プロローグ
第三次世界大戦は、地球そのものをかなり疲弊させた。
人間だけでなく、国だけでなく。
ありとあらゆるものを破壊して、あるべき姿を歪みへと変えてしまった。
あれから百年。
それでもヒトは生き、時は進む。
そして―――
また、同じ戦乱の世へと突き進もうとしていた。
☆ ☆ ☆
「はぁ〜……。想像以上だな」
「いや、報道通りだろ」
「表面上は、……なッ!」
そう言うと男は、積み上げられたコンクリート片からコンクリート片へと飛び移った。
足場を確認して揺れないことがわかると、後ろを同じように付いて来る女に頷いた。女は表情一つ変えず、軽々と飛び移った。
手を貸す必要が無いのは頼もしいが、可愛気に欠けるのは少々残念である。いつになったら頼られるのかな、とチラリと考え、イヤイヤと男は頭を振った。
(あいつが男を頼るのなんて想像出来ん!)
一人、考えに没頭して足元を疎かにしていた男は、瓦礫に足を取られた。
「うわっ!」
バランスを崩しかけ、倒れそうになる。
しかし―――
「大丈夫か?キシル」
大の男であるキシルの右腕をがっちりと掴み、平然としている女を振り返った。
「あ、ああ。助かったよ、ヒサメ」
キシルが応えると、ヒサメは掴んだ腕をぱっと放し、首を傾げた。
「どうかしたか?」
「え、いや。何も」
そう、とヒサメはすぐさま興味を失った。目線をさっと動かして、周囲の様子を確認する。
やれやれ、とキシルもまた周囲を警戒しながら進み始めた。
およそ都市とは呼べないこの地域は、確かにかつては世界屈指の都市だった。もう、百年近く前の話である。
当然、キシルはその姿を古い映像でしか見た事がない。
そして、その映像と目の前の光景は何をどう解釈したって結びつくものではなかった。
廃墟と化したビル群、崩れた建物の山、放置された機械のゴミ山、そこに巣食う孤児や犯罪者。
世界に憧れられた豊かな都市の面影と言えば、高層ビルの廃墟であるが、今では幽鬼となったビルとしか、キシルには思えなかった。
あそこには、亡霊が住むのみ。
ヒサメもそう思うからだろう。ここでの調査に乗り気ではなかった。唯一、ヒサメが関心を抱いたのは、ヒサメの祖母の生国だということくらいである。
ヒサメもキシルも、この土地のことなど全く知らないのだ。
瓦礫が転がる道なき荒野を、GPSで位置確認しながら進む。目的地は近づいているが、道が無いのと、どう見ても危険だとわかる荒野に、思うように足が進まなかった。
陽が傾き始めている。
暗くなる前には宿泊場所に戻らなければ、野宿になってしまう。
キシルは時計と太陽の位置を確認する。
「ヒサメ、戻るか」
GPSを持っているのはヒサメで、彼女が道順を示してここまで来た。
「そうだな。明日はもっとスムーズに進むだろう。今日は引き返しながら、安全な道に印をつけておこう」
印と言っても、機械が今日の道順を記録している。帰りながら、安全かどうかを記録に追加するだけで事足りるから、大変な仕事では無い。
キシルは念のため、自分の左手首に巻いている端末を起動させた。地図への記録だけなら、キシルも手伝える。
そうして二人は、廃墟へと一度引き返していった。
☆ ☆ ☆




