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第十四回 縛(しばり)のお父さん

 ここで解説を入れるとしよう。

 『LoveCraft』のPCとNPCの相違点の一つに『子を成せるか』がある。

 

 戦国の世において子というのは、人質や忠実な手駒などに用いれる言うまでもない。故に大半のPCは開発へクレームを送ったが、


「そうすると倫理が危ないんだよね」と、開発筆頭Rolfe氏は釈明。代わりに、義兄弟を作れるというシステムを作り上げた。


 『肉親という枷は強固である』、この常識をユーザーに植え付けた一件である。


 本筋に戻そう。周瑜達一行はテンブン連合国へ、『今我々は懲りずに侵攻を続けた敵国の包囲をしている最中である、それの手伝いを求む。 テンブン連合国王 伊達巻雄』と書かれた依頼書片手に赴いていた。


「あれ、陸遜。本城はここであってるのだ?」


「はい、ここですね」


 今まで巡って来た中で最もこじんまりとした、どちらかというと屋敷な城を目の当たりにした後、中に入り玉座の間へ行く。と、


「よぉく来た! 我がファミリーよ!」


 小太りの男ーー伊達光父と家臣達が盛大に迎えてくれた。


「私が伊達光父だ。そしてそこに並んでるのは皆私のファミリーだ!」


 家臣達はご丁寧に情報ウィンドウを開く、皆そこに『義兄弟』の三文字があった。


 ここで一つ解説を入れるとしよう。

 テンブン連合国は、伊達光父を首長として、彼の義兄弟が各々の国を統治する、名前通りの連合国である。


「私は全ての人と仲良く、ファミリーになれると信じている! 血みどろの戦をするよりも平和がナンバーワンだからな!」


「「「そうだそうだー!!!」」」


「は、はぁ……」


 光父の熱い語りと、義兄弟達のノリに思わず引いた一行は、使命感半分逃避半分で本題に切り出す。


「ところで制圧の件は?」


「ああ、それだ! 葦名将軍が現場についている、長旅に次ぐ長旅ですまないが、頼む、行って、敵国の王を懐柔してくれ!」


 かくて、四人はついて早々城を出る事となった。


「ところで、ファミリーというのは何なんだ?」


「西欧の者が使う言葉で、『家族』を意味します」


「へぇ、家族か。懐かしいなぁ、ちっちゃい頃勝手に戦に出てオカンに怒られたっけ」


「私も、おばあちゃんには迷惑かけちゃったれすね……あとありがとれす周瑜殿、あの時おかあさんをかくまってくれて」


「ボクの家族と言えば孫策殿の家族しか記憶にないのだ。だから、つまりその、同情なのだ!」


 三人が家族の話で盛り上がる中、陸遜は顔をしかめる。


「どうしたんだ陸遜の奴」


「陸遜の家族は袁術のせいで殺されに殺されたれす。その結果陸遜は幼いながら生き残った一族の長になったんれすよ」


「……何こそこそ話してるんですか?」


「あ、それはだな陸そ……」


「多分、いや絶対あれなのだ! 皆、自陣が見えてきたのだ!」


 敵の本城から一キロメートル離れたテンブン軍の陣に踏み入る。


「よく来た。俺がこの軍の指揮官、葦名浦霧だ。見ての通り戦線は硬直してしまっている。つまり俺の技量ではこれが限界、故に君たちは、軍の増強として頑張って貰うよ」


「あったり前なのだ。では手始めに戦況の調査を……」


 そこに、全身血まみれの少女が刀を下げてやって来る。


「西城門から突入して近辺で兵二十三、将一人を斬り殺した。どう、これで満足?」


「伊達ちゃん、軽率な攻めは余計な警戒を招くとあれほど……」


「家族ごっこが好きなくせに実の家族を心配できない奴の、それを諌められない義兄弟に言われたくないとあれほど言ってる。んじゃ」


 葦名に背を向け、四人に一瞥した後、スタスタと少女は立ち去った。


「今誰?って目をしたよね? あれは伊達夜姫。光父の娘さんだよ」


「あれれ、確かPCは子供が作れないと聞いたれすけど」


「この世界での子じゃなくて、現実での子だ」


「あーなるほどれす。にしても凄い冷めっぷりれすね」


「本当だよ。今回も父親の言う事を聞かずに参戦したというんだから。どうやら父親のやり方が気にくわないらしくてね……」


 数分後。テンブン軍の将達と、四人が一ヶ所に集いーー勿論、夜姫の姿はそこにないーー軍議が始まった。


「敵城は幾多の石壁を設けた階層状のもの。門は西と北にしかなく、入れば入ったで迷路のごとき狭き道が待ち、本丸にたどり着く頃には奇襲と上段からの攻撃でコテンパンにされる。

 これが我々テンブンが苦しめられる理由だ」と、葦名は盤上にある敵城の地図を見せながら説明した。


「でもこれでは高所故に水の調達が難しそうですね。このまま包囲を続ければ兵は飢えるでしょう」


「いや、実際それをやったんだがまるで効果がなく、運よくこちらに降った将曰く、この地域には地下水が流れているため、水に関しては何の問題もないとの事」


「重厚な城、地下水……成る程、この周公瑾、たった今策を思い付いたのだ!」


「おお、冴えていますな」


「この策を用いれば必ず奴の城を、文字通り落とす事が出来るのだ。して、その詳細は……」


 それから、テンブン軍は周囲の木々を用い衝車と投石機を建設し、城の破壊に乗り出した。敵は一瞬焦りを覚えたが、臨機応変に対応し、テンブン軍に手柄を挙げさせなかった。


「テンブンの輩は兵器に頼るような腰抜けばかりだな。これなら我々の勝ちは絶対だ!」と、士気をあげた敵国であったが、現実はそう上手くいかない。


 夜姫が懲りなく侵攻をしてきたのだ。前までは城の防御力をいかし簡単にあしらえたものの、今はそれが崩れかけ、攻めやすくなってしまったのだ。


「本日はかなり登ってきました」

「もうじき本丸に入られますな」


 城内の将は皆、敵国による『兵器で城を弱らせ、夜姫に攻めさせる』という策に恐れを抱いた。


 対して、王は決断した。


「防衛しつつ、城の修理と補強を行う。徹底的に籠城を行えば敵の精力は尽き、必ずや我々が勝つ!」


 これより、攻城と修復、侵攻と防衛のいたちごっこが始まった。


 ーー人というものは、一度物事を決めつけると、それに囚われてしまう物である。


「呂蒙殿、策の準備は整いました! いつでも決行できます!」


「よし、じゃあ早速アタシが決行してやる!」


 その裏で呂蒙は、目標に向けて水流を放ち、即自陣へと撤退した。


 目標ーー柱が外れ、掘られた穴に、徐々に土が落ちてきた。


「ん、何だ地震か?」

「あれ、天井がいつもより遠くなってる気が……あ!?」


 それに受け手の兵、城の床材、壁の石などが混じっていく。


「ひぃひぃ、あぶねぇ、危うく巻き込まれる所だった。おお凄い凄い! ()()()()()()()()!」


 地下水があるなら、それが貯まる空洞があるはず。と予測した周瑜は兵器攻めという、人員を割かない方法をガワとし、水面下で穴を掘り進め、そのままの意味で城を落とすという策を編み出したのだ。


 この策は見事炸裂、城内の兵数は激減し、生き残ったものもどうしようかと混乱していた。


「こ、こんな安直な策で俺がやられるとは……!?」


「伊達夜姫、その首頂戴す」


 泣きっ面に蜂とはまさにこの事。夜姫は穴に飛び降り、生き残った者に次々と止めを与えていき、やがて彼女の剣先は、敵国の王へ向いた。


「来るな! 待て! 俺には国民がいるんだ!」


「死人は死ぬ事だけ考えてればいい」


 夜姫は王の眉間めがけ一閃。刹那、キィンと高い音が鳴り、鏢一本が吹き飛んだ。


「こら、ダメなのだ夜姫殿!」と、鏢を回収しつつ周瑜は叱責する。


「確か周瑜と言ったか。ダメなのはそちらの方だ、こいつは私の国に執拗に攻めたんだ、犠牲の分を首で支払って貰うのが道……」


「いえ、なりませんぞ! 夜姫殿!」

 加えて、恐る恐る穴から降りつつ葦名は言った。


「今回の目的は討伐ではなく、懐柔です。彼の身柄は一度本城に送らなければいけません」


「ちっ、あのクソ親父……」


 数日後、四人らテンブン軍の身は、敵国の王と共に、伊達光父の前にあった。


「とっとと決断しろ! 俺はこんな時間過ごしたくない!」


「わかった、決断する。私の義兄弟となれ」


 これを端から見ていた四人は唖然する。一方、光父の家臣ーーもとい義兄弟はどうとも思っていない。これが日常茶飯事なのだから。


「え、それはどう意味で」


「縄を解け、馬を用意しろ、元の領地にひとっとびで行ける奴をな……こういう意味だ」


「つまり、俺はこの国の者に……」


「ああ、あそこは君が統治したまえ」


 かくて、王は義兄弟の三文字をステータスに刻み、自分の領地に帰着。事の末を国民に語り、敵国に属するという状況に不安を抱いていた彼らを安心させた。


 土地には土地にあった領主を置く、されば民に憂い無し。伊達光父の采配は、これをよく理解しての物である。



「さあファミリーよ、遠慮なく楽しんでくれ!」


 四人は目の前に出された料理の数々に息を飲む。此度の勝利を祝い、光父が宴を催したのだ。


「私達も来ていいんれすか? 単なる客将れすよ?」


「いいとも。今回のMVPは君達だからね」


「んじゃ、頂くぜ!」


 光父は、義兄弟達は、四人は心行くまで宴を楽しんだ。

 それが終わった後、光父は熱冷ましに高台で、月を眺めていた。


「ここにいたんですか。国王」

 そこへ、陸遜がやって来る。


「ああ陸遜殿。どうかしましたか?」


「聞きたい事がありましてね。あの判断に後悔は無いのですか? 損害を与えた者に大した罰を与えない……これは甘すぎるような気がするのですが」


 この問いに、光父はどっと笑い、答えた。

 

「このロジスティック大陸で、星の数程の国が、星の数程の戦いを起こし、天下を求めた。しかし未だに有力な国は無く、天下は誰にも届きそうにない。

 これで私は学んだんだ、戦うだけでは国は強くなれない、手を取り合う事も必要だ、とね。

 もし彼を処断し、無理矢理あの地を私の物にしたら、民が騒ぐかもしれなかったし……それに」


「それに?」


「何より、一人は辛いだろう?」


「は、はい」と、陸遜は煮えきらない返事をした……刹那、爆炎槍を構え、付近の柱目掛け発砲する。


「どうした!? 急に!?」


「すみません、あそこから殺気を感じましてね」


「……殺気とは、失礼過ぎ」


 柱より、夜姫が姿を現した。


「ああ、何だ、あなたでしたか」


「居て当然でしょうが、娘だもの。逆に不自然なのはあなた。何、客将の分際で国王に馴れ馴れしくしてるの」


「こら夜姫! 物の言い方には気をつけろと……」


「いえいえ、大丈夫です! すみません突然押しかけて、そろそろ寝床に戻ります……」


 陸遜は逃げるように、つかつかとこの場を去った。


 入れ替わりに夜姫は光父の隣に立ち、下に広がる城下町を眺める。


「こういう景色だったんだね。うちの国。すごく大きい」


「ん、ああそうだ。でもこれだけじゃない、周りには私の義兄弟の領地がある。どこもここに負けない、立派な街と城を持っているぞ」


「そりゃ凄いね……全部が私の物なんて」


「違う、私『達』の物だ。物の言い方には気をつけろ、な?」

 光父はムッとしながらも、父親らしく注意する。対して夜姫は、


「違う違う、私の物だ」思いきり光父の腹に拳を与え、彼を気絶させた。


【第十四話 完】

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