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第六回 辛酸からの武器商人

 『LoveCraft』内における通貨は『ジト』のみとなっている。これの価値は一〇〇ジトでおかゆが買え、二〇〇ジトで宿で一泊でき、一〇〇〇ジトで無難な武器を買える。

 余談ではあるが国ごとに硬貨や紙幣のデザインを決める事が出来る。


 話を戻そう。今、四人はリミット王国を離れ、次の長居場となる国を目指して旅していた。

 その間に食費、宿代等はかかる。が、アルム・ヨッスルが腹いせに投げた四万ジトがある上、


「今日は二〇〇〇ジトでどうにかするれす」


 ようやく来た魯粛の、政治力の活かし所である。

 彼女の緻密な計算により、ひもじいながらも安定した長旅を続けられていた。


「……つかれたのだ」


 そして、徐々に生気を奪われていった。


「陸遜……次の宿はどこだ」


「目的地の国……急いで行かないと真夜中になるぐらいの距離です」


「だるい……胸の内で鬱憤が溜まっている、立派な宿で思う存分発散したい……」


「あーん! 皆! もっと気合い入れて歩くれす! このままじゃ野宿れすよ! 賊に襲われるれすよ!」


 しかし誰一人とて気合いを入れない、発言者の魯粛もこれには脱力する。

 何か楽に皆を説得出来ないか、ワラにすがる思いで辺りを見渡すと、荷車を押す、緑髪の少女がいた。


「ほら、見てくださいれす! あんな子だって頑張ってるんれすよ! 孫呉の将はそこまでやわだったんれすか!?」


「まさか、孫呉の将の意地のため、続くのだー!」


 ようやくやる気の出た四人は、獣道を強く踏み、少女とすれ違い、国との距離を縮める。


「いくのだー! 疾風になれ、孫呉の誇りを見せてやれー!」


「へー、孫呉の将とやらは何も知らない人を、『あんな子』って呼べるんやなー、って!」


 最中、少女は全速力で駆け、四人の目の前に荷車を停める。


「な、何奴だ貴様!」


「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい各地の珍品、集めてまっせ!」


 PC

 名前:軍富國

 性別:女


「はぁん、ようやく中国人と会えたぜ、PCだけど」


「どうでしょうかね、この世界のPCは本名を名乗らないのがセオリーやからな」


「それはどうでもいいのだ。お前! 一体何のつもりでここにいるのだ!」


「ワイは見ての通り、ごく普通の旅商人や。せやからー、繁盛のため道行く人々逃がせんのですわ。てな訳で、ぎょうさん見とき~」


 荷車の物を広げ、四人に向けて披露する。余程旅を続けたのだろうか、珍しい物がわんさかと現れた。


「何か変なものが多いですね。例えばこの槍、刃の先に穴が開いてる上、柄の端が曲がってませんか?」


「なんなのだこのギザギザした剣は?」


「斧の刃の部分に弩が付いてるれす~」


 富國は興味を持った彼女達に、しめたと確信し、解説を始めた。


 話を簡潔にまとめる。

 周瑜と魯粛と陸遜が手にする武器は、このファンタジー世界でハイテク武器を作ろうとする変態集団が集まる『オーパーツ研究国』産の武器である。


 周瑜が持つのは、鍔に磁力を生み続ける結晶を埋め込み、中国版投げナイフこと鏢を連結させ刀身を作り上げる『鏢重剣』。

 地属性魔法を使えば内一つを飛ばす、間隔を広げリーチを伸ばすといった芸当が出来る。


 魯粛が持つのは、長柄の斧の刃に弩を付けた『弩斧』。

 近寄れば斧、遠ざかれば弩、間合いを問わない戦闘が行える。


 陸遜が持つのは、長銃の先に刃をつけあたかも槍のようにしたてた『爆炎槍』。

 内部に火魔法を伝えられるため、そこから火の玉を出し敵を狙撃する、突いた敵に火を浴びせるといった用途がある。


「どうや、欲しいやろ? 在庫一掃もかねて一つ五〇〇〇ジトでええで?」


「ねえ魯粛、あなたも興味津々になったのだ。なら買うっきゃないのだ」


「駄目れすよ~、周瑜殿。ただでさえお金が無いのに」


「しかし俺達の武器は貧相ですから、今後の戦のため、ここは思いきった方がいいと思いますよ? ほら、呂蒙殿もおねだりおねだり」


「いや陸遜、アタシはこの使い慣れた盾があるから要らないぞ」


 周瑜、魯粛、呂蒙、陸遜……四人の会話を聞いて、ひっかかる事がある富國は考える。そしてある事を思い出す。


「皆さん、孫呉って孫権のでっか!?」


「呼び捨ては失礼なのだ、ボクの主なのだ」


「ああ、申し訳ございません。こんなありきたりな美少女キャラと胸の内で嘲笑ってました。孫呉の英雄の方々」

 富國は拱手の礼をし、ひざまずいた。


「わかればよろしいれす」


 されど富國は満足しない。故に彼女は言う。

「いーえ、これでは気がすみません! もしよければその武器、一つ五〇〇〇ジトの所をなんと、三つで五〇〇〇ジトで構いません!」


「……魯粛殿、これはチャンスですよ。一種のゲン担ぎに、行きましょうよ」


 まだ魯粛は動かない。そこで魯粛の性格をよく知る周瑜は、こう言い足す。


「一種の人助けなのだ。もし買ってやれば富國はスッキリするのだ」


「むー、しょうがないれすね~。買ったれす!」


「あ、毎度あり!」


 魯粛から金銭を受け取った富國は、品を荷車に積み、この地を去った……凄まじい手際の良さであった。


「いいのか魯粛殿、確かにお買い得だが、ごっそりと貯金を取られましたぜ」


「あー! やっちゃったれすー!」


 返金を求めて魯粛は振り向くが、荒野と獣道があるばかりであった。


「皆、しばらくのご飯はおかゆれすよ」



 その晩、例の国の門を、クタクタの四人は潜った。


「やっと着いた……」


 その刹那、カミングワークの役人が書を持って駆けてきた。


「皆様方に仕官の依頼が来ております」


 えーっ、と四人は驚いた。ようやく仕事が舞い降りた喜び、というよりは疲労の最中で来た事による悲しみという意味が強い。


「『もうじき国の防衛戦が起こる、速急な参戦を求む』……周瑜殿、行くのか?」


 呂蒙の問いに、周瑜は即決する。


「行くのだ! 時は金なり!」


 その一声により四人は疲労の身を押し、現場へと向かった。


【第六回 完】

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