第三回 略奪の穴埋め、魯粛
執拗ながら記させていただく。『LoveCraft』はVRMMO・ストラテジー・ゲームである。
黎明期はその意味を理解せず、鎧を纏い、剣を携え単騎で大軍に襲いかかり、一騎当千を志す蛮勇が多数現れ、死んでいった。
しかし現在は意味を理解し、大多数が自分の兵を連れて戦っている。
が、単純に人を集めれば良いという訳ではなく、装備を揃え、訓練をしなければならない。さらに何を言っても欠かせないのは『兵糧』である。腹が減っては戦は出来ない。故に各国は農業に力を入れるのが、この世界を生きるセオリーなのだが……
とある、山の麓の村にて。
「集めろー! ありったけの食い物を集めろー!」
と、プレイヤーの将軍の号令に沿って兵達は村中の畑と倉を探し、中央に麦の山を作り上げた。
「た、助けてください! これがなければワシらは飢えてしまいますだ!」
村長の老人は将軍の足元にひざまずく。
「そうか、すまない。しっかりと貴様らの分も残してやらねば」
将軍は兜を脱ぎ、麦の山に入れる、そして将軍は村長の前で兜の中身を撒けた。
「皆! 残ったのを荷にしろ!」
「まさか! ワシらの分はこれだけと!」
「安心せい、この遠征が終われば代わりにたらふく食わせてやる! それまで、耐えろ!」
村の人々は軍を冷めた目で見た後、気の抜けた村長に目をやる。
「村長、どうしましょう!」
「どうもこうもないじゃろうがぁ……!」
その夜、村長の家に村中の男達が集まり、会議を始めた。
「いっそ皆で村を抜け、賊になりましょうか」
「この国の警察はまるで背中に目があるようなんだぞ、それは無茶だ」
「やはり役人に頼んで改善を」
「もうやったがまるで何もしてくれない」
「なら一体何をすれば、村長!」
「こちらが教えて欲しいくらいじゃあ! ああ天よ、ワシらに何か恵みを!」
あたかも天が使わしたように、家にふらっと人がやってくる。
「ごめんくださいれす~、宿を探してるんれすけど~」
のほほんとした雰囲気の、水色の髪を持つ女性である。
「宿? ふざけるな! 何でこんな事態に赤の他人を泊めなければならない!」
「ほ~ん、じゃあ私が何者かをみせれば泊めてくれるんれすか」
「そういう問題じゃな……ああ!?」
NPC
名前:魯粛
ランク:四
性別:女
武力:四 知力:四 政治力:七 統率力:四 魅力:五
そのウィンドウを見せた魯粛に対し、村の人は皆ひざまずく。自分達のランクは一、当然の帰結だ。
「これはこれは大変なご無礼を! ワシがこの村の村長になります! こんな汚い場所ですがどうぞお泊まりくださいませ」
「ありがとうございれす~!」
「いいんですか、村長!」
「いいのだ、ここで変な意地を張って何になる」
会議は『旅人一人を泊める』という決断をするのみで終わり、村民は家に帰っていった。
翌日、魯粛は村を歩き回った後。
「今回はありがとうございれす。この恩は一生忘れないれす」
拱手と共に礼をし、村から去った。
「さて、これからどうするか……」
直後、再び会議が始まった。されど何が悪いかはさておき、一向にこれという結論が出ず、ただ時間が過ぎていった。
そんな中、村に荷を押してやって来る者がいた。
「お待たせれす~!」
村民は冷やかな目で、魯粛を見た。が、村長は魯粛ではなく荷を、丸い目で見ていた。
それは何だと村長は迷わず問うと魯粛は、
「数ヵ月分の食料と、米の苗れす」
と答え、解説する。
「どうやらこの村は略奪にあったみたいれすね。どこの倉を見てもスッカラカンれす。そこで私が恩返しする事にしたれす!」
「つまり……これは俺らに渡すという事か!」
「勿論れす!」
これを聞いた村民達は狂喜乱舞する。
そこに魯粛は一つ事を付け足す。
「たーだーし! ランク四の私として命令を出すれす!」
「命令!? 一体何でしょうか?」
「村を変える為の命令れす!」
まず魯粛は村民達に苗を置く。
「何故この村は山の麓という水に恵まれ、それ程寒くない環境なのに麦を育ているんれすか?」
「それは、国軍が『パンの方が手軽』だからと言いまして」
「なら米はどうでもいいんれすね。ならこれで『村用の食糧』を作るれす」
村民はそれを育てる土地がない、と口々に言う。が、魯粛は刈り取られた麦畑を指差す。
「あそこに水を通せば田んぼになるれす。ほら、あとはやる気だけれすよ~」
「……は、はぁ」
かくて村民は魯粛の言われるがままに仕事をした。農業だけではない、
「カクカクにした方が道が分かりやすいれす! 真ん中は広くすべきれす!」
インフラ整備をし、
「材木を集められすし、土地も得られるれす!」
山を切り開き、新たな土地と材木を得させ、
「運動した方が気分が楽になるれす!」
撃剣(剣を投げる武術)と騎射術(馬に乗りながら矢を射る武術)を習わせた。
「村長! 何か言ってやってくださいよ!」
「あの女俺らを何だと思っているんですか!」
当然文句を言う者が現れたが……
「ありがとうございます魯粛さん、お陰で助かりました」
三ヶ月後、結果としては皆揃って魯粛を褒め称えた。それすなわち、村の発展を意味した。
そして、とある夜。外で月を眺める魯粛に、村長は声をかけた。
「感謝しきれませんよ、ここまでお世話してくれて」
「どういたしましてれす……大丈夫れすかね? だいぶ居候しちゃってれすけど?」
「いえ結構です。いやむしろずっと住んで欲しいくらいです……結論を言いますと、村長の座をあなたに……」
「それこそ結構れす。私には他にやる事があるれすからね。もうじき、立ち去るんじゃないれしょうか? それに……」
「それに?」
「私が好きなのは人の上に立つ事じゃなくて、人助けれす」
「ははぁ……という事はこの村を助けたのは?」
「人助けしたかったかられすよ。ふぁ~」
村長が残念そうにうつむく中、魯粛は大あくびをしながら寝室に入った。
*
今まで長居した街を飛び出してから早数ヵ月。周瑜と陸遜はあちこちを探し回り、くたびれていた。
「もはや呉の将どころか、魏の連中や、劉備のバカヤローどもすら見あたらないのだ!」
「一体この世界はどれだけ広いのでしょうかねぇ……あそこに村がありますね、一休みしましょうか」
「なのだ!」
よろよろと村の門を潜ろうとする二人、それを待ち構えていた者が一人。
「噂に聞いていたれすよ、周瑜殿、陸遜殿」
拱手の礼をして、魯粛は二人を迎え。己の情報ウィンドウを開いた。
「なのだ、魯粛なのだ……」
「だいぶ探しましたよ手前の事。周瑜殿の奇策で始まった仲間集めの旅が、今まで何の成果もありませんでしたからね……」
「大丈夫れす、今日からは、私も一緒に着いていきれすからね~!」
こうして、嵐のように現れた村のイノベーター、魯粛は村民に見守られ、仲間との旅を始めたのであった。
「ところで二人とも、お金はあるれすか?」
「どうしたんです魯粛殿、まさか今無一文という訳では」
「そうれす~!」
「ちょっ、ボク達も持って無いのだ! 一体何をどうすればそうなるのだ!」
「あの村の為に全財産使っちゃったれす」
「魯粛殿……お人好しにも程があるのだ」
【第三回 完】