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SHADE  作者: 真木 雫
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トキテ、上海に着く

 上海(シャンハイ)は思ったよりも栄えていた。

 しかし、ちょっと郊外へ足を向けると、同じ街とは思えない変わりよう。上海は格差が大きいと感じる街だった。

 空港では、ワンさん、キムさんという中年の男性ーーーもちろんアークの現地スタッフであるーーーが案内してくれた為、入国手続きはスムーズに終わった。

 国内での簡単な注意を聞いた後、怪訝(けげん)な顔をしたワンさんがロッソを(うかが)い見た。

「街中でも、その姿で歩かれますか?」

 その姿、というのは恐らく、ロッソのゴーグルのことだろう。何せ、顔の半分を覆うゴーグルだ。レンズ部分は遮光(しゃこう)ガラスでできているのか、黒く反射するゴーグルは如何にも(あや)しい。

「そのつもりですけど、問題が?」

「人目を引きます」

「だったら問題ないですね」

 ロッソは笑ったが、ワンさんの眉間のシワは深くなった。

 二人は通訳を申し出てくれたが、そうすると身動きが悪くなる気がして、トキテは丁重に断った。そもそも、通訳ならロッソのゴーグルがしてくれる。何ともハイスペックなゴーグルだ。

 ワンさん、キムさんと別れ、四人はビジネスホテルの中でも有名なところに宿をとった。支払いはアークが一括して行うから、心配しなくていいのは助かる。こういった任務や出張での費用は、アークが全面的に負担してくれるのだ。会社としては当たり前かも知れないが、アークは随分羽振りがいい。任務費用だけでなく、任務に必要な設備や機材も常時、備えてくれる。一人一人が専用のタブレットを持っているのも、アークから支給されたからである。

 ロッソがそのタブレットを取り出し、地図を開いた。四人とも、タブレットがリンクしているので同じ画面が映し出された。

「さて、まずはここを起点に行動するとして、カリンの移動範囲はここ」

 と、今いるホテルを中心とした円が描かれた。この円は現中国国内に収まっている。

「移動範囲って、一回のジャンプ?」

 カリンは、能力で瞬間移動(テレポート)することをジャンプと呼んだ。

「いや、片道三回のジャンプ。戻ることを考えたら、一日で出来る回数はそんなもんかなって。ちなみに、一緒にジャンプする人数が少なかったら、もっといける。カリン一人で一回のジャンプに全力注いだとして、最高記録は大体五百キロ弱ってところ。帰りの体力や人数を考えて、今回は一回五十キロ。つまり片道百五十キロを考えてる」

 ゴーグルに計算した(シミュレーション)結果が表示されているためか、カリンの能力について、全てロッソが説明している。トキテにとっては、とても違和感を感じる状況だ。二人の顔を交互に窺いながら質問を続けた。

「帰りを意識しなければもっと行ける?」

 これにもロッソが答えた。

「行けるけど、長距離ジャンプは着地点がズレるから。五十キロくらいなら誤差半径十メートルくらいだと思って」

「へぇ。結構精度高いな」

 トキテが感心して言うと、カリンは「馬鹿言わないで」と鼻を鳴らした。

「エージェントなら五十キロのジャンプで誤差半径は一メートル以内が当たり前よ。中には一センチメートルもずれない人だっているんだから。あたしは体力もないし。ロッソが割り出した距離がホント、限界。だから、依頼を受けるのには向かないの」

「でも十分さ」

 カリンの瞬間移動(テレポート)は、トキテにはない能力だから、単純にすごいと感じる。

 それに、トキテは他のエージェントやスタッフと組んで任務に当たったことが無いから、カリンの能力を比較しようもない。

「んじゃ、カリンのスペックがわかったところで、」とロッソが手を叩いた。こちらに注目、といった感じだ。「一日で片道百五十キロは、やっぱり効率が良いとは言えない。それに、飛んだ先で(しらみ)潰しに調査ってのも割りに合わない。カリンの能力を活かしつつ、効率良く任務に当たる!これが大事ね」

「……ロッソ、あんたって、意外といろいろ考えてんだな」

 真面目に感心すると、馬鹿にしてるのかとロッソは(おど)けた。

「相棒大事にしないとね。こういう事考えるくらいしか、カリンの役に立たないから」

 ゴーグルで見えないのに、ウィンクをしたらしい。それがカリンにだけは伝わったらしく、呆れたカリンに頭を叩かれていた。ロッソはずれたゴーグルを直しながら「えー、そんなわけで」と仕切り直した。

「さっき、現地スタッフから情報屋(インフォーマ)について仕入れたから、そこから情報を買って、ある程度(しぼ)ってから動こう」

「いつの間に?!」

 トキテが驚くと、外国での任務の初歩だという。現地スタッフは、それぞれがコネにしている情報屋がいるらしい。

「現地スタッフから情報を買わないのは?アークのスタッフなら安く買えるだろう?」

 ワンさん、キムさんの通訳をすぐに断ったトキテだが、よく考えたら現地人にいてもらった方が効率良かったのでは、と今更ながらに思い当たった。

 しかしロッソは首を振った。

「馬鹿言え。そりゃ、相手の言い値で買うのは同じだけど、現地スタッフは単なる仲介だぞ。情報を(もら)うまでに時間がかかることもあるし、プラスアルファの情報や、最新の情報は聞けない。現地スタッフが情報屋もやっているケースならいいけど」

 なるほど、さすがに運搬専門のスタッフをやっているだけあって、国外での動きをよくわかっている。

 国外での初任務にあたる上で、トキテが最も不安に思っていたのが、その国の文化に精通していないことだった。ロッソがこの国の文化に精通しているかはわからないが、国外で任務にあたる上での振る舞いを心得ているようだ。

 ロッソはにかっと笑った。ゴーグルで顔の半分が見えなくても、それがわかった。

「だから、明日はまず情報屋に行って話を聞く。その後、方針を立てて、実際に動くのは明後日。そんなわけでトキテ。今日は時差ボケでも治すこった」

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