トキテ、カリンと思案する
「とにかく」とカリンが口を開いた。「アークに連絡を取ろう」
頷きつつも、トキテは気まずそうにカリンを窺う。
「俺、マジで端末置いて来てんだよね」
上海の飛行場。ロッソのジェット機の中である。アークから支給された端末だから、元々会社との連絡用としか使っていない、というのもある。しかしそれ以上に、トキテは機械音痴だ。
大丈夫、とカリンは頼もしく頷く。
「あたしのがあるし。とりあえず、うちの上司に繋ぐよ」
しかしそれは叶わなかった。
なぜかネットに繋がらない。宿にあるパソコンを使っても結果は同じだった。カリンも機械に強いわけではない。原因はわからなかった。
「ただ一つ言えることは、あたしたちは監視されてるね」
部屋に戻って、盗聴器の類がないか、一通り確認してから三人は腰を落ち着けた。
「監視っても、盗聴器とかはなかった。遠くから見られてるとしても、この周りには該当しそうな建物はないけど」
トキテは窓の外を見る。
この辺りは高い建物が少ない。砂漠が近い辺境地だ。それでもかつては高層ビルが立ち並ぶ大都市として栄えていた。それが重慶だ。だが、重慶の中心地は、今や砂に埋もれている。トキテ達がいるのは、重慶の外れで、砂に埋もれなかった街だ。
トキテの言葉に、カリンは頷く。
「そうなると、答えは自然と絞れてくる。超能力者だよ」
遠視能力。
それなら監視は簡単だ。
「そしたら、何をどうしても俺らの行動は筒抜け、か……」
「問題は、相手が誰で、何の目的で見てるかってこと……」
「ちょい待って」トキテが思いついて遮る。「俺、今まで遠視能力って遠くを視るだけの能力って思ってたけど、もしかして、会話も丸聞こえ?」
「ああ、それは能力者のランクによる。アークのランクAのエージェントはそれ、できるらしいよ」
「だったら、俺らの会話もまずくないか?」
「あたしたちに精神感応力があれば、口での会話なんてしないんだけどね。それか防御能力ね」
「…………」
精神感応力。
確かに相手の脳に直接話しかける能力なら、会話を聞かれることもない。
精神感応能力者はかなり多いが、カリンもトキテもその能力はもっていない。
防御能力、もしくはアンチスキルと呼ばれる超能力は、相手の能力を無効化する力で、現在アークにもいない、とても稀有な能力だ。
確かに、今の状況を打開するには、どちらかの手段がないと無理だろう。
ここでカリンと話し合っても、相手に筒抜けでは、こちらは後手である。
しかし、それは推測でしかない。
「相手が……本当に超能力者だと思う?」
「可能性は高いと思う。まぁ、こちらの考えすぎなら有難い話ってとこかな。最悪のパターンは想定しておかないと」
盗聴器がないから遠視能力者を連想するのはこちらの考えすぎだとしても、アークへの連絡だけが通じないのは、能力者がいることを裏付けている。可能性は高い。
トキテにも、それはわかる。
ただ、それが杞憂で終わればという、甘い考えが頭の隅にある。この状況を否定する材料が欲しい。
さっきは、偶々ネットトラブルがあっただけ。ロッソはそろそろ帰ってくる。
何でも良い。
誰かに否定してほしい。
この、不透明な気持ち悪い何かに包まれているような、落ち着かない気持ちから逃げたかった。
……あの時はよかった。
もう戻らない過去。
セキヨウと二人で必死に生きていたあの頃。
何の柵もなく生きていたあの頃。
そんな幻には、もう掴まっていられないのだ。
「カリン」トキテは迷いの消えない頭を振って、カリンをまっすぐ見た。「今から話すことは、絶対に他言しないって約束してほしい」




