第25話 償い
平頭は東谷の渾身の一撃を喰らってしまった。
平頭『グォオオ!!』
凄まじい雄叫びを上げながら
倒れる様に自分が作った奈落へと落下して行く。
山畑『決まったぁあ!! 窮地からの生還!! そしてまさかの大逆転勝利!! Bブロック 第1回戦勝者 東谷選手ー!!』
平頭は薄れて行く意識の中呟いた。
平頭『これも神が決めたオレへの天罰か...』
自分が犯した罪を懺悔する様にゆっくり落下して行く。
その瞬間
東谷が落ちて行く、平頭の腕を必死に掴む。
東谷『死ぬのは早いでござるっ!!』
平頭は驚いた。
東谷が自分を助けようと必死に腕を掴んで止めようとしているのだ。
平頭の体重は東谷では支えきれないはずだが、東谷は必死でそれに耐える。
平頭『!? クソガキお前死にてぇのかぁあ!? お前も一緒に落ちちまうぞ!! 手を離せ!!』
しかし東谷は首を横に振る。
東谷『くっ...い...嫌でござるっ!! 誰に言われ様が絶対に離さないでござる...』
東谷の足はどんどん割れ目へとズルズル近付く。
平頭『...俺は56人も殺した死刑囚なんだぞ!! どっち道死ぬ運命からは逃げれねぇんだ!! もう...楽にしてくれや...』
しかし東谷は離さない。
東谷『...それはただの戯れ言!! 逃げでござるぞぉお!! 我には平頭殿が簡単に人を殺す様には見えんでござるぅう...何か理由があるんでござろぉ...!?』
平頭は黙っている。
実験体になってから思い出そうとしても消されて思い出せない。
何故、自分が56人もの命を殺めたのか?
何の理由があってか?
ただ自分が殺したと言う記憶だけしか残っていなかった。
自分は人殺しの死刑囚とだけの記憶しか
そうしている内にも東谷にと限界が来ている。
掴んでいる手は感覚が失くなってきて頭部の痛みがどんどん酷くなる。
東谷『...平頭殿!! 仮に本当に貴殿が人を殺めたのであればその者達の為にも生きて償わねばならぬ...死ぬのは都合が良すぎるであろうぞ!! 貴殿はまだ生きている!! 死んだ者はもう生きかえれぬ!! 目を覚ませぇえ!!』
東谷は最後の力を振り絞り平頭に声を荒らげた。
平頭は暫く沈黙していたが東谷の言葉に胸を打たれ自分の力を出した。
東谷『ぐぉおおお!! 火事場の馬鹿力でござ候!!』
そして平頭は東谷の助けがあり奇跡的に死を振り払った。
平頭は地面に仰向けに倒れたまま
顔を手で隠している。
頬からは大粒の涙が溢れる。
東谷はフラフラと平頭に歩みより
手を差し出した。
東谷『ハァハァ...平頭殿!! その涙は本物であろう。 貴殿からは悪人の匂いはせぬ。 しかし殺したのが事実であればその者達の魂を背負い生きて罪を償うのでござるぞ!!』
暫く沈黙が続き
平頭はゆっくりと東谷の手を握った。
平頭『...大したガキだ!! ガキから説教食らうとは俺の完敗だ!! 俺の分もお前に託すからのぉお!! 負けたら承知せんぞ!!』
東谷は思い出したかのように急に怯え出した。
東谷『こっわ...やっぱり助けるんじゃなかったでござる...』
平頭はそんな東谷を見て実験体になってから初めて大笑いした。
そんな2人の試合は1時間半の長期戦で静かに幕を閉じた。
長き戦いも決着がついた。




