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SHADE  作者: 真木 雫
7/45

機械仕掛けの腕の少年

 ☆ ☆ ☆


 見つけた。

 確かに、片腕が機械仕掛けの少年。間違いなかった。

 猫が敵を威嚇(いかく)するように、少年も歯の隙間からシューシューと息を漏らしている。

 近づこうと一歩足を出せば後退し、手を伸ばせば噛み付かんと牙を()く。いっそのこと、本当に噛み付かれてしまった方が、懐くかもしれない。確か、とある映画でそんな描写があった。その映画で主人公が相手にしていたのは野生の肉食獣だが。

「キシル」

 行動が読まれたのか、ヒサメが制止の声をかけた。ヒサメが首を振る。

「無理矢理は良くない」

「だけど、」

 キシルは少年の腕を見た。体に巻きつけたボロボロの布のせいで、よくは見えないが、状態は悪そうだ。

「確かに、早く()てやった方がいいけど、どちらにせよ、ここには設備がない」

「あの腕、メーカやタイプはわかる?」

 遠目に見ただけだが、どうも特徴的な形だ。

「旧式。多分、日本製だろう。あんな古くても使えるのは職人の持てる技術だから。私が知ってる限りだと日本、ドイツ、ノルウェー」

「ああ、だとしたら日本製の可能性が高いか」

「今日明日でどうこうなるもんじゃないだろうけど」

 腕の状態の話だ。機械の腕と、生身の腕。その接合部がどうなっているかが心配だ。

「うん。でも、なるべく、ね」

 キシルは少年に向かって、手を振ってみた。

「ええっと、『コンニチハ』」

 相変わらずの威嚇音。

 言葉は通じているだろうか。

「ハジメマシテ」

 これもダメ。そもそも、この日本語で合ってるのだろうか。キシルが知る日本語は少ない。

「ニーハオ。コマオ」

 知ってるアジアの言語を出してみたが、ピクリとも反応しない。

「出直そう、キシル」

 ヒサメも困り顔での提案。

 ええい!こうなりゃ駄目元!

「ゴハン、タベル?!」

 ピタッーーーと威嚇音が()んだ。

 おや?

「ご、ゴハン……」

 恐る恐る、もう一度同じ言葉をゆっくりと繰り返してみる。

「タベル……?」

 少年の目が泳いだ。

 言葉が通じた。日本語だ。

「ヒ、ヒサメ!なんか他に日本語知ってる?!」

 興奮冷めやらぬ、と言った勢いでヒサメを振り返る。しかし、少年から目を離したのは間違いだった。

 少年はサッと身を(ひるがえ)して、廃ビルへと隠れてしまった。

 キシルは追おうとしたが、もう辺りは陽が落ちかけて暗くなりつつあった。ヒサメがキシルの腕を掴む。

「収穫。あっただけでも良かったんだから、今日は一先(ひとま)ず戻ろう。ここにいたら、多分私たちは文字通り身ぐるみ()がされるよ」

 ヒサメが周囲を警戒しながら言った。

「……そうだね」

 飢えた猛獣のいる巣。

 そんな表現がぴったりかもしれない。

 先程の少年だけではない。体躯(たいく)のいい大人だっている。姿は見えないが、廃ビルのあちらこちらから、気配は感じる。

 二人は周囲を見回しながら、キシルは後ろ髪を引かれながら、その場を後にした。


 ☆ ☆ ☆

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