教会
アークに戻って一ヶ月。
トキテは任務につかなった。
理由は二つ。一つは勝手に僻地に行ったことでの謹慎。しかし、この謹慎は一週間で解かれた。
もう一つは、セキュリティの強化のため、アーク全体が一時的に外部との通信を絶ったために、誰も任務につかなかった。しかしこれも、トキテの謹慎中のことだ。
それ以降の三週間は、トキテも逆に寒気がするくらい、任務の話がこなかった。いつもなら上司ラルフが、一週間おきにマメに連絡を入れてくれる。その内容は「早く仕事しろ」というものが殆どだが。
暇なトキテとは逆に、ロッソは忙しくなったらしい。
運輸部に所属しているが、元々は研究開発部にいたこと、ネットワーク関係を中心とした機械に強いことから、セキュリティ対策委員会に入れられてしまったらしい。連日、会議だとかで謹慎が解けたトキテに愚痴りにきたが、それも一度きりで未だに忙しいようだ。
カリンはと言うと、こちらは通常の事務作業をしているという。建物内の移動がカリンは苦手で、需要がないためだ。建物内の移動が得意な能力者は、重役の秘書となって、お偉い方と行動を共にすることが多い。事務は、その雑務のサポートに回る。カリンもカリンで、連日仕事だ。
ただ一人、トキテは暇だった。
暇だと余計なことを考えてしまう。
キシルに会ったこと。
セキヨウを手放せと言われたこと。
ヨーコさんのこと。
ヒサメさんのこと。
わからないことだらけで、もどかしい。
無力で無知。
それがもどかしい。
足掻きたいのに、足掻けない。
それがもどかしい。
何か、したい。
そんなことを思うのは初めてだった。
そしてトキテには、どうすればいいのかの検討など、つくはずもない。相談できる相手もいない。
きっと、生きていたらヨーコさんに相談するんだろうな。
そう思ったトキテは、居ても立っても居られなくなり、ヨーコの墓参りに出かけた。もちろん、セキヨウも一緒だ。
アーク本社があるのは大都市で、公園らしいものはなくなってしまった。あるとしても、屋内の人工樹園くらいだ。昔は、公園の一角に墓地があったし、教会もあった。教会は残っているが、墓地と公園は消えた。墓地はない。墓参りとは、教会に行くのと変わらない。今では、礼拝と墓参りが区別されなくなってきている。
ヨーコを弔ってもらった教会はアーク本社の裏手にある。アークで育ち、独り身のまま逝ってしまったヨーコには、故郷というものがない。そういう社員はみな、この教会で弔ってもらう。
多分、俺もそうなるだろうな、と思いながら、教会の扉を開いた。
しん、とした堂内。ステンドグラス越しに堂内を照らす光。逆光で細部までは見えない十字架にかけられたキリスト像。
見慣れた教会内部なのに、色彩が違って見えた。
「おや、アークの方ですか」
神父が懺悔室から出てきた。何度も来ているので顔くらい覚えられてもおかしくはないのだが、神父はトキテの顔を中々覚えてくれなかった。
「お久しぶりです、ファーザー。今日は天に召されたヨーコ・トキテの御霊に祈りを捧げに来ました」
「ヨーコさんの縁者ですか。よくいらっしゃいました。彼女も喜んでいるはずですよ」
不思議と、弔った人のことは覚えているらしい。職業柄なのか、それともこの神父の特性なのかは、他の教会に行ったことがないトキテにはわからなかった。
神父に勧められるまま、最前列まで進み、キリスト像に向かって祈った。
ヨーコさん、俺はどうすればいい?
隣でセキヨウが真似て、祈りのポーズで俯いている。
待てども返事はどこからもない。
セキヨウは祈りが終わったのか、トキテを見上げている。トキテも顔を上げて、再びキリスト像を見た。
「セキヨウ、もう少し、ここにいていい?」
セキヨウは一度首を傾げたが、こくんと頷くのを見て、トキテは長椅子に腰掛けた。
ヨーコは死人だ。
ここに来たところで、答えなどくれないことはわかっていたのに。
頭の中がぐるぐるする。考えがまとまらない。
セキヨウはなんで喋らない?
セキヨウが喋れたら、どんなに良いだろう。
きっと、答えをくれるにちがいないのに。
トキテは目を閉じた。
瞼の裏で、過去の映像がぐるぐると回る。
頭がいたい、と思ったのも束の間、気付けばトキテは深い眠りに落ちていった。




