだが……。あぁ…、そこまで見通してしまう自分の才能が恐ろしい…」

「おい、プル。自分に酔ってないで、その別の問題って奴を早く言えよ」

「まあまあ、そう焦るなって。悪魔である俺様に掛かれば――」

「あなた、随分いい趣味をしてるのね。コウモリの使い魔なんて、初めて見た」

 人通りのあるところで、大っぴらに悪魔と言うべきではない。そう釘を刺す前に、一人の魔女がすぐ傍まで近づいていた。

 闇を秘めし魔女の瞳は、真っ直ぐに彼を捉えて離さずにいる。

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