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もうこの手から零さない  作者: naff
一章 胎生編
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三話

言語的説明描写加えました。


夕暮れの中、一人の少年が黄金の海のような小麦畑をどこを目指すわけでもなく歩く。


小麦は風に揺れ、その存在を大きく主張するかのように踊る。訪れるであろう刈り入れ時期を待ち遠しそうに。

平穏で怠惰なこの日常が、忙しくなることを残念に思い、ユレンはこの世界へ来て四年の月日が経ったことを思い出していた。


目が覚め、気づいた時には体が赤子になっており、まるでアニメや漫画のような世界に入り込んでしまったとその時は思った。

前の世界、つまりは前世の記憶。その最後、事故がどうなったのかもわからないまま赤子となり、今は数少ない友人たちの無事を祈るばかりだ。


時は流れもう四歳になるが、赤子の時は一人で食事もできず、プライドを捨て毎日母親に泣き叫ぶ日々だった。

一人で立ち上がり歩けるようになるとすぐさま外へ飛び出し、この世界を知るための行動を開始した。そのときから散歩が日課だ。


そして、ここは優一として生きた世界とは別の世界であることを改めて理解した。


まず、話している言語が違う。

日本語でも英語でもない別の言語で、最初は何を言っているのか、まったく理解ができなかった。今では慣れと日々の勉強もあり、三年で日常会話なら問題なくできるようになっていた。

前世では十七年も生きて外国語を学んでいたとは言え、新しい言語を覚え、使うことは簡単ではなかった。


また、文明のレベルさえ違った。

機械といったものは存在せず、農業はすべて人の手。腰に剣を差す者もいれば、弓を背に狩りをする者もいた。それはまるで中世のような世界だった。


何よりも違ったのは、魔法の存在だ。


指先に火が灯る。初めて魔法を使う母親を見た時、突然のことに理解が追い付かなかった。前世では、フィクションのものでしかなかった魔法が目の前にあるという事実に驚愕し、その未知の力に強く憧れた。


閑話休題(それはともかく)、発見と驚きの毎日のためこの四年は充実して過ごしていた。貧しい農村であるため子どもは労働力として見なされるとはいえ、四歳児にできることなど限られていた。畑にある石をとり、草を手で抜き、種を撒く。それくらいしか出来なかったがそれでも小さな子どもには重労働であった。

ユレンは、手伝いを終えるといつも昼頃には一人村の至るところに顔を出し新たなる発見求めて歩いていた。


そのせいもあって村の者から、ユレンは手のかからない大人しい子どもと思われた。実際は、前世の記憶の影響で中身が高校生なのだったが。


「おーい、ユレーン!」


今日も畑仕事が終わった後しばらくゆっくりしていたら、歩いていた方向の前から村の子供数人がユレンの元へ走って来た。生まれて五、六年経っている年長の子ばかりだが、一緒に遊んだ際に前世で自らがよくしていた遊びを教えると気に入ったのか、ユレンを見つける度に遊びに誘うようになった。


「なぁ、ユレン、今おにごっこ?ってのしてたんだけど、飽きちゃってさぁ、なんか新しい遊びないか?」


「おれ、モンスターごっこしたーい!」


「モンスターごっこは、体デカイやつが勝つからやだ!」


あーだ、こーだと言い合う子供たちに苦笑しつつ、もう大分落ちている夕日に目を向ける。景色が赤から薄暗い黒へ変わってきている。もうすぐ夜の帳が降りるだろう。


「今日はもう日が暮れるしみんな帰ろう。明日の昼から遊べばたくさんできるだろ?」


「えぇー、昼なんて家の手伝いでむりだって!ユレンだけだよそんなに早く終わるの!」


「ユレン、お前終わるの早いんだから手伝えよな!」


「わ、わかったわかった。約束するよ」


子供たちの剣幕に狼狽しつつも、ユレンが頷くと子供たちの顔には笑みが浮かぶのだった。



――――――――



明日の約束をしユレンも帰路につく。村は畑に囲まれており小さな柵でわかるように囲まれている。道という道も無いが踏み固められた所は見てわかる。家々の仕切りもなくそこかしこで食欲をそそる匂いが漂っていた。

しばらく村の中を歩くと見えてくるのは、この村では一般的な木造の小さな家。修繕の跡がチラホラ見える古家だが、どこか安心感すらユレンは感じるのだった。

近づくと玄関では、複数の男たちが話しているのが見える。


「――――しかし、畑を荒らされると大変だぞ……。ん?おぉユレン、おかえり」


玄関の前に立っていたレントは、どこか難しそうな顔を浮かべていたがこちらに近づくユレンの顔が見えた際には、表情を隠すように笑顔を浮かべた。


「ただいま父さん。なにかあったの?」


「いや、たいしたことじゃない。気にするな」


レントはそういって誤魔化す。ユレンはレントの様子が気になるが、下手に聞いても無駄だとわかっているためそのまま頷き男たちの間をぬけて玄関をくぐる。


家の中では空腹を誘う料理の匂いが辺りに漂っており、ユレンの食欲を刺激する。


「ただいま、母さん」


「おかえりユレン。ごめんなさい、まだご飯が出来てないの。少し待っててね」


ユーリはユレンに気づくと満面の笑みを浮かべ出迎える。夕食を作っている途中なのか、木べらで大きな鍋の中をかき混ぜていた。


「わかった、先に体を洗ってくるよ」


ユレンはそう言うと、体を拭くための布を手に取り玄関を出る。外に出るとレントたちは場所を変えたのか、玄関より少し離れたところにおり、まだ話を続けているようだった。


家の裏にある水瓶(みずがめ)から桶で水を掬い、布を濡らして体を拭く。夏も終わり秋を迎えたため、少し肌寒くなってきていた。濡らした布を体に当てる度に体が震える。


(あたたかい風呂に入りたい……。最悪お湯があるだけでも違うのに。……魔法が使えればなぁ)


過去に一度、ユーリに魔法の使い方を教えて欲しいと頼んだがが、『子供にはまだ早い』と一蹴りされてしまった。


(魔法が使えればこの冷たい水もお湯に変えることができるのに……)


不満を垂らしつつも体を拭き終え、体に残る冷たさに震えながら家に戻る。

中へ入ると、夕食の準備がすでにされており両親どちらも座っていた。


「ユレン、来たか。よし、それじゃあ夕食にしよう」


そう言うとレントは祈りの言葉を口にし、胸の前で手を組む。祈りの言葉と言っても神父様が言うような様式あるものではなく、その日の出来事を神に感謝する簡単な祝言だ。前世では宗教に馴染みが無かったため戸惑ったが、今では日常の一部となった。


この世界での食事は、朝と夜の二食が一般的だ。


茹でた芋をすりつぶし香草を混ぜたもの。味の薄いくず野菜のシチュー。硬いビスケットのようなパン。毎日品は変わらない。貧しいため量も少なく、味も薄い食事のため昔は食べるのも億劫だった。豪華とは言えないささやかな時間だが、家族で食べる食事はこの上ないご馳走のように今は感じていた。


「――――今日という平穏な一日に感謝します、オリヴィア様。……うん、今日もうまそうだ」


長ったらしい祈りの言葉も終わり、待ちに待った夕食。レントはがっつくように食べ始める。ユレンとユーリもレントが夕食に手をつけ始めたのを見て食事を始める。味も量もそこまでだが、半日振りの食事に食欲は止まることを知らない。


(女神というものがほんとにいるのなら、少しでも生活の質をあげてほしいものだ)


裕福な生活を神に祈るユレン。できれば肉や魚をと毎日のように祈っている。なんとも現金な話だが前世の記憶があるユレンにとって神とはその程度の存在でしかなかった。

この村、いやこの地域では女神オリヴィアを信仰しており、どの家にも木彫りの女神像があるほど深く信仰されていた。

どの世界でも神はいると信じられているのだな、とそんなことを考えていたらユレンの皿の中身はなくなってしまっていた。すぐに終わってしまった夕食にため息をつきつつ、話していた両親に耳を傾けた。


「―――やっぱり魔物が増えているの?」


「あぁ、隣の村では結構な数の家畜がやられたらしい。うちも気を付けないとな……」


この世界には魔物と呼ばれる生物が存在している。

空をかけるドラゴン、闇を纏い唸り声をあげる巨大な狼。人の背丈もある蟲たち。まるで幻想の世界から写し出されたような生物たちがこの世界では蔓延っている。

ユレン自身は実際に見たことはないが何度も村の人たちから話を聞いていた。男の子はいくつになっても怪獣のようなものが好きなのだ。


そんな魔物だが、実際目にするものは限られる。魔物には魔物の生態系があり、それは大自然であったり大きな遺跡だったり、あるいは地下や異界、迷宮、様々だ。そのため、人間世界で見かけるのは生態系からはぐれたそれも低レベルの魔物がほとんどである。しかし、一般人から見れば凶暴な魔物は十分な脅威のため、こうして度々問題に上がっていた。


「うーん……村で金を出しあって冒険者を雇おうか……」


「その方がいいわ。命がなくなったら元も子もないわよ?無理してどうするのよ」


「……それもそうだな。やっぱり明日提案してみるよ」


ユレンが口を挟む暇もなく話は終わり、そのまま夕食の片付けが始まるのだった。ユーリは、食器の片付けをしに、家の外へ。男二人は寝る準備を始める。

なにもすることはなく、農村での朝は早いため夕食を食べたらすぐに寝るのが普通だ。


ユレンが寝床にしている大きな毛皮をほろっていると、レントが声をかけてきた。


「……なぁ、ユレン」


「ん?どうしたの父さん」


「いや、お前も生まれてもうすぐ五年だ。お前を遊ばせてやりたいが、うちはあまり生活に余裕がない。五歳になった時から大人たちと一緒に仕事をしてもらおうと思っていたんだ」


レントは、どこか申し訳なさそうにユレンへそう告げる。今は手伝い程度の仕事だが、大人と同じ仕事となると子供たちと遊ぶ自由な時間はほとんど無くなる。レントからすればそれはユレンにとても申し訳ない気持ちでいっぱいなのだった。


「大丈夫だよ、父さん。俺は別にみんなとちがって遊びたくて仕方ないわけじゃない、家のためならなんでもするよ」


そう言うと、レントはユレンの頭を優しく撫で、嬉しそうにそしてどこか申し訳なさそうに笑った。生まれてから今までワガママも言わず自分にはもったいない息子だとレントは思う。


「……そうか、ならいいんだ」


「でも、おねがいがあるんだ」


「ん?なんだ、ほしいものでもあるのか?」


レントは少し驚いたように目を開く。ユレンから何かをお願いされるということはあまりないため何がほしいのかわからなかった。レントは首を傾げ、ユレンへ聞いた。


「魔法が使いたいんだ、教えてよ」


「……ま、魔法か。う、うーん、父さん魔法使えないから母さんにお願いするしかないな……。よし、父さんが母さんに頼んでみよう」


「ほんと?嬉しい!ありがとう父さん」


ユレンとして生を受けて四年、初めての魔法を習う。


執筆に時間をかけたい……。


なにかあれば気軽に感想お待ちしてます。

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