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第二十九回 やんわりオムニバスNo.4 諸葛瑾、大活躍 

 最近『遊戯王』みたらジャックが微塵にも出てなくて、新キャラがわんさか出てて驚きました。

 今回はそれに着想を得て、書きました。

 ロジスティック大陸にて。孫呉の五人はいつものように歩いていた。


「次の仕事先はファクト王国、内容は模擬戦の手伝いです」


「模擬戦か、こりゃ腕がなるな!」


「変な話れすね、非正規の軍に手伝わせるとは」


「まー魯粛殿、きっと相手にも深い訳があるッス! 警戒するのはまだ早いッスよ!」


「諸葛瑾の言う通りなのだ。まずは行ってみる……というより、もう来たのだ」


 五人は関を抜け、「うわー、わけわかんない景色なのだ」、現代で言う所の『モダン』な街並みを目の当たりにする。そして、そこを歩いて待ち合わせ場所――模擬戦場の大平原に建てられた倉庫の前へ赴く。


「よくぞ来た皆の衆! 俺がファクト王国の長、アーティ・マシンランスだ! 前述の通り君達には、模擬戦の手伝いをさせて頂く! しかも、ただの模擬戦ではない……何故なら、ロジスティック大陸にこいつの名を轟かす、第一歩なのだからな!」


 アーティの指パッチンに合わせ、倉庫のシャッターが開き、孫呉の五人の目に、洗練されたカッコ良さを持つ、全長5mのロボットが映る。


「『LF』、それがこいつの名だ!」


「「「「は、はあ……」」」」

 四人は、反応に困る一方、諸葛瑾は、


「う、う、う、うわぁぁぁ! シビれるッーース!!」と、歓喜の声を国に轟かせた後、感極まり、桃色の髪を振ったり、跳び跳ね始めた。


「すみませんね。諸葛瑾殿はこういうカラクリが大好きでして」


「何の! むしろこれぐらい喜んでくれて嬉しいぞ! 余所者は『金と資源の無駄』だの『トドッバ・マの戒めに勝てるものか』とかほざいているからな」


 トドッバ・マはロジスティックの十神の一、大陸の北東におわす。


 神は、人々の力を助ける機械の真たる長、故に、総ての機械の有無は、彼の是非の元にある。


 時に機械は、人の価値より上に立ち、人を操る。故に神は、ロジスティックの機械を戒め続ける。


――『ロジスティック神話全集』より引用


 『LoveCraft』は機械的な物を廃し、許さない、と開発筆頭Rolfe氏が公言している。

 だが、『だめ』と言われたら『やる』のが人間の性。一部の諦めの悪いPCは、機械(※魔法アイテム等に頼らない純正の物)の製作を行った。

 しかし、運営の意思は絶対なのだろうか、どれだけ精巧に作ろうとも、その分野の人物の知恵を持ってしても、PCが作った機械は、理不尽に、意味不明に正常に動作しなかった。

 『トドッバ・マの戒め』、その現象がPC達に知れわたると同時に現れた、上記の神に由来するスラングである。


 ちなみに、同じく上記の神に由来するロジスティック大陸北東部、トドッバ・マ地方とは一切の関係はない。


「しかし俺達は緻密に計算し、事ある事に動作テストを行い、機械と認識されないよう特殊な素材や機巧を用い、LFを完成させた! 

 こいつは鋼鉄の反逆者よ……運営と、俺達を嘲笑った連中へのな!」


 アーティは一息つき、倉庫へ向けて叫ぶ。


「おい、最終調整は万全か、お前ら!?」


 すると倉庫から数人の、作業着姿のPCが出てきて、アーティの前に整列する。


「「「はい、問題ありません!」」」


「こいつらは俺の自慢の技工士達だ、覚えとけ。よし、早速搭乗する! そして見ておけ!」


 アーティは胸のコクピットに搭乗し、深呼吸をし、発進のレバーを動かす。

 LFは応対し、右足を一歩、前に踏み出した。


 これに技工士達は、地を揺るがす勢いで、狂喜した。


「一歩動いたぞ!」

「ついに俺達は、まともに動くロボットを作り上げたんだ」

「これはロジスティック大陸ロボット史の、第一歩だ! ははは!」


 無論、機械大好き諸葛瑾も愉悦に浸った。

「シビれるッス、シビれるッス! ほら、瞬きしてないッスよね皆さん!?」


 一方、他四人は。

「ただばかでかい人形が、一歩進んだだけに見えたのだ」


「いや、アタシは少し足が上がって、前に倒れてそれっぽくなったように見えたぜ」


「俺達にはロマンってもんがないですから。これを凄いと言われてもどうにも……」


「ん!? そういえばあの人形だんだん傾いて来てないれすかね……?」


 魯粛の言う通り、LFの体は徐々に前のめりになっていた。

 一同は『こういう動作』かと思い、特に何も思わなかったが、コクピットの中で狼狽するアーティの姿がガラス越しに見え、事の異常さに気がついた。

 

 足を上げた瞬間はまだロボットとして動かせたが、その後に『トドッバ・マの戒め』という名の運営の嫌がらせが発動し、鉄の塊と化してしまったのだ。


「ま、まずい……逃げろ!」


 一同がある程度LFより距離を置いた後、LFの前面は大地に激突し、大破した。


「……あ、アーティさん! アーティさんは無事か!?」


 彼を慕う技工士達は、危険を恐れず、砂煙を浴び、LFを探り、アーティを助け出した。

 その時彼は既に、重症を受けていたので、即、治療の為に城へ戻った。

 幸いにも命に別状はなく、一ヶ月もすれば元気になると医者に言われた。

 しかし、一方で、精神的に技工士達は大きく傷ついていた。


「結局ロボットを完成できず、アーティさんにひどい目に合わせてしまった」

「何やってるんだ俺達は! あれだけ必死にやってこの体たらくか!」

「あんなに必死に作ったのにこんな早くダメになるなんて。ちくしょう!」


 その晩、技工士達はやけ酒に浸った。それしかこの悲劇の捌け口はなかった。


「わかるッスよその気持ち。情熱を消された瞬間は、何物よりも悲しいッスよね……」


 諸葛瑾は彼らに同情し、涙を流しながら彼らのお酌に酒を注いだ。


「あいつらの辞書に無謀って言葉は無かったんですかね?」

「こら陸遜、本当でもそんな事言っちゃダメなのだ」


 それを冷めた目で見ながら、他四人は静かに酒盛りをしていた。

 その最中、「ああ、皆様ここにいましたか」一人の密偵がやって来た。


「報告、隣国がこちらへの侵略軍五千人を編成、出発致しました」


 泣きっ面に蜂とはまさにこの事。技工士でもあり、国の長官でもある彼らは、酔いを冷ます程驚いた。


「ついにこの時が来てしまったか、よりによってLFも王もいないこの時に!」


「もうダメだ! 終わりだ!」


「違うッス! まだ諦めるのは早いッス! ひとまず明日、一度軍を集めるッス! それから周瑜殿と陸遜が何か策を考えてくれるッスから!」


「……あ、今、ボク達出てっちゃダメになったみたいなのだ」


「ちょっと諸葛瑾殿、勝手に俺達を巻き込まないで……いや、いつもの事だったか、はぁ」


 翌日、昨日の平原にて。


「魯粛殿、敵が来るまであと何日かかるかわかるか?」


「兵の疲れとかを考慮すると早くて一週間れす。それまでに何とかして対策するれすよ」


 五人の幕舎に、一人の技工士が声をかける。


「ファクト王国の全ての戦力を集め終わりました」


「よし、じゃあ顔合わせと、行くッスよー!」


 諸葛瑾ら五人が幕舎より顔を出すと、彼女達はひどく唖然した。その先にあったのが、貧相な装備をした三百の兵だったからだ。


「いかがでしょうか、我が屈強たる軍は」


 これに五人は、憤慨した。

「ふざけるのもいい加減にするのだ! 何なのだまるで街から適当に人材をかき集めたみたいな軍勢は!」


「まさか皆さん、あの鉄屑作りに没頭しすぎたせいで内政をおろそかにしたとかじゃないれすよね!?」


「いや、おろそかの定義がいまいちわかりませんが……まぁ一部の方にしてはそういった感じなのでしょう。

 で、ですがご安心を! 我々は昨日の夜にこの戦力でも勝てる方法を考えておりました」


 技工士は引き腰になりながら、眉をひそめる周瑜達に、戦術を書いた紙を渡した。


「何々、『敵の眼前に守りの強い部隊を置き、それで引き付けている間に、敵軍の両脇と背後より動きの早い部隊で襲い、包囲する』……五千の軍を、三百で?」


「はい、いかがでしょうか?」


「ど、あ、ほっ! まず、囲まれたら、守りが強い所は攻撃しない! 次に、ただでさえ少ない兵を散り散りにしたら各個撃破される! 最後に、五千を三百で包囲できない! ……これだけ言って何か反論があるなら、さっさと言ってみるのだ!」


「い、いえ……何も言う事はありません」

 技工士は周瑜の叱責を受け、すっかりへこんでしまった。


「こりゃ重症だぜ。これだけ欠陥残しときながら機械作りに没頭できるとか、国を治める者としては正気じゃない」


「そこまでしてあの鉄屑を作ろうとしたのは、何か事情があるんですか?」


 陸遜の問いに、技工士は答えた。


「元々旗揚げ当初から、この国は脆弱でして……国王は、それを憂い、我々に告げたのです。


『もはや、寄せ手から本国を守るための、尋常の術はない』『今こそ、機械が必要だ』


 かくて、我々はLF開発を……!」


「やっぱりそれよりも先にやる事がいっぱいありましたよねーぇっ!?」と、等々魯粛すらも、その杜撰さに怒りを露にした。


「ひぃぃ、お助けを……」


「皆さん、確かにこいつらはガラクタ作りに熱中する無能ですが、今それを攻めた所でどうにもなりません。ここは現状を見て別の策を……」


「ちょっと陸遜、あたいの方見てくれない?」


 諸葛瑾に従い、陸遜は彼女を見る。刹那、陸遜の頬に平手が飛ぶ。


「ちょっ、どうしたんですか諸葛瑾殿!」


「前にも言ったッスよね? 『例えどんなに人がやらかしても、その人の「情熱」は否定ちゃダメッス』って! 人は誰だって、情熱を持って生きているんれす! それを嘲笑っていいのは、人外だけれすよ!」


「い、いやしかし諸葛瑾殿。こいつらの情熱の向け所は明らかにおかしいですから」


「それも前言ったれすよね! 『どんな情熱にも、必ず意味がある』って! ……御託を並べる時間はないッスから、実にして示すッスから、覚えとくッスよ!」


 諸葛瑾は、若い頃より学問に励み、戦乱の世の中でも家族を第一に思い、呉への士官後、例え孫権にロバと馬鹿にされようとも、最後まで忠節を貫いた者である。

 これは全て、並みならぬ情熱があってなせる業、故に、彼女にとって情熱とは泰山よりも遥かに重き存在である。


「さて、技工士の皆様。あたいから一つ、借問するッス。あなた達、もの作りは得意ッスか?」


「んな事聞かなくてもわかるだろ!」

「結局動かなかったが、LFの製造は完璧にこなした」

「何てったって俺達はファクト王国の技工士だぞ!」


「よし、じゃあ諸葛一族の叡知と、ファクト王国の技術を持ってして、寄せ手を追っ払うッスよ!

 とその前に、皆様、今回の戦はあたいに任して貰っても……」


「全く、あなたは熱くなったら止まらないのは百も承知なのだ……好きにするのだ」


「ただし、それだけ大口叩いたからには負けたらカッコ悪いれすからね」


「くぅ……その心意気、感謝し過ぎてシビれるッス! というわけで、皆様にはあたいの言う事に従って貰うッス! じゃあ早速、今から作って貰いたい物があってッスね……」



 一週間後。

「突き進め! あと少しでファクトの喉元をグサリとできるぞ!」


 蹄音を幾つも重ねながら、隣国の軍総勢五千人は、ファクト本城へと駒を進める。

 その道中、彼らの眼前に、十数のやぐらが現れる。

 いや違う、よく見ると車輪がついている――井闌車だ。


「来たな……よし、操縦部隊は適度に距離を取れ! 楼上の弓部隊は精神を研ぎ澄まし、急所を射て!」


 陸遜の号令により、敵軍の兵に矢が送られる。

 (本来なら城壁を渡るためのものだが)動く楼という理解に無い物を目の当たりにし、愕然とした故に敵兵は矢を何の抵抗も無しに受けてしまった。


「ええい落ち着け! 迂回ルートを探……!」


「ああぉ!?」


「今度はどうした……なっ!」


 お次は脇より、石が振り注いだ。呂蒙、魯粛率いる投石車部隊による物だ。


「さて、締めはこれなのだ!」


 石と矢に蹂躙される敵軍へ、周瑜は敵軍の後方、両脇より車輪の付いた鉄の虎――虎戦車を放った。


「うわぁ、何だあの兵器! 見た事も聞いたこともないぞ!」

「というより『LoveCraft』に機械は存在しないのに、何故これが!」


 原典の、諸葛亮の嫁、月英が製作した虎戦車はからくり仕掛けで自動で動く、と、創作染みた記述されている。が、いくら機械マニアである諸葛瑾とはいえ、この仕組みは知識に無い。

 その為この虎戦車は、中に人が入って漕いでいる。というトドッバ・マの戒めを楽々避けられる古典的な物になっている。

 されどその威圧感はそれと変わらず。敵軍は大慌てした。

 隙を見逃さず、虎戦車内の兵は、口にあたる部分に付いた灯火目掛け、水鉄砲ならぬ油鉄砲を噴射する。

 その油に火が移り、結果、虎戦車は火を吹いた。


「意味がわからないぞこれ! 火を吹く兵器など聞いたことも見たことない!」

「ぎゃあ助けて! 熱い!」


 初見殺しとはまさにこの事。虎戦車はその装甲に物を言わせ敵陣奥へ切り込み火を浴びせる。それを恐れ逃げた兵は、矢や石の餌食となる……勝利の行方は、ファクトにあった。


(五千対三百で、後者が包囲したらどうなるか? と聞けば、満場一致で『五千が勝つ』と言うはずッス。けどもし三百の単位が人ではなく、『機』だったら……)


 その凄惨で、栄光ある戦場を、軍の総指揮を司る諸葛瑾は、ファクト本城の砦より見下ろしていた


 技術力、生産力に優れたファクトの者を使い、優れた三国志式の兵器――流石にトドッバ・マもそれは機械と見なせない――を幾多も作り、敵軍を威圧し、圧倒する。


 そして最後には、諸葛瑾の思い描いた通り、敵軍は兵器により全壊したのであった。



「全く、これからは趣味と義務を両立するんれすよ。さもなくばあなた達は終わりれすからね」


「はぁ、申し訳ない……」

 傷だらけのアーティ国王は深々と頭を下げた。

 アーティは続けて言う。


「そして皆様の活躍に、感謝の気持ちを述べたいと思う。特に諸葛瑾殿、あなたの活躍は見事だった。それを見込んで、あなたをこの国の大臣として招きたいのだが」


 諸葛瑾は少し戸惑った後、にんまりとして言った。

「あなたが機械作りに熱中するように、あたいも孫呉に熱中するんッスよ」


「はぁ、そうか……では、ご武運を祈る」


 かくて四人は、ファクト王国を後にしたのだった。


「いいのか諸葛瑾殿。あそこで暮らせれば思う存分機械作りに没頭出来たんだぜ?」


「まず先にすべきはあたい達の汚名返上ッス。趣味はその後、ゆっくりとするッスよ!」


「よくぞ言ったのだ諸葛瑾。流石は諸葛一族なのだ」


「へへへ、けど弟には『今のところ』負けているッスけどね!」


 等々、孫呉の五人はまた、気炎を吐くように雑談をして、次へと歩むのだった。


【第二十九回 完】


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