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荒次郎がいく  作者:
2/8

転生


‘な、何だ、自分が、

 三浦荒次郎義意に成ったかの様な、

 こ、此の、リアルな夢は・・・’


‘う、うん、此処は、・・・何処だ’


俺は、見慣れぬ木目の天井を見て、

自分が寝ている事に気が付いた。


「え、何、何だ」


と、跳ね起きると、

時代劇に、出てくる様な侍と坊主。

小袖を着た女性達が、

驚いた表情を顔に浮かべ、俺を見て。


「荒次郎様が、目覚められましたぞ、おお~」


「荒次郎、目を、覚まして呉れたのね、

 良かった~、本当に無事で」


「私、殿に報告して参ります。

 まあ~嬉しや、本当に良かった」


と、口々に喜んでいる人達を。


俺は‘キョロキョロ’と、周囲を眺め、

今、何が起きているのか、

全く分からず、放心状態に陥っていた。


俺の名前を、連呼し喜び合っているが

何の事だか、どうして、此処に居るのか

理解出来無い、俺は


「あの~、済みません、此処は、何処ですか?

 昨日の夜、部屋で、寝ていたんですが・・・

 で、貴方達は、どちら様でしょうか?」


と、尋ねてみる、俺


「あ、荒次郎様、若様、荒次郎」


と、周りに居る人達が、困惑の表情を向け


「はい、私は三浦荒次郎と申しますが、

 お知り合いでしょうか?

 何処かで、お会いしましたか?

 覚えて無くて、済みません。」


俺が、その様に質問し、

部屋にいる皆さんに誤ると、

近くに居た坊主が、俺の脈を取ったり、

胸の音を聞いたり、瞼を引っ張ったり、

頭を見たりと医者の診察の様な事をした。


「どうやら、若様は、一部記憶を失って居られる様で御座います。

 頭を打つと、この様な症状が、出る患者が居りますので、

 若様も同様の症状かと思われます。」


と、その話を聞いていた、周りの皆が落胆している。


‘え、俺、何か、縮んでないか’


と、自分の身体を確認した。


子供の様に成ってしまった身体を触り

顔や頭の輪郭を指で触り廻した。


俺は、部屋の外の庭に、池が有るのを確認すると

脱兎の如く走り、池の水に映る自分の姿を見た。


‘何じゃこりゃ~、こ、子供に成っている。

 な、何が起きてるんだ’


と、恐る恐る、部屋の方を振り返る。


其処に、白髪の丁髷を結った老人の侍が来て


「何じゃ、荒次郎は、元気に走っておるではないか

 無事で何よりじゃ、荒次郎。

 庭などに居らず、此方へ来い」


と、部屋の中へと、招かれた。


最後に、やって来た老侍に部屋の中に居た人達が、

一斉に畏まって手を突いて、お辞儀をした後に、

老侍に、俺の現状を説明しているのを聞き

寝ていた経緯も、凡そ理解が出来た。


三浦家の宝物を飾って有る部屋で遊んでいて、

三浦義意が、愛用していた金砕棒に

俺がぶつかり、棒が倒れ、

荒次郎が、下敷気に成ってしまった。

その際に、気を失い、頭を打った拍子に

記憶を失ったと言う事だった。 


「殿、申し訳有りません。

 我らの不注意で・・・」


「良い、傅役の三須三河守や、

 侍女達の所為せいでは無い。

 荒次郎が、元気過ぎるのじゃよ、

 将来相模三浦家15代当主として、

 立派な武将に成って貰わねば困るのでな、

 その位で丁度良い。

 弁明や、謝罪は無用である」


と、老侍が言うと、先程の坊主が


「御身体に異常は全く見受けられませんし、

 記憶を失くされたとは云え、

 お名前は、覚えて居られる御様子。

 若は、7歳に成った、ばかりとは思えぬ程、

 大柄で頑強な御身体。

 更には、聡明な御子で御座います。

 我らが一から、今迄の事を、お教えすれば

 何の問題も、無いかと思います。」


「宗哲の申し通りじゃ、皆、心配ない。

 荒次郎は、この通り元気じゃ」


と、老侍は大笑いをし、一同を和ませた。


‘全員、すっげ~ポジティブ思考だな。

 実際、そのおかげで、

 此処に居る全員に怪しまれずに、

 済んだんだから、まあ、助かったか’


俺は、自分が現在置かれている状況を冷静に考えた。


貴重な盆休みなのに何日か徹夜をしてまで、

先祖の歴史やら、

戦国期や江戸時代初期に至るまでの歴史を、

学校で習うより改めて詳しく勉強し直した。


その疲れで、昨晩は、机に突っ伏して寝た。


そして、実際自分が、三浦義意にでも成ったかの様な、

あのリアルな夢を見て、

起きたら、この部屋で子供に成っていた。


どうやら、自分と同姓同名の子供に、乗移ってしまった様だ。


‘まだ、覚めない夢を、見て居るんだろうか・・・’


と、定番の頬を抓ってみたが物凄く痛かった。


一番偉そうな老侍は、三浦義清と名乗り、

14代相模三浦家の現当主で、祖父だそうだ。

そして、

傅役の三須三河守や、

母上と名乗る女性や侍女達、坊主頭の医者宗哲が、

記憶を失ったと思っている、

俺が載り移ってしまった子供に、

口々に、色々な事を教えて呉れた。


元亀3年(1572年)生まれで7歳(満6歳)。


天正5年(1577年)の昨年、

父を戦で亡くしている。


現在の相模三浦氏は、後北条氏の一門衆で、

最大の同盟者としての地位を築いている。


12代三浦義意が、

伊勢宗瑞(以後北条早雲)の娘を、正室に迎え、

嫡子を授かり13代当主となり、

北条氏綱の娘を正室として、三浦義清を産み、

2代続けて、北条の血を受け継ぐ当主を配している。


俺が昨日、見ていた夢以降の歴史を簡単に説明すると

史実と違い、扇谷上杉氏は、

北条氏綱の治世には、滅びてしまった。


後北条氏の勢力拡大を恐れた、

山内上杉家や甲斐武田家・古河公方達は、

対北条同盟を結び、

呼応して、

小弓公方や下総・上総の国人衆や里見氏も加わった。


大永6年(1526年)対北条同盟の里見氏に依る、

鎌倉鶴岡八幡宮襲撃・焼き討ちに、

激怒した北条氏綱と三浦義意は、

里見氏を、戦で撃破した勢いの侭

安房國・上総国へ乱入し、

里見氏に服属していた、旧三浦氏一門を、

三浦義意が糾合し、

安房國や上総の大半を里見氏より、奪い領土に加えている。


此の大勝利に、大いに喜んだ北条氏綱は、

三浦義意に、安房國一国と・上総の一部

天羽郡(現在の富津市)も与え、功に報いた。


其の後、氏康・氏政の代には、

山内上杉家を、関東より追い払い、

古河公方を手中に収め、小弓公方を滅ぼした。


しかし、山内上杉家を継承した、越後の関東管領上杉謙信や

同盟していたが裏切られた、

甲斐の武田信玄に、攻められたりと、

関東の勢力情勢は、一進一退を繰り広げたが

後北条氏(以後北条氏)は、史実よりも関東に勢力を拡大していた。


‘う~ん、俺が、曾じいちゃんから聞いた

 先祖の歴史や、学校で習った歴史と全然違うんだけどなあ~、

 大体、相模三浦氏が滅んでいないし、

 夢で見た出来事で、歴史が変わったのかな、

 わ、判らん?・・・’


夢で有れば、

早く冷めて呉れと、思いながらも、

現代へ帰れる手段も無く、

子供に成ってしまった自分に何が出来るのか、

どうすれば良いか、途方に暮れながらも、


‘まあ、今、出来無い事を、考えても省がない。

 成る様にしか、成らないし・・・

 俺も結構、ポジティブだな、先祖からの遺伝なのかな~?’


などと、考えながら


‘今は、天正6年(1578年)睦月(1月)って事は、

 長篠の戦は、1575年だから終わっている。

 あっ、上杉謙信が死ぬ年だ。

 いや、待てよ。

 後北条家の一門衆って事は、

 1590年に、豊臣秀吉に後北条家諸共滅ぼされるって事。

 足利将軍家も、15人の将軍で滅亡

 徳川家も、15代将軍で大政奉還してるし、

 相模三浦家も、俺の代で15に成る。

 滅亡は、必然なのかよ’


と、途方に暮れていると


「では、御本城様の軍に加わり、下野へ行ってまいる。

 留守は、佐保田豊後守に任せて有る。

 三河守は豊後を補佐し、荒次郎も次期当主として、

 里見への、備えを怠るな。

 今は、御本城様(北条氏政)と、和議しておるとは云え

 油断ならぬ、相手ぞ。」


「はは~、お気を付けて、戦勝をお祈りしております。」


と、一同が礼をして、祖父を、送り出した。


俺は、祖父と名乗る老侍の後ろ姿を、見送りながら

戦国時代へ転生した、自分の運命を呪いながらも、


何故、100歳の百寿の祝いに、

曾爺さんが、先祖の歴史を俺に語りたかったのか、

俺の転生を、予感していたのか判らないが、

この様な、状況下に置かれた現在、少しだけ感謝した。


‘曾じいちゃん、何とか俺。

 此の世界で、頑張って生き抜いてみるよ’


と、此処の中で誓った。


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