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荒次郎がいく  作者:
7/8

梶原備前守景宗

自分の趣味が高じて戦国物のIF小説を投稿しています。

不定期更新ですので興味のある方は読んで見て下さい。

誤字・脱字は追々編集で修正していきます。

正月明けの凍える様な寒い夜も明けぬ早朝から、

三崎湾より三浦水軍の大型軍船と大型商船が船出し、

途中、安房三浦水軍の数隻と合流し、

北条の本拠地である小田原を一路目指していた。


「若。

 船手衆の頭目が参集致しました、

 舳先は波・風も強よう御座いましょう。

 評定の準備も整いましたので、此方へ」


と、同行した三須三河守が、

三浦家では、三隻しか無い安宅船(大型軍船)の、

舳先へいる俺に声を掛けて来たので船室へ向かった。


船室の評定場には、

既に三崎・浦賀・安房衆の頭目達が床几に座っていた。


「皆も、正月早々大儀である。

 昨日・今日と矢次早の出仕の件、痛み入る」


「はは~」


「それにしても若。

 少しお会いせぬ間に、大いなる御成長ぶり、

 今も全頭目と話していて皆が感心しておった処です、

 昨日の、郷村主や網元の集まりでの通達、恐れ入りました」


と、左手の俺に一番近い所に座っている。

三浦・浦賀衆の筆頭船手頭の出口五郎左衛門尉茂忠が言い、


「誠に、拙者も唯々舌を巻くばかり、

 感服仕りましたぞ、若」


と、儂の横に鎮座し、船手衆ではないが、

今回無理にでも着いて行くと言い張り、同行する事に成った、

三浦家の分家でもある安房筆頭重臣の正木淡路守義忠が言った。


長老級の爺どもが、評定が始まる前に勝手に喋り始め、

昨日、集会の時に全参加者に渡した通知状を懐から出し、

我が事の様に、自慢気に皆に見せびらかしていた。


‘皆、昨日の書状を見ておるし、

 此の爺どもめ、何が嬉しいのか・・・困った者達だ’


と、次期当主として、

立派に成って嬉しいと、

泣いている爺二人の事は無視しておいて、


通知状の内容は以下の通りである。


 


各位                       天正六年睦月二日 


                  三浦義清 代理 三浦荒次郎花押


             相模三浦家通知状


     下記の記載の諸産物について、下記の記載の納品日迄に

     加工製品化しうる産物について、

     税にて物納以外も全て買い取り致す。

     三浦家所領に在住しうる郷村・漁村全てに申し渡す故、

     大いに生産に励む様、依頼するもの也。


                記


干鮑    マダカ鮑 7寸以上 黒鮑 4寸2分以上の活鮑を原料とし、

           種類別に分けて納品する事。


干海鼠   黒海鼠  6寸5分以上活海鼠を原料とする。


干フカヒレ     ヨシキリザメ・モウカザメ・アオザメ・オナガザメ

          メジロザメなど、ヒレの部位種類別に分けて納品する事

          各部位のヒレの大きさは別記載の寸法表を確認する事


鰹節        初鰹の活状態で1尺7寸以上2尺迄を原料とし、

          製造方法については、別記載の製造法に依るものとし、

          本枯節と命名する。

          収穫・製造に時間が係る為、品評会及び納品は別途通知。

         (製品完了後本年秋口より順次納品を受け付ける)

       

下拵え・天日干し方法は、各網元に委任する。


三浦木綿  白錦糸状態で、錦糸の房単位は、別記載の納品図を参照

     

弥生三日の納品日に検品し、

品質の良い物を納品した村に番付をし、

横綱・大関・関脇・小結・前頭の順に永楽銭の良銭を与える。


納品場所は、御浦郡は新井城・三崎城・浦賀城(三浦総本城にて)

      武蔵国は権現城・安房国は岡本城

      (遠方の市に各村にて輸送しなくても此度は良しとする)


代金支払い日ついて 税物納以外は、基本九十日後とする。


代金額について   三浦木綿は、昨年の熊谷の市値の1.6倍とする。            

       (納品時代金受領したい場合は熊谷市値1.01倍とする)


          海産物については、活もの状態での、

          昨年小田原市場での取引金額の2.5倍とする

       (納品時代金受領したい場合は小田原市場値段1.5倍とする)

                               

                               以上


「若。

 我々も領民も、全てが儲かる仕組みを考えて頂き、

 誠に有難う御座いました。

 我が一族郎党も張り切っております」


と、三崎船手衆の亀崎兵部が、興奮気味に俺に言ってくる。


「兵部、余り張り切り過ぎて、

 己の所領漁村からの儲けの上前を取り過ぎるなよ!

 領民達のやる気を削いだり、

 品質が落ちる様な手抜きが起こる程、ピンハネをすれば、

 今後の三浦家の成長を阻害するぞ、程々にするが良いぞ」


「いや、儂は、その様な考えは、な、無いで御座るよ・・・

 唯・・・儂は一族郎党に命じて、

 自分達でも海産物を大量に捕獲・加工生産して、

 若に買って貰おうとしただけで、

 領民からピンハネなど、と・・・考えた事も有りませぬよ・・」


と、図星を突かれ、

恐ろしい顔をしている亀崎兵部は、

顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに消える様な声で反論した。


「ですが、若の言われる、

 我々が領民よりピンハネ・・・いやいや、

 儲けに対して、

 税を取りたいのは致し方無い事です。

 我々も、戦続きで銭が欠乏し、

 少しでも潤いたいですからな。

 ですが、殿の直轄領や家臣の所領で、

 今回の通知状の税率がバラバラでは、

 領民から不満が爆発しましょう。

 此処は、若に税の統一など、

 何か考えて頂きませんといけませんな」


と、安房船手衆の重鎮で、

古くからの安房国人衆でもある

安西一族の当主安西七郎次郎勝信が発言すると、


「そうじゃ、そうじゃ」


と、皆が口々に言う。


「しかし、

 各々の所領に対しては不入の原則が有る。

 此れは、御恩と奉公の原理原則じゃ、

 難しい問題じゃのう~」


と、俺が困った顔をわざとした。


‘不輸不入の原則撤廃をしてこそ、

 三浦家が強い戦国武将に成る為の、

 必要な改革の第一歩だ。

 上手い方向に話が進んだな’


と、俺の意図する処を読み取り、

税統一の話を始めた安西家の当主は、

中々に頭の切れる奴だなと感心した。


「ですが、若。

 今回の通知状の物品の納品については、

 これっきりで終いの1回だけでは無く、

 今後も継続した三浦家の施策で御座いましょう。

 生産力の増大も品質の向上も、

 今後、大いに上げていかなければ成らないのなら、

 皆が申す通り、領民がやる気が無く成り、

 更に不満が有っては成らず、

 此処は、お触れを出して、今後起こりうる問題を、

 三浦家本家が積極的に前に出て解決すべきかと」


「おお、そうじゃ、梶原殿の言われる通りじゃ、

 流石は小利口者の備前守よ!

 いつも我らを田舎者よ、頭の悪い奴らよと、

 馬鹿呼ばわりする、切れ者の参謀殿じゃ、

 頭の良い事を自慢げに、若の考えを先読みして御座る」


と、三浦水軍において参謀役を務める、

梶原備前守景宗に対して

三崎衆の最古参の一族の長でもある、

鈴木弥右衛門と三富実右衛門が

同時に似た様な発言をして嫌味たらしく言い放った。


「寄さぬか、両人共!

 若の面前であるぞ、卑屈な物言いにも程が有る」


と、三崎衆の頭目の下里藤十郎正康が両人を嗜めた。


古参の船手衆の頭目達から、

嫌味を言われている梶原備前守景宗は、

元々紀州出身の人で、

二条家の青侍(公家に仕える武士=家僕)として仕えていた。

荒次郎の母の輿入れ時に、

船を指揮して送ったと同時に、

二条家より三浦家へ使って呉れと、

半ば強引に押し付けられた人物である。

頭が良く、機転が利き、

知識も豊富で都文化にも精通しており、

何より、元々紀伊の水軍衆を率いる武将の一族出身で、

船戦や操船技術・航海技術に長けており、

能力を見込んだ三浦義清に、

船手衆の指揮をサポートする参謀に据えられた、

文武両道を絵に描いた様な人物であるが、

癖が強く他者を小馬鹿にし、見下す様な振る舞いが有り、

更に、外様の身で出世した当人を良く思わない者は多く、

三浦家では物凄く嫌われている武将である。

二条家でも人間関係のトラブルで、

半ば追い出される様に、三浦家へ来た経緯がある。


本人は、嫌味にも至って平然としており、

肝が据わっているのか変人なのか、

嫌味を言われても怒る事無く、無表情で座っている。


その、梶原備前守景宗に、

昨日医者の宗哲との話が終わり、

集会が始まる前の段階で、

話をした時の事を、俺は思い出していた。



     *****************************



「殿が出陣したばかりと云うに、

 城内の此の騒ぎ、尋常では有りませぬが、

 若が、お命じに成ったそうですな」


と、突然部屋に入って来た武士を見て驚いていた。


傍に居て、俺を記憶喪失だと思い込んでいる、

三須三河守が、梶原備前守の素性や経歴などの情報を、

俺に耳打ちして教えて呉れた。


ドカッと、

俺の前に座り、不満げな表情を浮かべる。


「備前、若の御前に挨拶もせず、

 勝手に座るとは無礼であろう」


と、佐保田豊後守が態度を嗜めた。


重臣に怒られた事など気にも留めず、


「先程、姫(荒次郎の母の事)より、

 火急の呼び出しが有りまして、姫や尹子様の文を預かり、

 また、殿からの書状も、今しがた使いが参り受け取りました。

 私の手の者を使い、都へ文を届けよとの火急の御命令。

 しかも以後は、

 若の指示にて動く様にとの、私への伝言付きで御座った。

 姫に、話を聞こうとしましたら、

 若に聞けと、言われましたので参上した次第。

 領民共の責任者や船手衆を集めて、

 何を為さるおつもりか、お聞かせ願いましょう」


‘何か、不遜な態度で、感じの悪い人だな~、

 でも、紀州の水軍の一族出身の、

 元々二条家に仕えていただって、

 良かった~、

 三浦家にも、都合の良い人材が居たんだな。

 航路での安全確保の件や、上方での取引先の選定など、

 どうしようかと頭を悩ませていたし、

 明日、小田原の商人にでも、

 北条家へ情報が漏れるのを覚悟の上で、

 依頼しようと、思っていた処だったからな’


「そうか、では、儂の考えを話そう。

 その前に、儂から聞きたい事が有る。

 備前守は紀州の出で、二条家に仕えておったと聞く。

 堺の商人や、相模から堺までの航路上の船手衆との繋ぎを、

 お主に任せると言ったら出来るか」


「質問を質問で返されるとは参りましたな・・・

 若、出来ぬとは申しませんが、

 お話の内容次第ですな、

 私が協力出来るか、否かは」


「これ、備前守。

 此の件は、殿も荒次郎様に、一任すると了承済みの事。

 主家の次期当主に対して無礼であろう」


と、佐保田豊後守が、怒気を含んで言った。


「豊後守様、私は二条家に仕かえる青侍に御座る。

 三浦義清様に依頼され、

 船手衆の参謀役を務めておるだけで、

 良子姫の警護と都との繋ぎ役が、私の本来の務めで、

 坂東の名門とは云え、

 考え方も古く、進歩の無い田舎侍に仕えたつもりは有りません。

 都が荒れ果てず、銭さえ有れば、

 高貴な二条家の姫君が、

 坂東へ下向される事も無かったに、口惜しい事で御座る」


「な、何と申したか、い、田舎侍とは、愚弄するか、備前~!

 其処に直れ、手打ちにして呉れる」


と、刀に手を掛け、立ち上がれる豊後守。


「豊後守。

 良い、下がって矛を収めよ、儂の命である」


と、俺が命じると、渋々、刀を手から離し座る豊後守。


「ふん、何が、若の御母堂様の警護の為か!

 御母堂様付侍女のお絹殿の為の間違えじゃろうが」


と、三須三河守が言うと


「三河守!

 お、お主、な、何を言い出すか~、

 何故此処で、お絹殿の名前が出る!」


と、明らかに動揺し言葉を詰まらせ、

顔を真っ赤にしている。

先程までの、慇懃無礼な備前守は何処にもいなかった。


「さあ、若も豊後守殿も、

 若の御母堂様の部屋に急ぎ参り、

 備前守と話をして協力を取り付けましょう。

 備前守は、‘はい’しか申さぬ故、

 話が早く終わって楽で御座います」


と、笑いを堪えながら、


「高貴な方であろうが、主家にあろうが、

 人を人とも思わぬ不遜な態度をとる慇懃無礼な男で御座るが、

 惚れた女子に着いて行く為、

 策を弄してまで、三浦家の輿入れの一行に加わり、

 嫌いな田舎暮らし迄しておるのに、

 10数年以上、惚れておる女子には、

 真面に口も利けぬ初心な男でもあります。

 女なぞ、手籠めにしてしまえば、直ぐに従順に成りますのにな~

 さあ、御母堂様の部屋へ、

 いやいや、お絹殿の居る部屋に伺いましょう、若」


「お、おのれ~、三河~、親友じゃと思うて・・・

 お主が協力すると申したから、話した事をバラシ依って~

 唯では於かぬぞ三河守!

 み、都の女子は繊細で可憐なのだ。

 坂東の田舎娘と一緒にするな。

 私がお主の様な、女を手籠めにする様な野蛮な真似が出来るか~」


と、ワナワナと体を震わせ、

下を向いた侭、絞り出す様な声で怒りに震えて喋る、備前守。


「ふん、お主が、若に対し無礼な態度を取るからじゃ。

 お主との約束は大事と思うておるが、

 若は、儂の命よりも大事なお方、愚弄されて黙って居れるか」


‘ふん’と鼻を鳴らし、

怒りを露にする三河守が言った。


俺と佐保田豊後守は、掛け合い漫才の様な二人の話を、

腹がよじれる程可笑しくて、笑いを堪えるのに必死である。


「もう良い、何でも、若に言われる事を聞くわ」


と、三河守の真剣な表情を見て、梶原備前守も折れた。


俺は笑いを堪えながら、集会で配る通知文を備前守に見せ、

更に、上方迄の航路の確保・商人の取次ぎ・都での手配まで依頼し、

俺は、転生した事は伏せながらも、

今後の三浦家の方針や将来の展望、

天下の行く末の予想なども含めながら詳しく話した。


初めて俺の考えを話した為か、

今迄聞いた事が無かった、

三須三河守・佐保田豊後守も、

驚きを隠せ無い様で、身動みじろぎもせず黙った侭だ。


「わ、若。

 姫が申された通り、頭を打って

 すっかり大人びて人変わりしたとお聞きしましたが、

 本当に驚きましたぞ!

 いや、若の話の内容に恐れ入りました。

 雅に、天下は統一に向かっており、世の中が一変します。

 難しい選択をしながら変化の激しい世の中を、

 上手く立ち回り生き残ると言われた。

 若の考え方に、大いに此の備前、賛同致しまするぞ!

 私も微弱ながら若の力に成り、粉骨砕身の働きをお約束します。

 早く若の言われる戦の無い太平な世を創り出す為に・・・」


と、昨日の話を思い出し、

俺は、知恵者で偏屈者の梶原備前守景宗の信頼を勝ち取った。


我に返った俺は、喧騒止まぬ場の雰囲気に、

 

「分かった、皆の者静まれ。

 殿や重臣共と協議し追って沙汰する。

 皆の悪い様にはせぬ故、時間を呉れ」


と、この話に区切りを付け

三須三河守を促し、評定を始める。


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私の励みになり、文章も進んでいくと思います。

感想が有れば宜しくお願いします。

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