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もうこの手から零さない  作者: naff
一章 胎生編
3/31

二話


―――――風が吹き荒れ窓を震わせ雨はすべてを流し込むかのように強い。光る雷は、世界に存在を主張するかのように鳴り轟く。


そんな嵐の夜に、雷と張り合うくらいの大声が飛び交う場所があった。


「――――先生!この子、泣きません!」


「な、なにぃ!?早く羊水を吐かせるんだ!!


それはとある村での出産現場だった。()()()()()に比べ、()()()()での出産ははるかに高い死の可能性を秘めている。

母子ともに死ぬ話はざらだ。ましてや貧しい農村での出産。だからこそこの夫婦は、万全の状態で出産に望んだはずだった、しかし問題は起こってしまう。


「う、嘘……」


母親ユーリは、今にも倒れるくらい顔を青白くし、初めてお腹を痛めて産んだ子を見つめていた。その手は震え、先ほどまで掴んでいた布すらも握れなくなっていた。


「先生、なんとかしてくれ……頼むよ!」


父親レントは懇願するように医者と思われる男に声を張る。


「わかっている!」


声を荒げ、気力を振り絞る医者は、赤子にその手を伸ばす。


ユーリとレントは手を取りあい、互いの不安を取り除こうとポツポツと声をかける。


「大丈夫、大丈夫だから……神様は見ているさ」


「あぁ……お願いします、お願いします。神様……この子を助けてください……」


木彫りの像を手に包み、ユーリは祈る。

聖女の姿を象られたその像は、女神オリヴィア。

ここ、リヴォニア聖王国の最高神であり、栄光と再生の象徴である。


小さな農村の、一村人ですらオリヴィアの像を持っている。このことから、オリヴィアへの信仰がどれほどかがわかるだろう。

レントはユーリの手を両手で包みこみ、一緒に祈りを捧げる。


その時、神に祈りが通じたのか赤子がピクリッと動いた。


動いた赤子に医者は目を輝かせ、レントとユーリは目尻に涙を浮かべ、互いに顔を合わせた。


しかしその後、再び赤子が動くことはなかった。

医師らの働きはむなしく終わりを告げた。


助手と思われる女性は、医者に目を向き、言葉を発しようと唇を震わせる。しかし、口が乾いてしまったのか、何も口に出せない。


医者は、赤子が産まれた際に寝かせる布の上に優しく赤子を寝かねると、右腕でこめかみを強く押し静かに目を閉じた。

そして、悲しげな表情を浮かべるのだった。


「せ、先生……こ、この子は……」


ユーリは蒼白な顔を歪ませ、強ばる唇を無理矢理震わせると、懇願するように医者に問いかけた。


「……難産ではありませんでした。しかし、運が悪かったのでしょう。もう、これ以上この子を痛め付けたくありません……」


悲痛な顔を浮かべ、はっきりと二人に赤子の死を伝える。

それを聞いたユーリは、苦痛に顔を歪め、涙を流し、嗚咽する。


「そんな……あんまりだ……」


レントは呆然とした表情を浮かべ、崩れ落ちるように膝から落ちると、床に手をつく。

そして、自分の無力を恨むように吠え、床を叩く。


助手はなにも言えず、ただただ目を伏せ顔を歪ませた。


医者は二人に声をかけようとするが、良い言葉が思い付かず行きどころのなくなった自らの手をしまう。


そっとしておこう。そう思い、静かに部屋を出る。


(あの二人に問題はなかった……。運が、悪かったんだ……)


そう嘆くと、いつもは控えているはずの煙草を取り出し、火をつけようとオイルライターを探す。


(何年医者をやっても、死には慣れないものだ……)


深いため息をつき、煙草を咥えようとしたそのとき。


――――――泣き声が聞こえた。


最初は勘違い、もしくはユーリの泣き声かと思ったが妙に幼く、甲高い。


(まさか……いや、まさか、まさか!?)


火をつけようとした煙草とオイルライターを投げ棄てると、先ほどまでいた部屋へ走り出す。


泣き声が近づくとともに、誰かの歓声が聞こえる。扉を開けるとそこには、悲しみに嘆いていたはずの二人が、喜びの声をあげていた。


「奇跡だ!あぁ、なんということだ!この子は神に愛されている!」


レントは大切そうに()()()手に抱き、狂ったように叫び、ユーリへ話しかける。

その目は涙で溢れ、止まる気配がない。


「神様……ありがとうございます……ありがとうございますっ!」


ユーリは唇を必死に震わせ、抱かれたそれを見つめ、神に感謝する。


信じられない、といった表情を浮かべる助手の女性。しかし、どこかその表情は嬉しげで、喜色を含んでいた。


「ば、ばかな……あ、ありえない……!」


医者にとってそこは、異様な光景だった。

確かに息をしていないのを確認したはずだった。

医者はその光景が信じられず、現実を受け止められずにいた。


確かにそれは()()()()ありえないことだ。

この世界には心臓マッサージなどの蘇生法も、まだ確立してなく、しかも放置していただけで息を吹き返すなど、普通では考えられなかった。


まるでその赤子に何か()()()()()が取りついたように見えて、仕方がなかった。


しかし実際に赤子は泣いている。まるで自分の誕生を周りに知らせるかのように、大きな声で。


「信じられん……すまないが診てもいいだろうか?」


そう言って、レントから赤子を受けとる。手にしっかりと感じる生命の温もりに、幻でないことを理解するとともに、赤子を隅々まで診断する。


「おぉ、よしよし。いい子だ」

(普通の赤子だ……。なんの、なんの異常もない……)


心臓は力強くリズム刻み、その存在を主張していた。


(こんなことがありえていいのか……?死んだ人間が生き返るなんて、普通じゃない……)


思い悩んでいると、視界の端で、どこか不安げな視線を送る両親に、気がついた。


「先生、その子に異常は……」


「……大丈夫、問題ないと思われます。一応様子は見ますが、何も無く成長するでしょう」


そう言うと二人は、安堵の息を吐き、嬉しそうに微笑む。


「なぁ、ユーリ。この子の名前どうする?」


レントは少しソワソワしたように、ユーリに話しかける。そこには自分の考えた名を、ユーリに言いたいといった気持ちが、溢れでてるように見えた。


「ふふっ、レントはどんな名前にしたいの?」


「よくぞ聞いた!この子の名前は―――――


満面の笑みを浮かべるレント。その輝く瞳に映るその赤子の名は。


―――ユレン!俺たちの名前を合わせた奇跡の子だ!」


そう言うとレントは、赤子をまるで奇跡を起こした女神に見せるように上へ掲げた。


「ユレン……言い名前ね。きっと女神オリヴィア様も気に入るわ」


幸福にも、そして残酷にもユレンはこの世界に誕生してしまった。祝福の声をあげる両親、奇跡をこの目で見たと興奮している女性。どこか不思議そうな顔で何かを考えている医者。


こうして運命に愛された男、ユレンは誕生した。


ふと気がつくと、嵐は止んでいた。

戦闘早く書きたい…;;

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