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デビルズ・レヴェル  作者: 夜多柄須
第一章 『悪魔憑き』
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第七話 『猿芝居』


 シーナとサラは、王宮の応接室にてグレースの弟であるダイスに会っていた。


「本当にシーナ様のようなお美しい方があの兄上に惚れていると?」

「ええ。私はグレース様の包容力に惚れているのです。複数人もの女性を同時に愛してくださるなんて、とても度量が大きいではありませんか」


 ダレスとは、グレースと三つ離れた兄弟であり、肉ダルマと評されている兄とは対照的にガリガリであった。

 ただし、対照的なのは体型だけであり、その性根は似通っていた。


「そんな! 私は兄のそういうところが嫌いなのです! シーナ様、あなたは美しい。よく考え直し下さい」


 一見シーナを案じたようなダイスの発言であったが、サラには美人には誰にも媚びへつらう男にしか見えなかった。その証拠にダレスは外面は完璧だが、裏では悪い噂が絶えない。

あの兄をも超える評判を残せないのですから、やはり何か良からぬ点があるのだろう。シーナは政界の醜さに慣れていた為、笑顔でやり過ごしており、サラは早々にこの場から去りたかったが、計画のためとグッとこらえていた。


「にしても遅いですね。もう約束の時間を過ぎているようですが」

「そうね。私は早く会いたくて仕方がないというのに」


(あなたのは早く旅に出たいの間違いでしょうが)


 サラの内心のツッコミも当然気づかれることはなく、まだダイスと話さなければならないのか、辟易していたところに一人の黒装束の男が現れた。


「お待たせしてしまい、誠に申し訳ございません。グレース様の準備が出来ましたので、シーナ様はこちらへどうぞ。従者の方も別室にご案内致します」


 その黒装束の男は、この王宮で見かけた誰よりも侮れない足運びであり、かなりの手練れであることが予想された。

 サラが底知れぬ不安感に襲われ、相手に悟られないように暗器に手をかけるのと対照的に、シーナは満面の笑みを浮かべていた。


「いえいえお気になさらず。それではサラ、行って参りますね」


 楽観的に振る舞う主人の姿に一抹の不安を覚えながらも、サラは神妙な顔つきで見送った。


「ご武運を」


(その言葉は変だろ)


 グレースの従者に化けたルキはサラの警戒に気づいていないため、心の中でツッコまずにはいられなかった。


 ルキはシーナをグレースに変装したレブンが待つ部屋へと案内するために、先頭に立って歩き始めると、シーナから質問が飛んできた。


「貴方は、この王宮に勤めて何年になるのですか?」


 いきなりの質問にもルキは動じることなく、冷静に答える。


「先月で二年になりました。まだまだ未熟な身であるため、失礼があったら申し訳ございません」

「いえいえ、お気になさらず。私も未熟な身でありますから」


 質問の意図が読めず、ルキは脳内で思考を巡らせる。


(一体何を聞きたいんだ……?)


「先ほどの応接室でのやりとりを少し拝見しておりましたが、とても品行方正な方とお見受けしております」

「あら、それはお恥ずかしい。貴方に見られているのならもう少し取り繕うべきでした」


(貴方に見られているのなら?)


 ルキがその発言の意図を理解する前に、目的地に辿り着いた。


「ここは、訓練所ですか?」

「はい。グレース様はお強い女性を好まれるので、是非実力を知りたいと」

「てっきり寝室に呼ばれるとばかり思っておりました」

「ははは、そこまで節度のない方ではないですよ」


(その予想は間違っていないのだが)


 昨晩、ルキたちがグレースを攫った時、彼は自分の寝室を丁寧に装飾している最中であった。特に気色が悪かったのは、ローションのストックを念入りに数えていたところだった。


「う、ぷ……」

「大丈夫ですか? ご気分がすぐれないようですが……」

「すみません。少々不快な場面を思い出してしまって」

「あら、それはお気の毒に」


 シーナに背中をさすられ、少し落ち着きを取り戻すと、ルキは(今更だが)取り繕って背筋を正した。


「では、ここでグレース様をお待ちください。きっと良い時間を過ごされることでしょう」

「ええ。期待しておりますわ」


(お待ちしておるのは別人じゃがな)

(お手並み拝見といこうか)


 ルキは秘めたる思いを抱え、訓練所の扉を閉めた。


(一体なんの遊びでしょうか?)


 シーナは先程の男の正体がルキであることを見抜いていた。その上でこれも何かの作戦かと思い黙って付き従っていたのだが、訓練所に連れて行かれることは予想の範疇を超えていた。


(もしかするとルキに寝室に連れていかれるのではなんて、はしたない想像を、少しでも考えてしまったことは、墓まで持っていくことにしましょう……)


 シーナが羞恥で顔を少し赤ていると、程なくして訓練所の扉が開かれる。

 そこにいたのは、私貴族デスヨという格好で立っていたレブンであった。シーナはグッと笑いをこらえる。


「やあ、シーナ殿。おまたせしてすまないねぇ」

「ええ。大丈夫ですよ、レブン。まだ5分も待っていないので……プフッ」

「そうかい。なら良かっ……今なんと?」

「?  5分と待っていない、ですか?」

「おおそうかそうか。聞き違いだよな、うん。では早速だがシーナ殿にお願いがある」

「なんなりと。とりあえずお互い衣服を脱ぎましょうか?」


 レブンの猿芝居に必死に笑いを堪えながら、シーナは鎌をかける。


「は!? いや、げふんげふん。えー、そんなはしたない真似は私は好まないのだよ。それはまた後の楽しみにしておこう」

「かしこまりました。お恥ずかしい提案をしてしまい申し訳ございません」


(あら、レブンったら随分と真摯な方ですね)


「うむ、許そう。ではまず私は魔術に秀でた女性が好みでね。是非手合わせを願いたい」

「手合わせですか?かしこまりました」


 そういわれてシーナはルキとレブンの真意を理解した。要するに彼らは私いや、私たちの実力を図ろうとしているのだ。


(レブンもルキと共に旅をした仲間ですし、私も全力でかからないといけないようですね)


「うむ。遠慮は要らないぞ。こう見えて私はなかなかの腕前だからね」

「存じておりますよ。お手柔らかにお願いしますね」

「じゃあ、行くよっ!!」


 もはや貴族であることを全く取り繕えていないレブンに苦笑すると、開戦の合図を経て訓練所で模擬戦が始まった。


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