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SHADE  作者: 真木 雫
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トキテ、ゴハンを食べる

 何においても、飯は大事だ。


 異国に来るとそう思う。

 とはいえ、トキテの外国経験はほとんどない。今までに一回だけ。ただ、その一回で十分なインパクトだった。

 文化が違う、とは、食事が違う、に等しい。

 上海(シャンハイ)で食べる料理は具材が多かった。味付けも濃い(と言うか辛い)し、量の割に肉は少ない。海が近いためか、海鮮が中心だった。油で揚げたり炒める料理が多いのに、油が重いと感じることはない。とにかく、簡単に言ってしまえば美味(うま)かった。

 結構な量の料理だったのに、最後に揚げ饅頭(まんじゅう)までペロリと平らげてしまった。

「トキテ、ほっそい(からだ)つきなのに、よく食べるなぁ」

 ロッソが呆れ半分、驚き半分で言った。

 ロッソは食事中もゴーグルをつけたままだ。トキテとしては、それは食べにくくないのか、と思うところである。

「食べれるもんは食べるし、食べれる時に食べるもんだろ?」

 口に饅頭を含んだまま喋ったが、どうやら通じたらしい。

「これから僻地(へきち)行くからなぁ。確かに都市にいる内に、ゴハンのことは考えといた方がいいだろけど。一応、携行食は用意してきてるからな」

「でも、そのペースで食べられちゃ、すぐになくなると思う」

 カリンが食後のお茶をすすりながら言った。

 独特の香りのするお茶だった。店員にこれは何かと聞くと、(フア)だと答えた。フア茶はまさに花茶と書くらしい。

「大丈夫。普段はこんなに食べないから」

 トキテが言うと、カリンは心配そうにこちらを見た。

「あんたがどれだけ超能力のこと、知ってるかわからないけど。能力使うと腹減るからね」

 え、と聞き返すと、カリンはやっぱりね、と溜め息をついた。

「ランクCは伊達(だて)じゃないわね」

「てかさ、」とロッソもお茶をすする。「カリンのスペックはあれだけ丁寧に説明したんだ。トキテの能力の幅も知っておきたいんだけど」

「ッつってもなー」トキテは頭を()いた。「ジェット機の中で言ったように、使えるのは簡単な念力(サイコキネシス)ってだけで、幅も何もないんだけど」

「例えば、持ち上げられる物の重さや継続時間は?」

「ん〜〜〜。測ったことないけど、100キログラムなら浮遊時間は一時間かな」

「お。思ったよりも長い」

 ロッソが言う。カリンはすかさず追加質問をした。

「その100キロが、一つの物体じゃなくて複数個で100キロだった場合。もう一つは、浮遊ではなくて等速度で平行移動させた場合。それぞれの継続時間はどうなる?」

 なかなか鋭い。

 トキテが誤魔化した部分を、カリンは突いてきたのだ。

 本来なら、能力のスペックはそう簡単に他人に教えるものではない。恐らく、カリンも隠している能力はあるだろう。カリンの能力を説明したのは、殆どがロッソだったから、ロッソもカリンの隠している能力は知らないかもしれない。

「まず、前者なら時間はそんなに変わらない。後者は、格段に短くなる」

 どれくらい、と聞かれて「さあ、限界まで試したことないから」と降参の証として両手をホールドアップした。

 カリンが頬杖をついた。

「よくそんなんで任務やってきたわねぇ」

 ロッソも続く。

(むし)ろ、今回はA級任務をよく受けたなって感心するよ」

 ロッソにまで呆れられたトキテは、今回の任務を受ける経緯を話した。今回、任務を受けなければ除籍に近い処分を受けそうだとも話した。

「パワハラじゃん」

 ロッソが言った。

「古ッ。その上司の対応もだけど、パワハラって」

 ロッソの言葉にカリンがすかさず突っ込んだ。

「あー、そうか。パワハラって言葉が古くなるくらい、最近じゃなくなってる事象なんだね」

「でも最近、アークでは粛清(しゅくせい)が進んでるよね」

 カリンが声を潜めた。トキテが「粛清?」と聞くと、ロッソが頷いた。

「カーロフからキエノフに代表が変わって、社内のあちこちで改革が進んでるんだけど、カーロフ派とキエノフ派の対立が凄いらしい。キエノフ派には強硬派が多いから、というより血の気が多い?そんな奴らが多いんだけど、粛清とか言って、カーロフ派に何らかの圧をかけてるって。実際、カーロフ派の退職が目立つ」

「俺、カーロフ派ではないけど」

「いやいや。カーロフ派だよ。普通の人間(ノーマル)と組んでる時点で」

 キエノフは、今までの超能力者と普通の人間(ノーマル)がペアとなって任務に就くスタイルを変えようとした。効率よく任務をこなす上では邪魔になる、とはっきり言ったのだ。

 これに反発したのはもちろん普通の人間(ノーマル)だ。そして、古くからペアで活動する超能力者も同調し、抗議している。そのため、超能力者と普通の人間(ノーマル)が組んでいると自然とカーロフ派だと言われた。ランクの高い超能力者、近年アークに入った若い超能力者は一人で活動し、キエノフ派と言われた。

 そして、トキテの上司はどうやらキエノフ派らしい。

 なるほど、話を聞いていると思い当たる節がある。

 トキテみたいなランクの低い超能力者は口実を作って退職させたいのだ。難しい任務に就かせて失敗すれば良し。反抗して任務に就かなくても良し、という寸法だろう。

 だとしたら、もっと強気に出ても良さそうなのに、最後に「減給」と甘いことを言ったのは逆に気になる。それも、上司がただの肝の小さい男だとしたら納得だが。キエノフ派が追い風の今、それも考えにくい。

 言葉の綾ってやつかな。

 トキテはそう思うにとどめた。

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