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『 世渡り』

作者: 白波 晶

何かに押される感覚がして目が覚める。

半透明のレースのカーテンが風に乗って空に揺蕩っていた。

黒板は一面若草色に。

机や椅子は鉄パイプ銀色が一層輝いて、木は木目模様の小麦色が少し明るさを帯びている。

蝉は騒がしい。

だが、その季節特有の粘りを含んだ暑さは感じない。


夢、か。


単色の机を撫でて見る。

多少の暖かさは感じる。

だが


「芹。」


いつの間にか隣の席の友達が座っていた。


「やっほ。」

「一華、どうしたの?」

「別に、ただの暇潰し。芹と話したかっただけ。そう言えば芹、最近寝てばっかじゃない。いい加減起きなよ、怒られるよ?」

「無理かなー。だって眠いもん。」

「駄目だよ、起きなきゃ。もう十分寝てるでしょ。」

「そうなのかなー、急に眠くなるしまだ足りないんじゃない?」


冗談混じりでそう言うと、苦笑してちゃんと起きなさい。って言われる。

教室にかけられてる掛け時計を見て、もう行かなきゃ。と立ち上がった。


「もう行っちゃうの?」

「うん、ごめんね。用事があるからさ。」

「そっか、じゃあ仕方ないね。またね。」

「またね、ぜ____」












暗闇。

状態を起こすと、そこは自分の部屋だった。

生暖かい空気が半開にした窓から流れ込んでくる。

あれ、寝てた?

下に引いていた問題用紙は無事なようだが書きかけで文字の途中でミミズが這っている。


机の明かりを消し、夜空を見る。

空は藍色、十円玉位の満月と青白い光の欠片が散らばっている。

天の川の一部は山の頂上へ流れ込んでいた。

幸いにも、街の明かりは少なく、夜空を見るにはうってつけであった。

宿題を一つに纏め、ベットに飛び込む。

まだ眠気が残っているようですぐ瞼が落ちた。












空は晴れている。

しかし、雨は一向に止まない。

その様子をぼーっと見つめていた。

天気雨はあまり好きではない。

晴れるか降るかどちらかにしてほしい。

はぁと溜め息をつくと、運気が逃げるよー、と自分の右側に来て、この空模様に目を向ける。


「何か憂鬱になるよ。せっかく晴れてるのに。」

「あー、それねー。」

「冷たっ」

「じゃあ閉めなよ。」

「いいよ、そのままにしておいて。」

「えー、何で。寒いんでしょ?」

「それはそうなんだけど、何となく開けときたい、的な。」

「ふっ、なにそれ。まあいっか、じゃあね。」

「・・・ねえ、前から気になるんだけどさ。」

「なに?」

「・・・やっぱり何でもない。」

「そう?思い出したら言ってね。じゃあ、ばいばい。」


扉がピシャリと閉められる。

何となく一華に違和感があるなんて、言えるはずもなかった。












「んー、今何時?」


見ると、夜の8時を指していて飛び上がる。

まさかここまで寝ているとは思わなかったからだ。

時計が壊れたんじゃないかと遮光カーテンを乱暴に空ける。

月が半分欠けていた。

夢じゃないよな?

頬をつねるが、ただ痛い。

と言うことは、夢では無いのか?


「さっきまでのが夢?」


確かに、さっきの夢の内容が思い出せない。

満月と言うのもそれは前の十五夜の時の記憶かもしれない。

でも自信がない。

取り合えず、気分を変えようと枕元においてある携帯に刺さった白い充電器のコードを抜き、電源をいれる。

何かを検索したまま寝たらしく、ページが開いたままになっていた。


『うつし世は夢、夜の夢こそまこと』


江戸川 乱歩さん。

推理小説を日本で初めて書いた人。

その人が残した有名な言葉。

今生きている現実が必ずしも現実ではない。

自分が現実だと思っていても、本当は夜に見ている夢が現実なのかもしれない。


何故、これを検索したんだろう。

もしかして、今携帯を操作しているこの状況が夢で、夢だと思っていた夢が本当だと言うこと?

夢の中の記憶を思い出そうとするが、全くと言っていいほど、何も思い出せず、分厚い雲が頭の中全体を覆っている。

何をしていたのかが分かればいいのだが。

暫く思い出そうと、ベットマットの上でゴロゴロするが一向に見えてくる気がしない。


「もう一度寝よう。」


足掻いた結果、何もしないことに決めた。

思い出そうとしても思い出せないのなら、諦めてしまえばいい。

多分、ふとした瞬間に思い出す。

確証がないが。

塊で端の方に追いやられた布団を広げ、横になる。

また直ぐに、眠ることができた。












雲っていた。

光はこちらまで届いているが、太陽の姿は見えない。

今日は珍しく先客がいた。

鉛色の窓枠に腰掛けて光の源へ目を向ける女の子が。


「一華、早かったね。」

「ねえ、芹。これって夢だと思う?」

「え?」

「だから、夢だと思うかって。」


いきなりされた質問にただただ戸惑う。

今居る此処は夢か、現実が。

簡単に言えばそう言うことだ。


「夢、じゃないの?」

「本当に?」

「何が言いたいの、やっぱ一華何か変だよ。」

「本当、可笑しいよね。こんなこと問いたくなるなんて。"うつし世は夢、夜の夢こそまこと"。どういう意味かは分かるよね?」

「自分が今現実だと思っている世界が夢で、夜に見ている夢が現実かもしれない、って意味でしょ?まさかここが現実だって言いたいの?」

「そういうことじゃ無いんだけどさ、芹に隠してこれやってたんだよね。」


そう言って、右ポケットから手帳のようなものをとり出し、表紙を私に向ける。

そこには、0.5位の青インクで"夢日記"とかかれていた。


「これ、書いてたらね、集中力が上がるからって誰かから聞いて始めたんだよね。最初は良かったよ。でもだんだん夢の内容が頭の中に残るようになっててね、次第にどっちが本当か良くわかんなくなるんだよね。でさ、ほら、私怖いの苦手じゃん。だからね、悪夢とか見ても数日は眠れなくなっちゃうんだ。止めたんだけどもう夢を覚える癖が付いちゃって。どうしようもなくって。だからさ、もう終わりにいたいなって。」


ゆっくりと頬笑む、夢日記を外に放り捨てる。はらはらと黒くなった紙も数枚落ちていく。


「じゃあね、もしこれが夢なら良かったのに。」


それを追うように友達も飛び降りた。

掴もうと、走って片手で窓枠を握り、もう片方で一華の手を掴もうとするがするりと自分の手をかわして下に落ちてしまった。

一華を助けに行こうと、窓枠に足をかけて立つ。

下が見えない。

怖くて、足がすくんで、結局一華を助けるために飛び降りる事は叶わなかった。












「芹、起きて。芹!」


叫ぶように名を呼ばれた。

白い天井。

私の寝室では無さそうだ。

だとしたら此処は?

必死に一華が名前を呼んでいる。

横で機械音が目覚ましのように鳴り響く。

あれ、一華、死んだんじゃ?

四肢の感覚はない。

ここはどこかも確認できない。

白い長袖のコートを着た人や知らない女の人が自分の名前を読んでいた。

何で私の名前、知ってるんだろ。

薬の独特の匂い。

知ってるような気がするけど何処だっけ。

ふと、横を見ると、さっき一華が持っていた夢日記が。

あ、あぁそう言うことか。

だとしたら、ごめん。

もう、わた












「・・なさい!美和。」

「起きなさい!」


何かに押される感覚がして目が覚める。

美和?

ああ、私の名前か。

あれ、でも何か変な気がする。

私の名前は____。

あれ、私の名前・・・

まぁ、いいか。

早く準備しないとお母さんに怒られる。

あぁ、何かひさびさに気分が晴れやかだ。


「それじゃあね、いってきます。」

読んでいただき大変嬉しく思います。

この作品は冒頭で添えたあの名言。

【うつし世は夢、夜の夢こそ誠】

と言う言葉を題材として書かせていただきました。


もしかしたら一度は経験があるのではないでしょうか?

“あれ、私さっき有名人と話してなかったっけ?“

“俺、さっき夢叶えて渡航してる最中じゃ?“

“推しと楽しく話してたはず“


等々。

本当であってほしいのにいざ夢だと知ると落胆してしまう。

中には、こっちの方が偽物じゃないかと勘違いしてしまう人もいるのではないでしょうか?


けど、その中に、見覚えのないけど何処か懐かしいものを見た。

そんな感覚になったとき、それは前世の記憶、または今までは別の人だったのにタイムリープしてその人になった。

そんな考えがふと思い付いて、たぎった妄想を文字に現した次第です。


さて、皆さん気づいたでしょうか?

題名の括弧の中に一文字空白が入っていることに。

その空白に“前“と言う文字をはめてみてください。

『前世渡り』

一部始終を見ていた皆さんは、最後の結末の示唆したことが分かったと思います。

しかし、主人公である彼女はそれを知りません。

後半のあの数文字しか記憶がない訳です。

・・・空白にした意味が分かりましたか?


これ以上題名の事や本文を語るのはナンセンスなのでここら辺で締めさせていただきます。

また、お会いできることを。


                the fin


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