トキテ、知恵を絞る
おびき寄せる種は蒔いた。
これで監視者はこちらを視ることはできない。もし本当に遠視能力者が監視していたら、の話だが。
「リミッターに、こんな使い方があったなんて、知らなかったな」
「まぁ、普通は携行している人の能力を抑えるもんだからね」
トキテがこんなことを知っているのも、リミッターを持っているのも想定外のことなのだろう。カリンは先程からまじまじとトキテを見ている。
「そんな見られると、な、なんか俺、落ち着かないんだけど……。リミッターのこと知ってるの、そんなに変かな?」
いや、とカリンが首を振る。
「トキテがリミッターを内緒で持ってたのが意外過ぎて」
スタッフが、任務外にリミッターを着用していることは一般的である。しかし、エージェントにもなると、リミッター着用の義務は免除される。そのため、エージェントであるトキテが、リミッターを持っていることは意外だった、ということらしい。
「あ、だから絶対、他言無用だからね」
「って言っても、上層部はもちろん知ってんでしょ」
カリンに痛いところを突かれて、トキテは思わず視線を逸らした。
「え、嘘。アークに黙ってリミッター持ってんの?!」
いやいや、とトキテは両手を忙しなく交差させる。
「これ、元々俺のだし!」
リミッターを持つようになった経緯を話すと、トキテ以外の人物のことが大きく関わってしまう。そのことだけは言えなかった。
今どこで何をしているかわからない、あの人たち。
彼らのことを、他人に詮索されたくなかった。今となっては、恩義がある。もう、思い出の中の人たちだから―――。
「と、ともかく!」トキテは声を大きくした。「これで相手の超能力を無効化したんだ。次の手を考えないと!」
超能力の無効化。
つまり、リミッターである。
超能力に因る周囲の磁場変動を読み取り、逆磁場を発生させることで無効化するものだ。本来は、着用者の能力出力を抑える目的で、街中で普通に生活する超能力者には着用義務がある。例外はアークのエージェントくらいか。
アークは、PIST―――超能力者国際安全保障条約―――の特例措置法を成立させ、エージェントの着用義務を無くすために、随分と時間を割いた。この特例措置法は執行されてから、まだ数年しか経っていない。ちょうど、アークのCEOがカーロフからキエロフに変わった翌年である。ここにも、キエロフの改革が垣間見える。超能力者の活動は、この特例措置法によって飛躍的に効率が上がったと言っていい。
こうした経緯は、当時まだ子供だったトキテの知るところではないが、つまり昔はエージェントもリミッターを持っていたのだ。一般的には。
実情として、アーク内での着用義務は有耶無耶になっている。特例措置法によって、大手を振って、着用していませんよ、と公言できるようになっただけだから、エージェントの着用義務を律儀に守っていた人の方が少ないだろう。
だから、だ。
リミッターの、他の使い方を知る人間は少ない。
リミッターが、超能力を無効化できるのは着用者の範囲だ。つまり、局所的な無効化である。実は、この効果の範囲を広げることは容易い。簡易的なリミッターでなければ、できるのだ。
トキテはその方法を知っていた。
そのため、今はトキテたちがいる周囲数メートルの範囲の超能力を無効化できている。これで、遠視能力者はこちらの様子を見れなくなっているはずなのだ。
果たして、この方法が上手くいっているだろうか。
トキテは、カリンとの話し合いを続けた。




