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第三十六回 そうそうだよ。 後編

 (嘘ではあるが)賊討伐により、張遼、于禁、張コウ、楽進の名は、瞬く間にドーオン王国に轟いた。


「まさに期待の新星だ」

「やっとこそさここにツキが回ってきた」


 来て早々、張遼達は民草の心をガッチリと掴んだのだ。

 それあって、四人は王の前に召し出される事になった。


「遅くながら、よくぞここに来てくれた。張遼、于禁、張コウ、そして前よりいた楽進よ。俺は心から感謝する」


 四人は適当に感謝の意を示す。直後、于禁は王に尋ねる。


「逆鱗に触れたら申し訳ありませんが、私達の耳に噂が来てまして……国王が、かの反乱軍の大将に書状を出していたというのは本当でしょうか?」


 王は、ため息のようでため息ではないような息を出し、口を開く。


「実はな、私は迷っているのだ。あの曹操をどう……」


「陛下! この曹操、お耳に入れたい事があって参りました!」


 ガチャガチャと腰に提げた剣を鳴らしつつ、ドタドタと曹操が来る。


「貴様らもいたのか。丁度いい、一括で説明できる。

 えー、このドーオン王国は今まで国内の安定を図り、兵力を温存していました。そして今、ついにそれを解き放つ時が来たのです! 隣国が今、遠征に出かけたのです!

 陛下、我々に一万の兵をお貸しください、さすればこのドーオンの領分を大きくして見せましょう」


 ほぉ、と、王は興味深そうに息を発した後、一瞬考え、これを了承した。


「では貴様ら、戦仕度をせい。早々に終わらせる、曹操だけにな……ははは!」


 かくて四人は曹操に率いられ、一万の兵と共に進軍する。


「早々たる終わりのためだ、隣国の領土をすみやかに奪うべく、要地に至る最短の道を神速で進んでいく! 異論は許さん!」


「おっと危ない! まずい、この道、全力で行かないと危険だなぁ」

 と、馬をなだめながら楽進はつぶやく。これを聞いて張コウは、


「めんどくさい事になりそう、てかもうめんどくさいなぁ、特にこの地形、絶対勝つのに向いてないよこれ~」と、大あくびをしながら言う。


 これらを聞いて、于禁は改めて辺りを見渡す。怖々しい岩肌に囲まれ、いりくみ、山あり谷ありな道――つまるところ、悪路であった。


「こんな所を通って大丈夫でしょうか」


「曹操様曰く、敵の要所に至る近道何だとさ……お前と同感だ。

 曹操様、ここは流石の僕でも狂奔するのは厳しい、早々に終わらせたいという気持ちはわからなくもないが、襲われればひとたまりも無いですぞ」


「うるさい、縁起でもない事言うんじゃない!」


 四人が先行きに不安を感じる一方で、曹操は、はつらつとしている。


「この戦に勝てば我々はすさまじい栄誉を得られるのだ! 故に死ぬ気でかかれ! 我々は強い、そしてこの曹操は最強である!」


 すると彼の付近の崖より、小石が一つ落ちてくる。刹那、それは崖上に伏せていた敵の手により、数も大きさも倍以上となり、曹操軍を襲う。


「ひぃぃ、急ぎ、大将軍たる曹操の御身を守れ! そして撤退せよ!」


 曹操軍は約三割の軍勢を失いながら、比較的安全な平地へ避難した。

 けれどあくまで『比較的』、ここは地肌は砂利が恐ろしく混ざり、水源は充分ではない。

 おまけに予め用意していた兵糧の保管場所から非常に遠ざかり、補給がしにくくなった。


 言うまでもなく、この窮地を敵はみすみすと見逃さなかった。

 敵は猛攻の狼煙がわりに、曹操軍の兵糧を燃やし恐怖させた後、平地へ逃げ込み、飢えかけている曹操軍へ急襲する。


「お、己! この畜生どもが……全軍、逃げろ!」


「僕と于禁は奴を守る、張コウと楽進は……上手い事しんがりをしろ」


 曹操と二人が逃げていくのを確認した後、張コウは正面の敵軍を見据える。


「あぁ……しゃあない、ここいらがテコの使いどころってわけかなぁ」


 張コウは双流星を振り回し、地に叩きつけ地肌を崩す、そして……


「楽進はいくらか兵を連れて追っ手の背後に回って、ちょうどそれに適した道があったはず」


「はっ、全力で参る!」


「そしてこちらは……こうしよう!」


 手本として、張コウは拳大の石を拾い、先駆け大将の顔面に的中させた。


「繰り返せ、ひたすらやれ、単純作業だ」


 張コウ隊は相手に、槍を構え駆ける暇も、矢を弦に掛ける暇も与えず、ひたすらに雨の如く石を投げる。

 相手はそれに圧され、身動きがとれなくなる。


 人がまだ猿に近かった頃から、今に至るまで、投石はコストパフォーマンスのいい攻撃方法とされている。

 かの武田晴信も投石部隊を作っていたのがいい例だろう。

 そして、それを範疇に入れ、実行する張コウの機知も、称賛に値する。


「楽文謙、全力で参りましょう!」


 そうこうしている内に楽進は背後に回り込み、混乱に混乱を重ねる追撃隊を、手勢と共に清掃する。


「うっし、投石やめ。んー、やっぱり地の利を活かした作戦は楽だし強いし最高だなー……次の追手が来たらめんどくさいから逃げるよ~」と、張コウは指示し、楽進と手勢と一緒に、張遼を追った。


 合流地点は、ドーオン王国の国境最前線の砦であった。そこに着いた時、皆、疲れ果てていたのは言うまでもない。


「くそぉ……思いきり負けたではないか……おい張遼!」


 曹操は、呼び出した張遼に、こう肉声を上げて言った。


「貴様は本当に張遼か!? 貴様ならあの状況でも持ち前の武で軽々と勝てたであろう!?」


「その理屈は無闇に通らないのは、かの項羽の先例で証明済……」


「それだけではない! 貴様の戦略眼からすればかような結果になるのは目に見えてるであろう、なのにどうして俺に忠告しなかった!」


「僕の記憶が正しければ、僕は曹操様に忠告した……」


「しなかったから負けたのだろうが! まぁいい、常勝の兵など夢幻、なのにそれを期待した俺も愚かだからな」


 この後、曹操はさらなる追撃を恐れ、傷が癒えない内に軍をまとめ、本城へ情けなく、大敗という結果を持って帰参した。



 それからというもの、曹操は政治を蔑ろにし、


「大敗での傷が癒えないのだ」と、理由をつけて、毎日のように諸侯を招いて宴会を行った。


 しかしこれは建前で、本当は大敗故の名声の滑落を止めるため、ついでに言うと先の戦は、自分の名声を高めるための戦である。


 結果、曹操の名声の滑落はある程度止まった。しかし代わりに国の財源はすり減り、政治は乱れ、ドーオン王国は滑落し始めたのだった。


『曹操は最低だ、無能だ!』と、民草は思った。

 されど、曹操とは逆に名声が上昇しつつある張遼は、別な事を考えていた。


「おい起きろ、張コウ!」


 張遼と于禁は、旗揚げ当時からの自兵を背に、張コウの寝室の扉を開き、日光を送り込む。


「ふぁ~、めんどくさ……ん、どったの二人とも、物々しい格好して、これから裏切りでもするの?」


「裏切り……いや……それは言わないで貰いますか。私、悲しくな……」


「ここで過去の事を思い出すな于禁! しかも今からやるのは裏切りじゃないだろうが! ああ話が脱線した……とにかく装備を整えろ張コウ! そしてついてこい! 曹操の所に行くぞ!」


「曹操……ああ、なるほどね。うっし」


 張コウは武人らしくテキパキと身支度を整え、張遼達に混じる。

 彼女達は次に、楽進の元――何事にも全力な彼女らしく、訓練所にいた――へ向かった。


「張遼殿! なんでその武装を!? あ、そうか、私と訓練を……」


「違う。そしてお前も来い、見せたい物がある」


 さらに楽進も一行に加え、張遼達は玉座の間へと赴いた。


「で、ありまして本日も宴を行いたい所存でありま……うわっ、何だ!」


 曹操は、王にひれ伏すのを止め、見開いた目で己を囲う張遼達を見渡す。


「何の真似だ、黙ってないで答えろ!」


 張遼は笑顔を作って、曹操に言う。

「いやー驚かしてすみません、何となく曹操様から詩を聞きたくなっちゃいましてねー。

 何か詠んでくれませんか? 例えば……『兄弟』を題にしたのとか。何でもいいんでお願いします」


「何故この時に……まあいい、何でもいいんだな、わかった」


 曹操は素早く、『豆がら燃やして豆を煮る、元は同じく育った身、なのに何故こんな扱いをする』的なニュアンスの詩を読む。直後、張コウは曹操の身に双流星を巻き付けた。


「それ曹植様が詠んだ詩だよね~、確かに何でもいいとは言ったけど、まさかめんどくさがって自分で考えず他人の物を言うとか、曹操様らしくないねぇ」


「だ、だから何を言いたい! さては、この俺を曹操ではないと……!」


「ご名答だ。曹操様ならうすら寒い洒落は言わず、勝った後は宴と共に激情のままに詩を詠み、失態を犯した者には比較的寛容に接し、負けた後は次の勝利のための策を練る――お前はそれの真逆だろうが!」


 張遼は、曹操に方天戟を向け、

「情報ウィンドウを見せろ、さもなくばこれの錆にする」と、殺気を込めて告げる。


 怯えに怯えた曹操は、その通りにする。


 NPC

 名前:曹爽

 ランク:三

 性別:男

 武力:三 知力:三 政治力:三 統一力:三 魅力:一


「やっぱりな、我々の主をこうも愚弄するとはいい度胸をしている!」


「ち、違う! 俺は嘘を言うつもりはなかった、名乗ったら誤解されまくったんだ! かの曹操様と同音だったから……確かにそれでいい思いもしたが……すまない、これからは心を入れ換えるから、許してくれ!」


 数秒空けて、張遼は方天戟の先を、出入口へ向けた。合わせて、張コウは彼を自由にし、出入口を塞ぐ兵は捌けだした。


「もう二度とするな。そして僕は寛大だと思え」


「……は、はい!」


 かくて曹爽は、腰を抜かしたまま走り出す。刹那、于禁は彼の喉元を硬鞭で強烈に叩き息の根を止めた。


「……曹操様をこれだけ愚弄したのだ、お前の身があと百個あっても、その罪の清算は叶わない。

 そして于禁、よく僕の意を飲んでやってくれた」


「当たり前でしょう、あなたと考えは同じですか……」


 一部始終を目の当たりにした王は、突拍子も無く、椅子を叩いて大音を立て、憤怒の色を示して言う。


「貴様ら、人様の忠臣……それも主を斬るとは! 何様だ!」


 対して張遼は、王を睨みつけ、こう堂々と言う。


「僕達の主は曹孟徳、ただ一人。報いる事ができるのなら狂奔も辞さない。それが流儀さ……故に、何かあるなら是非、相手をしよう」


 すると王は突然と穏やかになり、

「いや、冗談冗談! 奴が曹操だと聞いて登用したがいいが、その才は信用に足らないから殺すか否か迷っていた所だ。ありがとう、これで爽快になった」


 この後、張遼達は王より褒美を頂き、民衆による歓声をBGMに、ドーオン王国を去った。


 道中、楽進は、

「本当にごめんなさい、皆。薄々怪しいとは思っていたけど、全力が信条故に曹爽に仕え続けていて」と、謝罪の意を表した。


 対して、張遼は笑って、

「何のこれから巻き返せば言い話だ。ありがとう、楽進、僕達についてきてくれて」と、返した。


「当然当然、曹操様へ全力を注ぐのが私の使命だから! さ、早く次の国へ行って、情報を集めましょうよ!」


「んも~、せっかちだなー楽進は。もうちょっとゆっくり行こうよ、めんどくさいし」


「……錚々たる面子が揃いましたね。これなら曹操様を早々に見つけられるでしょうね」


 そう于禁がつぶやくや否、他三人は彼女へ白い目を向けた。


「おい于禁、さては曹爽に感化されたか? この裏切り者が」


「え、私何かまずい事言いましたかね……いや、すみません、謝ります、だから裏切り者扱いは……グスン、やめてください……」


【第三十六回 完】

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