よくある日常
どうやら妹が体操着を学校に忘れたらしい。
おっと、失礼。ぼくの名前は小林輝樹
そこらへんにいる普通の高校生を想像してくれるとわかりやすいだろう。
妹はいつものように学校から帰りそのまま塾へと向かったのだが、ソファでダラダラしてたぼくは横目に妹が体操着袋を持って帰っていないことに気付いた。おそらく妹自身も忘れたことに気付いていないのだろう。今日は体育があったらしい、このままでは小学校の机の荷物掛けにポツンと体操着が汗で一夜漬けされてしまう、その健康的な少女が流した汗で熟成された体操着を想像するといてもたってもいられず、ぼくは自転車にまたがり家を飛び出した。
今世紀最大の運動エネルギーが脚に宿ってる気がした、それはまるでチーターを想起させるような無駄の無いフォーム、新幹線よりも速いのではないかと思えるような…しかし実際は、普段全く運動をしないため、中年のそこそこ腹のでた紳士が突然始めるランニングぐらいのペースであった。
さて、ついた小学校。
不思議なもので小学校というのは卒業してそこそこ経つと何故か校内に立ち入るのに背徳感をおぼえる。ぼくはそのなんとも言えない気持ちと戦いながらやっとこさ下駄箱まで忍び込んだ。挨拶程度に何足かの赤い上靴を舐め回した後、4年2組に入った。
(あった、この机だ)
みると、そこには確かに机の横に体操着袋が吊り下げられており、ぼくはその喜びを表現すべく後ろの机に頬擦りをした。
その時だった
「きゃー!何やってるんですか!!?」
まるで純粋無垢な女の子がこの世の終わり、絶望、理解を超えた生物に遭遇したかのような叫び声をあげた。
女の子「なんで!なんでわたしの机にほほを擦り付けてるんですか?」
ぼく「申し遅れました、小林輝樹と申します。妹が体操着を忘れちゃって取りに来たんですよ。無事みつかりました。お騒がせして申し訳ありません。」
女の子「えっ?小林さんって…さやかちゃんのお兄さん?は、はじめまして真弥です。そんなことよりもなんでわたしの机にっ…」
ぼく「まや?まやちゃんか!久しぶりだね、大きくなったね!2年ぶりかな?すっかり分からなかったよ!リコーダー得意だったよね?また聴きたいな!」
まや「ごめんなさい、おぼえてないです…わたしのリコーダー2年前からなくなっちゃって…リコーダーだけじゃなくて上靴や筆箱、体操着までもがちょくちょくなくなっちゃってるんです。」
部屋にある。
全て、ぼくの部屋にある。大事に飾ってある。
上靴に関しては部屋用のスリッパとして今も使ってる(サイズぎちぎちだけど)
ぼく「そっか、それは災難だね。はやく見つかるといいね、それじゃあそろそろ帰るよ!帰り道には気をつけるんだよ!変な人多いからね」
そう言って、ぼくは足早にその場を後にした。
ー翌朝ー
まや「おはよ!さやかちゃん!」
さやか「おはよっ!まやちゃん!!」
まや「そういえば昨日の放課後にさやかちゃんのお兄さんに会ったよ?さやかちゃんが忘れた体操着を取りに来たんだって!良い人だね!」
さやか「え、わたし一人っ子だけど?」