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SHADE  作者: 真木 雫
43/45

ヨーコ

 ☆ ☆ ☆


 シャオという研究員は、ヨーコと同年代の男性だった。

 腕がよく、頭の回転が速い。そのため、オガタからの評価は高いのだが、出世意欲がないために、今でも小さな研究を複数掛け持ちしながら現場で活動している。オガタに言わせれば、大きなプロジェクトを任せたいほどの人物だという。

 そんなシャオの研究開発の一つが、リミッターだった。

 一般市販向けと軍事用の両方に携わっているらしい。しかし、その二つはそれぞれ違うラボで開発され、仕様も異なる。シャオは、その二つのラボの橋渡しとしての役目も負っている、とオガタからはそこまで事前情報として聞いていた。

 シャオに実際会ってみると、前情報から得られる『出来る研究員』という印象は全く感じられなかった。薄汚れた作業着に身を包み、あちこちに跳ねた黒髪。身なりを全く気にしていないのはもちろん、細く色白な身体は不健康そうにも見える。

「時間が惜しいんで。単刀直入にお願いします」

 初対面だと言うのに、歯に物着せぬ言い方だ。ただでさえ、研究員イコール変人の堅物、という偏見を持っているのに、これでは取っつきにくいではないか、と思いながらヨーコは恐る恐る答えた。

「リミッターを着用した能力向上訓練は可能ですか?」

 シノノメの異常な能力発動の瞬発力。普段はリミッターに抑えられた力が、一時的にリミッターの制限を超えて発動したとしか考えられなかった。ヨーコの行き着いた結論である。

「できるよ」

 ヨーコが何日も熟考した答えを、あっさりと肯定した。こうもあっさり認められると、拍子抜けというか、自分が物を知らないだけかと錯覚しそうになる。

「できるけど、なんで知ってんの?研究もシミュレーションまでしかしてないのに」

「私の息子が、リミッターを身につけてるんですけど……」

 とヨーコはなるべく無駄を省きながら説明した。話が長くなるのは、ヨーコとしても避けたいのはもちろん、シャオが嫌がると思ってのことだ。シャオは腕を組み、じっと話を聞く姿勢を見せながらも、その指はずっと忙しなく動いていた。

 一通り話を終わると、シャオは組んだ腕をほどいた。

「なるほど。で、自分もそれを試したい、と」

「出来ますか?」

 市販のリミッターで試したら壊れた事も伝えた。すると、それは当たり前だろう、という顔をされた。アークの能力者は普通の能力者とは違う、と。

「ま、そろそろ実験はしてみたかったんだけど、実例があるとは朗報だな」

 シャオの声が、明るくなる。

 それは何だか映画で見るワンシーンのようだった。狂った(マッド)科学者(サイエンティスト)が、被験体を見つけて、禁止されている実験ができる喜び。そんな印象を受けた。

 ヨーコは慌てた。

「っ!待って!シノは被験体にはならないから!」

「はぁ?僕はそんなこと、一言も言ってないけど」

「うっ」

 早とちり過ぎたかもしれない。

 あまり、シノノメとセキヨウのことは知られたくなかったのだ。特にシノノメは、アークに来てから治療と検査が重なり、病室や検査室を毛嫌いしている。まだ物を知らない少年だ。なるべくストレスをかけたくなかった。

「朗報というのは、そういう意味じゃない。僕がやろうとしている実験は、シミュレーション的に人体への影響が出ることが指摘されてる。このデータは無視できない。研究もストップする。だけど、実例があるなら、研究は続行可能ということだ。シミュレーションを否定できる材料だからね。できれば、その息子さんのデータを取りたいところだけど」

 それは、とヨーコは唇を噛んだ。

「我儘かもしれませんが、それは控えていただきたい」

「うん、いいよ。僕が決める事じゃないし」

 ヨーコはほっとする。でも、とシャオが言葉を継いだ。

「君が任意で研究に協力してくれるなら、話はもっとスムーズに進むよ」

「どういうことですか?」

「未成年を被験体にするのは手続きも面倒、てのもあるけど、軍事訓練用のリミッターの適用対象者は殆どが成人だ。未成年のデータをとっても、君に適用できないってことはままある。逆に言えば、息子さんに今のところ殆ど影響がないのは、未成年だからかもしれない。ヨーコさんが被験者をやった場合、何らかの影響が出る懸念は、息子さんのデータを取ったとしても、あまり変わらないってこと」

 どう?とシャオが聞いた。

 つまり、ヨーコに危険を承知で被験体にならないか、という提案だ。

 そんなの、決まってる。

「よろしくお願いします」



 …………



 あれから十年以上が経った。

 結論だけ言えば、研究は見事、実を結んだ。しかしシャオはその研究結果をアークに提出しなかった。虚偽の報告書をでっち上げ、有耶無耶にしたが、下手な報告書の嘘はすぐにバレた。

 その責を負い、うまく誤魔化してくれたのは、オガタだった。

 シャオは、どうしてオガタとヨーコが知り合ったのかも、どうしてオガタがシャオを紹介したのかも知らない。

 ただ、オガタが隠したのだ。

 ヨーコの死の真相を。

 ヨーコの死を知る者は、シャオとオガタの二人しかいないのだ。


 ☆ ☆ ☆

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