小話13(全員集合。コロロギス除く)
王宮にて。
友B「実の妹を人身御供に使って大丈夫? 人狼様に食べられちゃうよ?」
友A「そうなー。でも、誕生日プレゼントのつもりだからさぁー」
友B「それに、去り際に煽るとか、怖いことするよね。愛し君ちゃん、ちゃんと帰らしてもらえるかなぁ?」
友A「ハハッ。ほっぺにチューとか、家族の親愛の印だから。それに俺らが図書室で待ってんのに、無茶はしねぇーって。多分なー」
友B「多分なんだ」
友A「そ、多分」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
時は少し戻ります。
本日、殿下は発熱により学園をお休みなさいました。
課題のプリントを王宮に届けるから付き合うようにと、昼休みにお兄様から声をかけられました。
で、放課後。場所は王宮に移ります。
友B「はい、プリント。面会謝絶かなーって思ったけど、普通に会えたね」
殿下「朝微熱があったから医師の許可がおりなくてな。昼前にはもう下がっていたが」
友A「さっきの女中、尻の形がエッロいよなぁー」
友B「んー。もう少し控え目な方が好みかな。ヌード描くにはいいかもだけれど。学園休めば眺め放題だね」
殿下「この場には許嫁殿がいるんだがな。やめてもらえるか?」
友A「で、お前はどっちが好みだったっけ? さっきみたいな女だったか?」
友B「エロエロだものね。お年頃だから」
殿下「名誉毀損で訴えようか。プリントはもう貰った故、帰ってくれるか? 友人殿」
友A「ハハッ。あー、そうそう。前に借りたこの本、ありがとなー。また借りて帰りてーなーって思うんだけど、続き、図書室か?」
殿下「あぁ、そうだな」
友A「じゃ、図書室行くわー」
友B「一緒に行っていい? 王宮なんて滅多に来ない場所だし、散歩散歩♪ とっても興味深いよね。建物も年代物で歴史あるし、これまでの血みどろの事件の数々考えたら、事故物件だよね、ここ」
殿下「祟られてくれ。そして、さっさと行け」
許嫁「わたくしも……」
と席を立とうとしたのですが、お兄様に頭を上から、ぽん、ぽんっと押さえられました。お兄様はわたくしの瞼と頬にキスなさいます。
「帰るときに図書室に寄りな。じゃ、友人殿、一週間早いけど、誕生日おめでとーってことで」
そう言って、お兄様はご友人と行ってしまうのでした。
「エロエロですの?」
「人並みだ、人並み。ちなみに先程の女中は既婚だ。子供もいる」
「人妻……との間に、隠し子……?」
「何の話だ、許嫁殿。んな訳ないであろう」
「もう、体調はよろしいのですか?」
「あぁ。熱だけだったからな。他に症状はない」
「そうですか。安心致しましたわ」
「ほぉー。心配してくれたのだな。礼をせねばならぬな。はぁ……。お膳立てされたようで癪だがな……。……許嫁殿、横に掛けぬか。正面だと話しにくい故」
「横に……でございますか?」
「お前が動くのが嫌なら、私がそちらに移ろうか」
「どちらに外郎が?」
「外郎は名古屋のものと山口のものとで原材料から違いまして、もちもち食感をお求めでしたら名古屋のものを、ぷるぷる食感をご希望でしたら山口のものを。お菓子コーナーの和菓子が並ぶ棚に……と、スーパー……失礼、マルシェ店員は申しているとして。で、いかがする? 私がそちらに移動しようか? 今のはきっと、わざとであろうな、許嫁殿」
「わたくし、マルシェの常連ですもの。品揃え豊富でいつも楽しみですの。席は……わたくしが動きますので、殿下はそのままで結構ですわ」
ということで、殿下の横に、人一人分くらいのスペースを空けて腰掛けました。
「遠いな」
「そうでしょうか?」
「あぁ、遠い」
「名古屋と山口くらい?」
「いや、それほどまでは……」
「では、どれくらいですの?」
「お前はそんなに私に近付くのが嫌か? 現状を刺身と醤油皿の醤油とするなら、私は漬け丼でよいのだが」
「丼のご飯は一体どちらから……」
「許嫁殿、もうそろそろ現実に戻してよいか?」
殿下はそう言って、わたくしの手首を握ります。
ぐっと力強く引っ張られ、わたくしの体が殿下の方へと傾きます。
ドクドクドクと心臓の音。
殿下の両の腕がわたくしをぎゅっと包み、衣類の下に殿方の厚い胸板を感じます。
「あの……殿下……?」
殿下の片方の手が背中から首、耳の辺りを撫でるように移動します。わたくしの髪を指ですくい、うなじに触れ、また髪をすくい、またうなじに触れ……。
耳元で囁くように、小さな小さな甘い響き。
「………………だけだ。他はいらぬ」
殿下の声で聞こえてくる、わたくしの名。
「私が望むは………………だけだ」
頬と頬が触れ、吐息が耳にかかります。
殿下からだったのか、わたくしからだったのか、お互いがお互いの頬に手を伸ばし、火照った頬の熱を手の平で感じます。
顔が赤くなろうとも、瞳が潤もうとも、わたくしは誇り高き貴族令嬢。
目をそらしたくはなくて、殿下の瞳をじっと見つめておりましたのに、殿下との距離は睫毛がくっつく程に近付いて、わたくしは気恥ずかしさで目を開けていられなくなり、瞼を閉じて……。
「……っん……ふぁ………んっ…ん………………………」
最初は貪られるように、次第に溶け合うように。
「…んっ…………………………………ぁっ」
唇は離れましたのに、ドクドクドクドク……胸の動悸がおさまりません。
呼吸が乱れ、鼓動は激しく打ち、わたくしは心臓が飛び出さぬよう、胸を押さえます。
殿下は親指でわたくしの唇に触れ、笑いながらおっしゃいます。
「クックッ、外郎……」
わたくしはスゥーっと息をしっかり吸って、吐き出します。でも心臓はまだドクドクドク。
「名古屋かしら、それとも山口?」
「そうだな。もう一度食せば……分かるやもしれぬな」
再び触れる、唇と唇。
それは柔らかな舌と舌が触れ合い、絡まるほどに。
お互いがお互いにしっとりと漬かるまで。
胸の奥がきゅっと締め付けられるようで、顔も体も、もっと奥の方まで火照るように感じます。
いっそ残さずわたくし全てを食べてしまってほしいと、わたくしは願うのです。
「兄達が待っております故、もう帰りますわ」
「あぁ。また明日、学園でな」
扉に手をかけながら、わたくしは殿下を振り返ります。
わたくしは誇り高き貴族令嬢。
強く、気高く、美しくあらねばなりません。
「殿下。わたくし、殿下のことをお慕い申し上げておりますわ」
ニッコリ笑顔で正々堂々はっきりと。
これはわたくしから殿下への宣戦布告。
やられっぱなしは悔しいですもの。
わたくしはそっと扉を閉じて、お兄様達の待つ図書室へと向かうのでした。




