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小話18(健全な小説、健康になれる小説)

とくん、とくん、と音がする

貴方の胸に私の頬が触れた

固く冷たい貴方の肌と、火照ったような私の肌

心地好い体温に安らいで

でも身体はもっと熱くなる

触れる頬から、すぐ側の耳に伝わる鼓動

とっく、とっく、とっく、とっく、とっく

もっと貴方に触れたくて、指先でつぅーと……




「これは官能小説ではなくただのロマンス小説だな」


部屋の主である兄上はお散歩に出掛けております。

わたくしはお茶会用にお持ちくださった衣装に着替えねばならぬのですが、殿下と少しだけ2人の時間を過ごしておりました。

兄の秘蔵本がいささか期待外れだったようで、殿下はしょげておいでです。


「マロンズ小説の方がイカが欲しい小説よりも健全ですわ」


「栗が複数……文字を想像すると一見してアナグラムのようだが、濁点が増えたな。ちなみに、いかがわしい小説の方が男をより健康にする」


「健康になりますの?」


「あぁ、確実に健康になれる」


殿方はエロで出来ていると兄上が言っておいででしたが、やはりその話は真実だったようです。


「わたくしにはマロンズ小説で十分ですわ」


コトリ、わたくしは腰掛けたソファーで、横にいらっしゃる殿下に頭を預けました。


「……は?」


殿下の口からやや間抜けな声が漏れ出たのが聞こえます。


「マロンズ小説も良い物ですわ」


シルクのつややかなシャツが肌にヒヤリと触れます。

殿下の胸に頬を寄せ、速まる鼓動を聞きながら、殿下の体の中心を指先でつぅーと……


パッと、人差し指を強い力で握られます。

少し痛いくらいのお力で、わたくしの心の臓が握られたような痛みです。


「甘栗小説にも程がある」


「マロングラッセでも栗きんとんでも、栗のスイーツはどれも甘いものばかりですもの」


握られたままの人差し指は殿下の口に含まれます。

甘い甘い、マロンズ小説。

甘露小説はきっと、もっと甘美で耽美なのでしょうか。

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