トキテ、廃墟群に向かう
「廃墟だな」
ただし、半分は砂に埋もれている。
砂漠と言ったら、一面黄土色の砂が作る何もない景色だと思っていた。
だが、乾いた土地が風化し、砂になる。硬い地面が露わになった場所もあれば、風でさらさらと音を立てて砂が流れる場所もある。そして、旧時代の廃墟も。
どう見ても、人のいた土地が砂にのまれた。そんな印象である。
「老朽化してるから、下手すると崩れるだろうな」
ロッソがゴーグルで建物を見る。
今は、高台から砂漠と化した廃墟群を見下ろしている。建物がどのような状態か、トキテにはよくわからない。ロッソのゴーグルにはおそらく、望遠機能もついているのだろう。
この廃墟群は、情報屋から「超能力者が潜んでいる場所」と教えてもらったところだ。この何処かに、いる。トキテたちの任務は、その超能力者を突き止めることだ。
しかし、問題はどの辺りにいるか、だ。手当たり次第、建物に入って調べている時間はない。それ以上に、建物に入ることが危険だ。
原型を留めている建物ほど、実は怖い。いつ崩れるか、わからないからだ。だが、建物内に遺された情報や、人の痕跡は探りたいところである。
「百キロくらいならいける、だよな?」
ロッソがトキテの方を見た。
何、と聞くと、トキテの能力で建物を支えながら中に入ると言う案を出してきた。
「げ。それ、難しい。どこにどれだけの力を加えればいいかがわからないじゃん」
「例えばさ、自分の周囲に障壁張れないの?」
「それ、俺の能力じゃないよ」
違うって、とロッソは笑った。
「念力って、要は力場を発生させてんだろ?考え方の問題だけどさ、自分の周囲に常に反発力を発生し続けられないの?」
あー、とトキテは天を仰ぐ。
難しいが、理論上は可能だ。だけど、トキテには常に一定の空間に力場を発生させ続けることが難しい。
念力能力の持ち主は、基本的に力を爆発させるタイプが多い。要するに、力任せに能力をぶつけるのだ。稀にコントロールがうまい人がいる。そういうタイプは他の能力を持ち合わせている。例えば、建物の外側から念力で中にあるものを浮遊させ、移動させる。この場合は、念力だけでなく透視や遠視も必要だ。このような複合能力者は少ない。アークにも五人しかいない。その五人は全てランクSのエージェントである。
「ロッソのゴーグルで中を見れないの?」
「ああ、サーモスコープや赤外線はついてるけど、壁の向こうを見るのはなぁ。最近開発された生体感知器だろ?ないよ、流石に」
「あたしが行こうか?」カリンが聞いてきた。「あたしがテレポートして中に入れば、余計なもの触らずに行けるでしょ」
駄目だよ、とロッソがすぐさま反対する。
「中にどう部屋があってどんな物が置いてあるかわからないのに。それに第一カリンは……」
「外から見てわかる範囲で行けばいい」
「でも危険だ」
「危険はつきものでしょ」
パートナーに危険を冒すことをさせたくないロッソの気持ちは、トキテにもよくわかる。でも、カリンは超能力者だ。危険があれば、対処できるだろう。カリンに中の様子を見てもらうのがいい。しかし、このあたり一帯の廃墟を探すのは骨が折れるだろう。カリンには、帰りの道のりもあるのだ。
ロッソとカリンが押し問答する横で、何かいい手はないかとトキテは腕を組んで考えた。
「ん?」
セキヨウが、トキテの裾を引っ張った。
「どうした、セキヨウ?」
セキヨウがスケッチブックを開いた。スラスラと絵を描いていく。それはとある廃墟の絵だ。トキテはセキヨウに頷いた。
「ロッソ!」口論が続く二人は、力関係でそろそろロッソが折れそうな頃合いだった。「あっちの方。セキヨウがそう言ってる」
「言ってる?」
カリンが振り返って聞いた。
言いたいことはわかる。セキヨウは喋れない。スケッチブックに絵を描いただけだ。読み書きもできない。読み書きはトキテもできないが。
「どういうこと?」
カリンがスケッチブックを覗いた。
「セキヨウは結構耳が良いみたいで。音の反響から周囲の環境が分かったりするみたいなんだ。俺も詳しくはわかってないんだけどね」
セキヨウが描いた廃墟。
そこから物音が聞こえたことを意味する。音の方向、反響から建物の形を推測したのだ。
「そんなことが可能なの?」
半信半疑の二人だが、トキテはセキヨウの、この得体の知れない能力を信じていた。
「超能力?」ロッソが尋ねる。「いや、でもそんな能力は聞いたことないな……」
「本当は透視能力があるんじゃないの?」
カリンの言葉にロッソは首を振る。
「透視の場合は、透過させたい物体に触る。遠視の場合は、目と耳を閉じる。でもセキヨウちゃんは何にも触ってないし、目と耳を閉じている様子もなかった」
「詳しいな」
感心してトキテが言うと、ロッソは肩を竦めた。
「俺、実はパートナーがころころ変わったんだよね」
初耳である。ロッソのパートナーはカリンだけだと思っていた。
たまに、パートナーが変わる者がいる。大抵は超能力者側が、パートナーシップの解消を切り出す。ランクが高く、プライドが高い能力者ほど、その傾向が強い。
「ま、とにかく、セキヨウちゃんのは透視でも遠視でもない」
あれ、待って、とトキテはあることに気付いた。
「カリンって、もしかして遠視能力あるの?」
ジャンプするとき、カリンは目を瞑っていた。単に集中するためだと思っていたが、よく考えれば、ジャンプ先の映像が見えないのはテレポーターとしては少し怖いはずだ。何せ、目を閉じて歩くようなものである。
視えるよ、とカリンは簡単に肯定した。
「移動能力者はみんな遠視能力を持ってる。でも、メインの能力じゃないからねぇ。オマケでついてる感じ?だから、移動能力とセットなの。あたしの場合、ジャンプの直前にしか視れないし、近距離の遠視は無理。あたしって、実は中・長距離移動専門なんだよ」
カリン、とロッソが窘める。ゴーグルで顔は見えないが、きっと渋面だろう、とトキテでもわかるくらい、ロッソは語気を荒げた。
「喋りすぎだ」
「仕方ないでしょ。長期任務やってると、あたしが近距離テレポート苦手なのはそのうちバレるもの」
確かに、街から街への移動はカリンに頼ったが、街の中を移動するのにカリンは能力を使わない。トキテは能力を温存しているのだと勝手に思っていたが、そういった事情があったからなのかと納得した。
「でもまぁ、これならジャンプできるかも」
カリンがセキヨウのスケッチブックを手に取る。
「あたしの自慢はね、二百キロ以内だったら正確な方向と距離がわからなくても、写真や映像でジャンプ先の風景を知ってたら跳べることなの」




