第九回 王を偽る者たち
「ひゃー、疲れたのだー!」
コップ王国での役目を終え、暇を貰い別の国で休息を取る四人。しかしそんな事情を知らず、カミングワークの役人は彼女達に書を届ける。
「何々、『領土拡大の手伝いをして欲しいれす。 カイライ王国 ライ・ライトニング国王より』れす」
「ひー、何故こんなタイミングでそんな事を!」
「仕方ないですよ周瑜殿、あちこちで戦が起こっているんですから」
「いいじゃないか、活躍する時が来たんだ! これは名が広まるぜ!」
「んなこたわかってるのだ! 行くのだ!」
四人は早馬を飛ばし、カイライ王国に到着。貧しさ漂う街を歩き、王の住む場所とは思えない程こじんまりした本城におもむく。
「やぁ、僕はカイライ王国のライ・ライトニングだ。よろしく」
と、容姿端麗な青年、ライ国王は、四人を迎え入れた。
「受けに弱そうな王様だぜ……」
「えー、では領土拡大と話は聞いています。してその詳細は?」
国王は四人に説明を始める。内容はこうだ。
この辺りはかつて大戦乱のせいで諸国王が死に、民が飢え続ける荒れた土地となった。
それを可哀想に思った国王はここに国を起こし、汗水垂らして復興に没頭し、微量な発展を遂げつつ民達を守ろうとした……が。
「似たような考えをするNPCが現れて、ここに隣接する国が北、東、南に三つも現れ、三方向から狙われているんだ」
「同盟ではダメなのか?」
「どこもまるで言う事を聞いてくれない上、西にデスクマット王国という、日の出の勢いの国がある。それに完全に対抗できるように、組むより奪う方が得策だと思ってね」
「それには問題は無いと俺は思います。して、作戦は……」
「兵三千を君達に預ける、後は好きにしていいさ。僕はあまり戦慣れしていないから……」
「よーし、じゃあ皆行くれすよー!」
「「「おー!!!」」」
(賑やかな人達だな……)
こうして四人は兵を預かり。手始めに南へ軍を進めた。
その頃、南の国では。
「大変ですジョン国王! カイライ王国からの軍が迫っております!」
NPC
名前:ジョン
ランク:三
性別:男
武力:一 知力:二 政治力:二 統一力:二 魅力:一
「何の心配も要らん! 私には神の恵みが如く将兵と、この私がいるのだからな! 直ちに兵をまとめよ!」
ジョン王は将兵をまとめ、進軍。何の変哲もない草原で寄せ手と激突、一進一退の攻防を繰り広げた。
「なかなか骨のある将兵ですね。正面突破は無理……なら呂蒙殿! 様子見がてら側面へ奇襲をしましょう!」
「奇襲だな! 任しとけって!」
呂蒙と陸遜はシンプルに敵軍の側面へ回り、突撃をかました。
「おら! 呂子明が、終戦の鬨を上げに参ったぜぇーっ!」
ジョン王を守る将兵は、多少動揺するも即対応に入る、
「奇襲された……まずい、逃げなければ……」
怯えに怯え、肝心の国王が国に帰ったのにも関わらず。
「ん、あれ? 何なのだ、あの引き返していく奴……どえらく目立つのだ」
「豪華な格好れすね~」
前線を指揮する周瑜と魯粛は何となく、敵軍の背後の様子をつぶやく。それを聞いたジョン軍は……
「おい、どうなっているんだ!」
「やばい、ジョン国王が帰ったぞ!」
「逃げろ逃げろ!」
おいたわしや、ジョン軍は国王に事実上の奇襲され、即刻引き返した。
「……魯粛、これは策だと思うのだ?」
「それにしては慌て具合が迫真過ぎるれす。仮に策有りとしても、気を付けて進めば大丈夫だと思うれす」
二人は警戒しながらの追撃を続け、元いた将兵の半分を蹴散らしていく。
「門を閉めろ! 暫し時間を作る!」
残りのジョン軍は命からがら国に帰り、本城に閉じこもった。
無理に攻めても意味は無い、門の前で陸遜と呂蒙と合流し、相談を始めた。
「この辺の木を使って衝車を作ろうぜ!」
「蒙ちゃん、不思議に思う事はないのだ?」
「あの国王が臆病過ぎる事だろ? 大丈夫だ、あれが演技だとすれば、奴は寄せ手を防ぐのに半分の将兵と名誉を捨てる阿呆だからな!」
「理には叶ってるれすよ。呂蒙殿の言う事。」
「しかし、ここは待った方が良いでしょう。さすれば絶対勝てるはず」
数十分後。四人が待機する場とは違う門から、ジョン王を先頭とした少数精鋭が出撃、
「待てー! この無能がー!」
直後、彼を追う、殺気を帯びた大軍が同じ門から出撃した。
「「「……」」」
「ほら、勝手に自滅し始めましたよあいつ」
呆れる四人を他所に、近くの門が開き、白旗が上がった。
「皆様方、どうぞお入りください。見ての通り、本国は今日を持って降伏します……はぁ」
*
失地したジョン王は、足りない頭の代わりに育った逃げ足で、カイライ王国の東にある国へ落ち延びた。
「カラカラ帝! 南のジョン王が参りました!」
「アントニヌス帝と呼べ! 確かにウィンドウにはそう書いてあるがな!」
NPC
名前:カラカラ
ランク:三
性別:男
武力:二 知力:一 政治力:一 統一力:二 魅力:二
「して、ジョン王は何の用事があってここに参った」
「ええ、それは……我が国をカイライの軍が攻め滅ぼしました! その余熱でまもなくこちらに来ます! 私はそれを知らせ、仇討ちの手伝いを願いに来ました……」
「ほう、あの有能な家臣を沢山連れたジョン王を下す程、カイライ軍は精強か……はぁ、アホらしいわ!」
カラカラはジョン王を訓練所に連れ、己の精強な兵を見せびらかした。
「戦は将が手足になりするものではない、王自らが兵を従え、士気高々にするものだ!」
カラカラは自ら国旗を持ち、馬にまたがり、兵に叫ぶ。
「行くぞ、一騎当千の兵達よ! カイライの王に目にもの見せてくれよう!」
カラカラの兵はそれに応え、星を落とすと思う程大きな雄叫びを上げ、戦場目指して歩き出す。
「凄い士気ですな、アントニヌス帝。何をどうすればこうなるのです」
「単に多く金を払い、先程のように強い王である事をアピールすればいい。後々試してみろ」
カラカラの脳内は、戦場で活躍する自分の兵の姿で一杯である。故に、彼はまだ実戦していないのに、勝ったような気分で馬にまたがっていた。
その道中、カラカラの妄想を邪魔する者が現れる。
「民を案じろー!」
「これが君主のやる事かー!」
「軍人気取ってるんじゃねー!」
国の金は限りがある、だからご利用は計画的にしなければならない。
しかし、カラカラはその金の大半を軍事に割き、それにより金が足りなくなれば貧しい民にすら重税を課し、金持ちに難癖をつけ飢えをごまかす。
故に民達は、このようにカラカラに対するデモを頻繁に行っているのだ。
対して、カラカラは、
「皆、前哨戦だ! 奴らを討て!」と、兵に命令、あっという間に民を屍に変えた。
「……あのー、アントニヌス帝、これは一体」
「国民の義務は『国敵との戦い』である。兵は戦場でそれをし、そうでない民は金を用意し戦争を支援する、さすれば我は安寧を与える。
しかーし! 奴らのように戦いをしない者、国敵の見分けのつかないものは……殺す! 誰であろうと殺す! どれだけ賢かろうが殺す! どれだけ偉かろうが殺す! 例え弟だろうとも殺す! 何故ならそれは我のためでもあり、国のためであるからだ!」
ジョン王は適当に返事をし、胸の内の恐怖を圧し殺し、カラカラに付いていく。
かくて戦場に両軍が揃い、戦闘を開始した。
ライ軍は先程同様、奇襲を仕掛けカラカラ軍を揺さぶるが大局に響かず。
結果、日暮れには互いに成果を得られず、とぼとぼ野営地に引き返した。
「むー、やっぱりトントン拍子にはいかないのだ。あの装備も整い、よく訓練された兵……皆、打開策はないのだ?」
「この陸伯言に妙案があります。俺に五〇の兵をお渡しください」
「たったそれだけなのだ? まあいい、行くのだ!」
陸遜は兵を持って、こっそりとカラカラの陣に侵入する。
それを知らないカラカラは、ジョン王と兵士達と共に、宴会をしていた。
「さあ飲め飲めー! 我は優秀な兵には遠慮せんぞー!」
カラカラは兵に『軍の長』としてのアピールを欠かさない、自ら兵達一人一人に酒を振る舞っていた。
「申し訳ありませ~ん! 遅れました~!」
そこに遅れた兵がやってくる。兵には甘いカラカラは怒らず、「そんな事どうでもいいから飲め!」にこやかに酒を注いだ。
時が経つにつれ宴会の盛り上がりは増し、兵達の大半はだらんとし始めた。
それを快く思わない者が一人。
「アントニヌス帝、ここに敵が攻めてきたらひとたまりもありませんよ」と、ジョン王はカラカラに進言する。が、
「大丈夫だ! 見張りの兵がいるからな!」
すっかり上機嫌なカラカラは、真に受けてくれなかった。
何よりも奇襲を恐れるジョン王である。見張りの兵だけでは心細くてしょうがなかった。
(ああ神よ、どうかこちらに奇襲しないでくれ……)
その願いは、真逆の意味で叶えられた。
「手前かー! この軍の大将はー!」
とある小柄な兵が突如、カラカラに槍を突きつける。連鎖的に五〇人の兵が味方討ちを始めた。
「小僧! 何の劇だこれは! 個人的にちっとも面白くないぞ!」
「どんだけ酔ってるんだ手前はーっ!?」
小柄な兵は、見張りの兵から奪った服を脱ぎカラカラに投げつける。
「これでわかったろ、俺がただ者じゃあない事を!」
陸遜は自分の服に着替え、改めてカラカラを襲う。
「アントニヌス帝! 大変です! ライ軍がこちらに攻めてきます!」
猛スピードで迫るライ軍を、ジョン王は馬上で震えながら捉えた。そしてカラカラに手を差しのべる。
「何故負けた気でいるジョン王! 我には精強な兵が……」
「周りを見てください!」
周りでは酒でヘロヘロになった兵が、わずか五〇の敵兵に、むざむざと討たれていた。
「……国に帰るぞ! 付いてこれるものは来い!」
カラカラは馬に乗り、ジョン王と共に疾風の如く、国に逃げていった。
……そこに真の敵が潜んでいる事を察する能は無かったのだろうか。
「このカラカラー! 何あんだけ偉そうにして負けてるんだー!」
民達は負け姿のカラカラに猛反発、彼が国に帰って早々、火掻き棒や包丁で襲いかかった。
「使えない国だぁーっ! 逃げるぞジョン王ー!」
「何故逃げた先でもこんな目に合わなければいけないんだー!」
こうして二人の無能君主は、国を捨てて逃げたしたのであった。
「ばんざーい! 新国王ばんざーい!」
「……トントン拍子れすね」
*
二人の無能君主は、カイライ王国の北に逃げ延びた。
「よくぞ参った、ジョン殿、カラカラ殿」
NPC
名前:徽宗
ランク:三
性別:男
武力:一 知力:一 政治力:一 統一力:一 魅力:四
「わざわざ助けてくれてありがとうございます」
「見ての通り我々は国を奪われ、ここに逃げた所存。もうじきこちらにも、我々の敵が来るでしょう。ですから……」
「何か対策を打て、と。お安いご用であるぞ。
汝らに問おう、戦とは、何を使い行う物か?」
「技でしょう、兵達や戦場を思うがままに操るためにはそれしかない!」
「戦は力と力のぶつかり合い、なら大事なのは力だ!」
「どちらも悪くはない……が、朕は心だと思う。負けると思えば負ける、降参したいと思えば降参する。人は己の心に背くのは難しい訳だ……故に戦は、敵の心を動かす事が第一の必勝法と思っている。
そして人の心を動かす上で最も簡単なのは、『芸術』だ」
徽宗は紙と文具を部下に用意させ、流れるように筆を振るい、見事な水墨画を描き上げた。
「「おお~~!!」」
「これを敵に届けたまえ、そして和睦を要求したまえ」
部下は早馬を飛ばし、孫呉の四人の元へ向かった。
「私は徽宗様の部下でございます。あなた方にこれを届けに参りました」
「ほぉ~、一体何なのだ?」
周瑜は恐る恐る、水墨画を広げる。あまりにも上出来なそれが、彼女の目に飛び込む。
「凄いのだ! 凄いのだ!」
「大変お気に入りのようですね、しかし申し訳ありませんがタダとは言えないんですよ……もし、私の陛下と和睦を結んでくれるのなら……」
それを聞くや否、彼女はあれほど気に入っていた水墨画をビリビリに破った。
「ちょっ、何してるんですか!」
「こんな物で懐柔出来る程ボクは愚かではないのだ! その首が塩漬けになる前にここから出ていくのだ! そして言うのだ、『お前に残った道は、降伏か死滅』だと!」
怯えきった部下はカイライ軍の陣から逃げ、徽宗に伝言した。
「ジョン殿、カラカラ殿! どうしようか!」
「「おいおいおい」」
足りない頭で出来る限りの事をやった三人は、これを打開する、己を超えた策を放り出そうとする。そして……
「大変です! カイライ軍が目と鼻の先まで来ました!」
当然の帰結。何一つ出来ずに窮地に陥った。
「朕は死にたくないぞ! こんな道半ばで!」
「何が悪いと言うんだ、我が一体何をした!」
「ああ神よ! どうかこのジョンに、救いをくだされ!」
それがどんな気になったのかは全く知らないが、神の救いが、伝令という形でやって来る。
「徽宗様、力になりたいと、城に浪人が訪れました」
「直ぐに呼びたまえ! 選別する隙はもう朕に残っていないのだからな!」
数分後、浪人が三人の前に姿を現した。
「お初にお目にかかります、我輩の名は……」
NPC
名前:蘇我入鹿
ランク:四
性別:男
武力:一 知力:八 政治力:八 統一力:六 魅力:一
その情報ウィンドウを見て、三人は無意識にひざまずく。
「ランク四であったか、これは失敬!」
「いえいえ、些細な事ですから……あなた達の現状に比べてはね」
入鹿にとっては全てお見通しであった。だが、見通すだけでは何も起きない、後に、情報を活かした策を立てるのが真の賢者である。
それを当人は、即、証明して見せる。
「よくお聞きください、これが我輩の策であります……」
*
カイライ王国にて。
「陛下、南と西の国は制圧が済み、その王であるジョンとカラカラは北の国に逃亡した模様。そして北の国は未だに籠城を続けています」
「ご苦労……敵は何を求めてここまで籠城を続けているんだ?
と、そこへ別の伝令が駆けてくる。
「報告! ただ今、ここ近辺の浪人が、怪しい者を捕らえて来ました。調査の結果、その者は書を持っていました! こちらです!」
伝令より書を受け取ったライ国王は、その内容に思わず身震いする。
「『そなた達の気持ちはしかと受け取った。至急カイライ軍攻略の兵を寄越す。よって具体的な策を返事と共に寄越せ。 デスクマット王国国王』」
「危ない所だった……先の君、その浪人を呼べ!」
数分後、国王の前にかの浪人が姿を現す。
「我輩の名は蘇我入鹿と申します。で、何用ですか?」
「あなたがデスクマット王国の伝令兵を捕まえていなければ、この国は多大な損害を被っていたかもしれない……」
国王は自ら頭を下げる。対して入鹿は首を横に振って、言う。
「この程度では我輩は評された事にはなりません。かの書を送った張本人を倒してこそ評されるべきであります……一つ私の頭の中に、妙案がありましてね……張本人を最小限の力で倒す方法が」
*
周瑜達は徽宗の本城を囲い続けていた。攻めあぐねている訳ではない、最小限の力で敵を打つ時を探っているのだ。
「捕らえた住民の情報によればこの地の長、徽宗は己の芸術の為なら国民に重労働を課せる事もいとわない者だと」
「勿論捕らえた住民はありったけの飯と酒をやって満足させてから返したぜ! そうすれば国中の民がこちらに寄って、大反乱を起こさせられるからよ!」
「なーんかあっけない戦だったのだ、どいつもこいつも自分の家臣や民とか、下の者のせいで負けたのだ。これじゃあちっとも名声は上がらないのだ」
「違うれすよ周瑜殿。国の中で最も大切なのは『下』れす。王は家臣に守られなければいけない、家臣は兵を連れなければ戦えない、兵は民が食糧を作らなければ生きていけない、そして王は民がいないと国を保てないんれすよ。
まさかあなたという御方がそれを忘れてないれすよね?」
「んなまさかなのだ。ボクが言いたいのはそれすら出来ないあの馬鹿共など、誰でも倒せるという事なのだ!」
「言い切ったな~、周瑜殿……ん、何だ?」
突如として周りが騒がしくなったので、四人は話を止め、原因を探す。
「あの旗は、国王の物だ!」
その旗の意味は『直属軍』……ライ国王が、精鋭兵を連れて到来したのだ。
「聞いているか、貴様の企みは私の手に握られている!」
国王はデスクマット王国の返事の書を、壁を守る兵に広げて見せる。兵は慌てて城に戻り、三十分後、援軍を絶たれ、絶望しきった徽宗はジョン王とカラカラを連れて、ライ国王の下に屈した。
「「「参りました」」」
こうしてカイライ王国は、三国分の領地を見事獲得したのであった。
「ばんざーい! ばんざーい!」
国王は凱旋して早々、国民達の地鳴りめいた歓喜を耳にする。が、それよりも彼の心は、道の先に立つ一人の男に行っていた。
「お帰りなさいませ国王。話は既に聞いてあります」
「これはこれは入鹿殿!」
国王は馬を降り、入鹿の手を握り、叫ぶ。
「ここにいる者は皆、私の為に働いてくれた、勇猛かつ忠実な兵である! 民達よ、これを賞賛せねば、一体誰を賞賛するのだ!」
民達は精力を使い果たすかのような勢いで、更なる歓声を上げた。
「これでよろしいでしょうか、入鹿殿」
そう問われた入鹿は、笑って首を縦に振ったのであった。
……これが彼が最後に行った演技である。
翌日。王は孫呉の四人を呼んだ。そして一国の統治権を与えようとした、が。
「結構れす。私達はこの世界に真の実力を轟かせ、自らの評価を上げるという信条があるれす。だからあちこちを回らなきゃいけないから、仕官は出来ないれす」
彼女達はスタンスを崩さす、報酬金だけを受け取り国を去った。
波乱の萌芽を残したまま。
【第九回 完】




