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もうこの手から零さない  作者: naff
一章 胎生編
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四話

ひとつめ

―――どこかの広い一室。


そこでは、一人の老人が複数の少年、少女たちに教鞭を振るっていた。


「―――今日は魔法についての授業です。みなさんにとって、魔法はどのようなものですか?」


「炎や風を出すことができるもの!」


「魔力を使うもの……?」


「生活を豊かにするものです!」


集まった生徒たちは、矢継ぎ早に老人に答える。


「よろしい、結構です。あなたたちが魔法についてある程度の知識があることはわかりました。では実際に見てみましょう」


老人は手を前に出すと、人差し指を天を指すように伸ばす。


灯火(トーチ)


そう言うと老人の指の先に青白い明かりが生まれる。


「これが魔法です。魔法は体の中の魔力を消費することで発動します」


老人は人差し指の明かりを消すと、黒板に文字を書き出す。


「魔法にはいくつか種類があります。基本の火、水、風、地、の四元素、そして回復と無。日常でよく目にするのはこの六つでしょう。ちなみに先ほど見せたのは、無属性に位置する『灯火(トーチ)』という魔法で、照明などに使われます。あなたたちが一番に習うのもこの魔法でしょう」


「先生!なら早く教えてください!」


一人の少女が声を大にして訴える。

老人は微笑みつつ、少女に目を向ける。


「私も早く皆さんと魔法を使いたいです。しかし魔法には覚えなきゃいけないことがたくさんあるのです。なので、しっかりと順序を踏んで、勉強しましょう」


「……っ、は、はい、わかりました!」


少女は自分に集まる視線に気づき、顔を赤くしながら席についた。


「話を戻します。基本の六属性のことはひとまずおいておきます。魔法の属性は他にもあります。それらは、派生、希少、固有、継承魔法など多種多様です。有名なものだと、帝国の勇者の一族が使う光魔法や、エルフの樹木魔法などがありますね」


老人は、恍惚とした顔をしながら口を開く。


「……私は一度、光魔法を見たことがあります。あれは今でも忘れられません。あなたたちもいつか、珍しい属性を使えるようになるといいですね」


老人は生徒一人一人の顔に目を向け、優しく笑顔を見せた。


「……さて、魔法の属性については理解したと思います。次に、魔法の発動方法を覚えましょう」


そう言うと老人は、黒板の文字を消し、人の体を描く。


「魔法発動にはあるエネルギーを使います。それが『魔力』。魔力にはいくつか呼び名があり、マジックポイント、気、力、地域によって様々です。しかしそれらはすべて同じものだと言われています」


老人は人の体の中に『魔力』と書き足す。


「この世界にあるすべてのものに魔力は宿っています。空気、大地、食物、鉱物、もしかしたら、魔力が存在しないものもあるかも知れませんが、私は見たことがありません。もちろん、私たち人間にも魔力は宿っています。魔法はこの魔力を使います」


老人は黒板に書くのをやめると、生徒たちに目を向ける。


「しかし、魔力を持っていても魔法を使える人は限られます。それは才能であったり、向き不向きであったり様々です。大体、十人に一人の割合で魔法を使えます。……しかし、使えるといっても初歩レベルが限界です。それが実用レベルになれば二十人、三十人に一人でしょう」


それを聞いた生徒たちは不安そうに顔を見合わせる。自分たちが魔法を使えるのかが不安なのだろう。

それを見た老人は愉快そうに笑う。


「ほぉほぉほぉ、これは一般的なものであり、あなたたちには当てはまりません。なぜなら、あなたたちは()()、崇高な血を引いて生まれたあなたたちならば、必ず魔法の才があるでしょう」


老人がそう言うと、生徒たちは安心したように微笑む。


「しかし、才があっても伸ばさなければ意味がありません。ですからこれから一緒に頑張っていきましょう。それでは実践に移ります、まずは、自分の魔力を認識できるようにしましょう―――――」


老人は生徒たち一人一人を相手にし、魔力を認識させようと手伝う。



――――――――



「みなさん魔力を認識できましたか?自分の魔力を知ることができたならば今日はよしとしましょう。しかしまだ、自分一人で魔法を使おうとしてはいけませんよ。あなたたちはまだ魔力量も少なく、質も低い。魔法を使いすぎると魔力欠乏に陥る可能性があります。もし、そうなってしまえば命の危機にもなります」


老人は釘をさすようにそう言った。先程魔力を使って疲労した子供たちは不安そうに顔を見合わせる。


「魔力は外にある魔力を少しずつ吸収して回復します。しばらく魔法を使わなければ完全に回復します。まぁ魔力回復薬などもありますが、無理はしないように」


生徒たちは老人の言葉に顔を青くするも回復方法があることにホッと息を吐く。そのとき、一人の少年がその場に立ち上がる。


「先生、質問があります」


一人の少年は老人に話しかけ、生徒たちの視線を集めた。


「はい、なんでしょう?」


「先ほど魔力量が少なく、質も低いといいましたが、どうしたら増やし質も高くすることができるのですか?」


「……なるほど、いい質問ですね。これは本来ならもう少し先に教えるのですが……特別に答えましょう。本来魔力は年齢に比例する、というのが主な説です。幼少期には少なく、逆に大人になるにつれ多くなっているからです。個人差があるとはいえ、十五歳を越える頃には、魔法を使う分には充分になっているでしょう」


そこに追加するように、少女が質問する。


「なら成長を待つしかないんですか?私は早くレベルの高い魔法を使いたいです!」


「ほぉ、向上心が高くてよろしいですね。……年齢による成長は誰でもします。しかし、待たなくても成長させる方法があります。……それは生物を殺すことです」


老人は少年少女たちの顔が強ばるのを感じるも、真剣な顔立ちに気づき、止めることなく話し続ける。


「生物を殺す、と言っても魔力が少ない生物を殺しても魔力の成長は微々たるものです。殺すならば魔力をたくさんもっている生物を殺すのが効果的でしょう。その最たる例が魔物です。高レベル冒険者が多く、質の濃い魔力をもっているのは強い魔物をたくさん殺しているからです。諸説ありますが、強い魔力を持つ生物を食らうことも効果があるといいます」


魔物と聞いて顔が明るくなる生徒をなだめつつ、今度はその顔を暗くし言葉を続ける。


「他にも多くの魔力を持つ生物はいます。それは……人間です。軍部の人間は軒並み魔力が強い。それは今まで数えきれないほどの人間を殺し、戦争に参加してきたからです。時に英雄と呼ばれるものが戦場で生まれるのもそのせいでしょう」


生徒たちはいつの間にかその雰囲気に飲まれていた。顔を強ばらせた生徒たちを見て老人は、ポリポリと頭をかく。


小さくため息をつくと机に広げていた書物をまとめ鞄に仕舞う。


「……私は、年齢での成長をおすすめしますよ。魔物との戦い、戦争は命のやりとり、自分の命を賭けることになります。あなたたちは貴族。命は自分一人の物だけではありません。大切にしてください、いいですね?」


生徒たちが大きく頷くのを見ると、老人は安心したように笑い、鞄を肩にかける。


「今日はここまでにします。次回は一週間後、灯火(トーチ)の習得と、魔力制御の授業をします。それではごきげんよう」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この魔力増強法から察するに、盗賊が人を殺す大義名分を作るシステムで、手練れの盗賊を量産してしまいそうですね。
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