第七回 ランク六が来る
「おお、よく来てくださった皆様方」
早足で目的の城に訪れた四人を、国王は自ら出迎えた。
「長らくお待たせしたのだ。まずボクの名ま……」
「コップ王国のキム・グイと言います。早速ですが国へどうぞ」
せかせかと国王は四人を国に案内した。囲いの壁は崩れ、家屋は倒れ、本城すら壊れ、兵士達が何かに追われるように修復を行っていた。
「この国はつい最近、国盗りを成して得たものでして。その際に後の事を考えず、色々失いました」
歩く最中、呂蒙は周りへ目をやると、この国の重役であろう者が睨み付けてきた。
故に彼女は顔をしかめる。それを見て国王は、言葉を付け足す。
「……勿論、人材も。彼らはきっと、ランク四と並び立つのを快く思っていないんだ、すまない。けど僕は君達に来て貰って本当に嬉しかった、ありがとう」
「まだ感謝するのは早いれす、ここに戦勝の勝ど……」
「ところで、本当にあの値段でいいんですよね? ランク四の四人を雇うにしては格安な気がするのですが」
ここで解説を入れるとしよう。
ランク四が仕事にありつきにくいのは強さが微妙なのに要求する給料が高いという理由がある。
四人はそれをどうにかするため、協議の上、四人合わせて、ランク五を雇う程度の給料を要求する事にした。
ランク五の給料がランク四の四倍とは言えない。しかし仕事にありつけなければ元も子もなくなる。
まさに苦肉の決断であった。
「ああ、アタシ達に二ご……」
「安値で働かされてるからといって、手を抜くのはやめてくださいよ」
やがて一行は城の高台に着く。国王は西を指差し、言う。
「ここから五〇〇キロメートル先に、コップの敵、カバー王国があります。今こちらに進軍中です。
国は見ての通りボロボロなので、ただいま急ピッチで修復作業を行っておりますが……念の為にあれを」
コップ王国は五メートル程の壁に囲まれ、その周りは平坦な地で囲まれている。肝心なのは西の、壁付近に設けられた陣である。
「兵糧等を考えると、メインで攻めてるのは間違いなくあそこでしょう。ですから私はあそこに九割の兵を置き国を守り、万が一国に侵入されたら一割の兵で、ごちゃついた街をいかして奇襲を繰り返すつもりです……いかがでしょうか?」
「地形、財力を考慮するとそれが最適でしょう。ところでこちらとあちらの兵りょ……」
「兵力はこちらが三万、あちらが二万です」
「おお、なら大丈夫じゃないか! 防衛戦に勝つには三倍の兵が望ましいというからな!」
勝ちを確信する呂蒙に対し、周瑜は気難しい顔をする。
「どうしたれす周瑜殿? 何か不安でもあるれすか」
「さっき見た兵士の様子がおかしいのだ、まるで得体のしれない何かに怯えるような。戦いが怖いという事は、国取りを成した兵としてはあり得ない考えだと思うのだ……?」
キム・グイ国王は、珍しく食い気味にならず。静かに話し出す。
「その通り、兵達は今恐怖の淵に立たされている……カバー王国にいる、たった一人の男によって。
奴の名は『サラディン』、ランク六の英傑だ」
ランク六……ああ何とも忌々しい響き! 四人は何にもならないというのに耳に蓋をした。
「ランク六は伊達ではない、奴は知勇に長け、義に厚い故、民の心を掴む……唯一の汚点は、特にこれといった優れた点のないカバーの王に仕えた事ぐらいだ。正直私は、奴一人で兵一万人の力を出せると踏んでいる」
「……ええい、うるさいのだ! 皆、そこまで怯える必要はないのだ! ランク六だろうと所詮は人! 絶対に勝てない相手でもないし、そもそも戦とは肩書きでするものではない、実力でするものなのだー!」
とは言っても周瑜の足は震えており、恐怖のあまりその声は無意識に、国中に聞こえる程大きくなってしまっている。
だが彼女の顔は悠然としていた、プライドが高い故の虚勢張りである。
「そ、そうだー! こんな所で怯えてられるか! 戦人なら怯えは愚か、蛮勇掲げて戦うのが道理だぜ!」
それに呂蒙が純粋に乗っかり、元気が良い故にこれまた国中に聞こえる程大きくなってしまった。
「な、何だ今の……」
「怯えに怯えて誰かとち狂ったのか……」
当然国中の人がざわついた。誰一人として、肯定する者はいなかった。
「この士気大丈夫でし……」
「そんな事言わないでくれ! 国王の私も自己嫌悪を起こすから!」
*
それから準備を進め、五日経った時。
「行くぞ! 一息にあの城を落としてくれる!」
カバー王国の先駆け大将が、コップ王国本城目指して突撃。
「おー、おー、おー。猪だ、猪武者がここにいる。そして陸伯言はここにいる!」
陸遜は城壁より、爆炎槍を用い火の玉を勢いよく射出し大将を狙撃。慌てふためく彼の兵には、二百の兵による矢の雨を浴びせ、血だまりと屍を作る。
(この距離まで攻撃できるのか……あのPC、がめついだけの商人じゃないようだな)
「負けるなー! 三手に別れ攻撃しろ!」
三つの部隊が、陣から放たれる。それらは素早く、ジグザグに動き矢を回避。
コップ王国は遠距離攻撃のみに頼る訳ではない、西の特設陣より、相対して三隊が出撃。その先頭で、周瑜、魯粛、呂蒙が馬に乗り、烈風となっていた。
「あれが噂の将か。その慢心、直ちに首と共にへし折ってくれる」
真正面より攻める将は、槌を構え周瑜に接近。即、槌と鏢重剣は激突、二人の間で止まる。
カバーの将はさらに力を出し、周瑜の剣を押す、その時、彼女の口角が上がっていたのを知る。その時点で遅かった、うなじに鏢一本が回り込み、一閃。将は首から血を噴きながら落馬した。
魯粛は馬上で華麗に弩斧を振り回し、敵将兵の前で大きく一振りして見せる。
同時に刃に付いた弩から矢が放たれ、風に乗り、将兵に突き刺さる。
指揮官を失い兵はたまらず背を向ける、そこを逃さず魯粛は己の兵と共に追撃、帰還者をゼロにした。
四人の内最も武闘派である呂蒙は、馬上でがむしゃらに水魔法を使い、兵を薙ぎ払う。
存在がやかましい、と罵ってきた将が迫ると、怯えず馬から飛びかかり、盾で殴り、雑兵と共に地に叩き潰した。
たった今将を討ったという事実を、彼女は知らなかったというのはまた別の話。
こうして戦果をあげ、上機嫌に四人が帰っていく中、カバー王国の王は、
「陛下、食事をお持ちしました」
「アレックス、ニッキー、リーヴスが討たれるとは……この俺が何をしたって言うんだ! ああ、悪魔! コップの者は悪魔を崇めているぞ! おおお……」
豪華な食事を前にして、友を討たれ、悲しみに暮れていた。そこに一人の男がやって来る。
「陛下。これ以上泣くのはおよしくだされ、兵達が不安がってしょうがありません。それに……」
「それに……?」
「敵に敬意を払いくださいまし。軽蔑は自分が愚かと認める行為であります。
それに敬意を払った相手に勝ったのであれば、それだけ我々が『凄い』という事になるではありませんか」
「しかし奴らは三人の勇将を討ったのだぞ! 負けていないと思っても思いきれぬわ!」
「陛下は、まだ全力をお出ししていないでしょう」と、男は胸を叩いて言う。
「そうだった、俺はまだ、本気を出していなかった、じゃあ今出すか……お前に兵を与える! 思う存分弔うがいい、サラディンよ!」
かくてサラディンは大軍を連れ、コップ王国に矛を向けたのであった。
*
コップ軍特設陣に居る、すっかり上機嫌になった国王と、兵達、そして孫呉の四人の元で、伝令兵は告げる。
「緊急事態! サラディンが、こちらへ進軍を開始した模様です!」
「ああそうか、では我が国の猛者達よ! この勢いのまま、サラディンを討ち取れ!」
「「「「おー!!!!」」」」
意気軒昂に将兵は、気を引き締め持ち場に戻る。陸遜隊は城壁で構えし、周瑜、魯粛、呂蒙は騎馬し、兵を連れ、大軍となり出撃した。
「皆、ボクに策があるのだ……こしょこしょ」
悠々とサラディンは、城へめがけ進軍する。周瑜は身震いしながらも、その道を塞ぐ。
「やあやあ、ボクの名前は周瑜、字を公瑾なのだ! コップ王国に恩を受けた身、そう易々と討たせないのだ!」
周瑜は鏢重剣を大きく振るう。彼女の地魔法により磁力が発生、鏢と鏢の間隔が開き、長大なリーチを持ってサラディンに襲いかかる。
が、彼は落ち着いて矛を操り、鏢らを打ち返す。
NPC
名前:サラディン
ランク:六
性別:男
武力:九 知力:九 政治力:九 統一力:九 魅力:十二
「これで名乗りは済んだであろう。では敬意を持ち、貴公を我が功とす!」
周瑜はサラディンの一閃を、剣で辛くも受け止める。
「な、何て言う力なのだ……これがランク六の実力……皆! これ以上は駄目なのだ、逃げるのだー!」
撤退命令を出され、兵達は慌てて逃げ出す。しかしあまりにも急な命令のせいか、サラディンへの畏怖のせいか、兵達は混乱し始める。
「あわわ、皆大人しくするれす!」
「落ち着け、さもなくば命が!」
とうとう一つの大軍はバラバラに、広がってしまった。
「今だ……散開した兵を討つ!」
サラディン軍は、勇猛果敢に周瑜軍へ赴き、兵達に襲いかかる。
「……それを待っていたのだ!」
周瑜軍の兵は一瞬で我に返り、サラディン軍一点を向く。敵から逃げようとした兵が、敵を包囲する兵に変わったのだ。
「よくやったれす! 皆!」
「覚悟するんだな……サラディン!」
周瑜、魯粛、呂蒙は、サラディンめがけ渾身の一撃を与える。
「覚悟も何も、十分に敬意を払っている」
それ全てを、彼は平然と受け止めた。
「故に、貴公らの奇策、完膚無きまま粉砕しに来た所存である!」
サラディンが三人を払うと同時に、彼の兵はどっと、敵に襲いかかった。
【第七回 完】






