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第十三回 海に放たれた無法

 本作の舞台がロジスティック大陸である事は何度も説明している。

 大陸と言うのだから周りが海で囲まれているのは言うまでもないだろう。

 

 どういう訳か人という生き物は無知を恐れ、未知を欲し、失敗したがるーーとある時期には幾多のPCが未知を求めて海へ向かったが、一割は航海術の不足・欠陥による海難に出くわし、九割は謎の嵐で出港した海岸に出くわした。


「ごめんね、そっから先は作ってないんだ。今のところは」と、開発筆頭、Rolfe氏はこの現象が発覚した直後に、申し訳なくコメントした。


 本題に移ろう。今回の舞台はロジスティック大陸の真西にある、ランタン海岸である。

 ここは観光地として活用するために、他との争いという危険性をはらむ国という管理方法をとらず、何人かのPCが協力して管理する『自治領』としており、旅人は勿論、他国の住人も心おきなく訪れるようになっている。


「ほら周瑜殿、見えてきましたぜ!」


 一応白い砂浜、まあまあ青い海、そこそこ集まった観光客……それらは長旅をしてここまで来た四人の疲れを、一気に消し飛ばした。


「やっと着いたのだ……」


 周瑜達三人が背筋を伸ばす中、魯粛は一枚の紙を目前で広げる。


「『……なお、私は海の家の運営で多忙なので、出迎え・指示は私の仕事が落ち着いたら行う、それまで好きに海岸で楽しんで貰っていい レーク・アーバン』と依頼書は書いてあるれすね」


 陸遜はこれを覗き、内容を再確認し、言う。


「しかしやっぱり妙ですね、依頼内容が『私の業務の手伝い』とあります。なら店の手伝いとか海岸の警備とかを適当にさせておくのが道理なのに、指示は後とは……」


「陸遜は本当に心配性なのだ。もし何か不利益な事があればカミングワークに訴えればいいし、その時はその時、ボク達の気合いで乗り切るのだ! てなわけで……」


 周瑜はビシッと、更衣室を指差し言い放つ。


「海水浴するのだ」


「正直な話、これが彼女達が来た本当の理由である。


 寡兵での防衛戦、ランク六との戦い、内毒の臣の誅罰、四国を相手にした大策の実行……そして間々の長旅。ランク四の逆境をはね除けるためとは言えど、疲れるものは疲れる。

 『LoveCraft』の中にも、『疲れ』という概念はPC・NPC問わず襲いかかり、現実のように真価の発揮を妨げる。

 故に、このような休暇も必要なのだ。


「働くついでに旅行が出来る。いやぁ、こんな楽な仕事が来るなんて本当ついてるぜ」


「れすね! ほらほら陸遜、あなたも着替えにいくれす!」


「ああ、ちょ、押さないでください魯粛殿!」


 数分後。四人が更衣室から出てきた。皆、各々のセンスに沿った水着に着替えている……そう、各々のセンスに沿った。


「あっれー、どうしたのだ陸遜?」


 出て早々、周瑜は陸遜ーー上はアロハシャツ、下は海パンと、あたかもベタな安物をあさって着たような姿ーーに注目した。


「まるで男の子みたいなのだ。何故なのだ?」


「見ての通り背と胸の伸びがよくないのはお分かりですよね。となると着れる水着がひらひらだらけの、愛らしすぎる水着になるんですよ。だから妥協策として……ダメですか?」


「ダメなのだ、普通に可愛くないのだー、仲間にこんなのがいると思うとこっちも嫌になるのだー、ねぇー、二人ともー?」


「は、はい……」「れす……」と、二人は俗の言う同調圧力を先輩にかけられ、答えた。


「でも陸遜、ボクの頭の中に一つだけ、あなたも納得いく、今すぐ出来る、可愛くなる方法があるのだ」


 どういう策か、と陸遜が問うと、周瑜は彼女に飛びかかり無理矢理アロハシャツを脱がし上半身を裸にさせた。


「はい、これで幼くて愛らしい海パン少年の完成なのだ」


「「おお~~」」


「おお~、じゃないですよ! 早く返してください、これじゃ俺は露出狂になっちゃいますよ!」


「旅行ってのは多少ハメを外すぐらいが丁度いいのだ。それにあなたは元から男の子っぽいから他人はどうと思わないのだ。大丈夫、バレたらバレたでボクがどうにかするのだ」


「何がどう出来るんですか! ほら魯粛殿と呂蒙殿も何か言って……」


「かっこいいぞ、陸遜!」


「かわいいれす陸遜殿!」


 頼みの綱も、今回ばかりは、純粋にそっちサイドに行っていた。


「てなわけで皆、思いっきり楽しむのだー!」


「お、おー……」


 こうして、四人の海水浴は本格的に始まった。

 物は試しというべきか、最初は嫌々言っていた陸遜は、異常な事に慣れを感じ、平然と砂浜を歩けるようになってしまった。


 一時間後。


「すいません、俺そろそろ疲れてきたんで戻ります」


 陸遜は先達に断りを入れ、自分達の休憩場所に戻って行く。その最中、


「ちょっとそこの君、助けてくれない?」


 横から一観光客の女性に呼ばれ、当人の所へ寄った。


「これ開けてほしいんだけど」


 瓶を渡された陸遜は、力を振り絞り蓋を外して返す。と、女性は陸遜を引き止め、「日焼け止め、塗ってあげよっか」と、勧めた。


 陸遜はこれを固辞するも、女性が半ば強引に押し付け、結果陸遜は不本意に横になった。


「君すっごくふにふにしてるね、特にこことか」


「いや、塗るなら普通に塗ってくださいよ」


 ほのかに膨らんだ胸をさわる女性の手を、陸遜ははね除ける。これに女性は不満を抱きながらも、さらに興味がわいたようで、


「ちょっとあそこに入ってくれる?」


 付近にある、女性のテントを指差し、有無を問わず陸遜を押し込んだ。


「……一体、何をする気ですか?」


「お姉さんが色々、勉強させてあげよっかなーって、ね」


 女性は自分の背に手を回す。数秒後、彼女のブラが床に落ち、解放された胸が揺れる。


「あんまり自信無いけど……どう? いや、聞いてもダメか、じゃあその海パンを脱いで正直に答えてもらお……」


 ゾッとした陸遜は、迅雷の如くテントを飛び出し、本来行くべき所へ戻った。


 一方その頃。


「えっと、周瑜殿と呂蒙殿はイチゴ味れしたね。陸遜は、私と同じメロンでいいれすかね」


 かき氷求めて、魯粛は海の家に踏み入り、レジ前につく。客はさほどいないように見えるが、店員がいない。


「今日は何か少ないですね、客が」


「これから増える予感もないし、今日はいつもより早めに呼ぼうぜ」


「ですね。彼にはもっと注目を集めて頂かないと」


 しかし奥からコソコソと話し声が聞こえるので、魯粛は大声で「すいませーん! イチゴ味二つとメロン味二つをくださいれすー!」と叫ぶ。


「「は、はいただいま!!」」


 すると性格が真逆に見える青年二人が奥から現れ、大急ぎで注文の品を用意した。


「「まいどありがとうございましたー!!」」


 多少憤りを感じながらも、品を自陣に持っていく。そこには気まずそうに佇む周瑜と呂蒙と、アロハシャツと海パンを着て、そっぽを向いてビーチチェアに背をつける陸遜がいた。


「どうしたんれすか?」


「ああ、陸遜があの格好で歩き回ったせいで、妖しい目をした女性に

襲われそうになったとな」


「ごめんなのだ陸遜、ほらこの通り、許して欲しいのだ」


「そ、うれすよ……ほら、かき氷」


 陸遜は黙ったままかき氷を奪い、黙々と食べ始めた。


「ところで、いつになったら依頼主が来るんだ? 来たときより客足が減ってきた気がするから、今なら十分来れる暇はあると思うんだが」


「あー、そんなのもあったのだ。ひょっとしたら疲れ過ぎて悲鳴あげたんじゃないのだー?」


 噂をすれば影とやら、か。ありきたりなパニック映画のように、海岸中から悲鳴が上がるーー突如として海より姿を見せた、イカのような怪物によって。


「ヤバい! 奴だ!」

「噂じゃ出る時間はもっと後なのに……とにかく逃げなきゃ!」


 例外を除き、海岸にいる者たちは慌てて荷物を纏め、内陸へと逃げ出す。

 海岸に残った例外の内約は、大きく分けて二つ、突然の出来事故に状況判断をしていた孫呉の四人と、海の家の者達だ。


「あなた達ですね、かの四人は!」


 四人の元に、海の家の者であろう男が数十人の兵と共に駆け寄り、自らを『レーク・アーバン』と名乗った。


「あなたが依頼者れすか、して用は!」


「あの怪物の討伐ですよ! 誰かが野放しにしたのか、ある日を境に奴はこの海岸に定期的に現れ、客に迷惑をかける……だから幾度と討伐を試みたのですが、ここは自治領故に出せる兵は我々PCの直属兵のみと僅かな上、奴自身も非常に強い! 

 だからあなた達のような外部の者を雇ったんですよ……仕事内容を伏せたのは、奴に怯えられないようにです、すみません」


「謝罪は後でいいのだ! とにかく、行くのだ魯粛、蒙ちゃん、陸遜!」


「わかったれす!」と、魯粛は気を切り替え返事し、弩斧を構える。


「蒙ちゃん、陸遜! あなた達もなのだ!」


「はぁい、じゃあ俺は遠距離から援護しますんで」

「……ああ、すまない、何かあいつ、どっかで見たようなって考えてて」


 遅れて二人も武器を構える。これにて怪物退治の始まりだ。


 鏢、矢、火弾等、彼女達の攻撃が繰り出され、怪物は大いに退け反り、傷つく。


「ようし、この調子で攻撃を続ければ勝てるのだ!」


 ……最初は意気軒昂であった。しかし怪物の学習能力が凄まじく、繰り出される攻撃全てを徐々に、見切れるようになってしまった。


「まずい、動き出した!」

「逃げろ、逃げろ!」


 少数な上に引き腰ときた、か。戦線をキープしていた兵が、向かってきた怪物に怯え、それを崩してしまう。結果、怪物は砂浜へ上がり、何かに執着したかのように内陸へと目指した。


「あの進路の先には宿が! このままでは危ないぞ、何とかしろ!」と、自分の海の家に隠れるレークは懇願するも、彼女達にも出来る・出来ないの概念があるーー必死に攻撃を続けるも、まるで気にも止めない。


「まずいれすよ周瑜殿! 何か策は……」


「怪物の相手なんて学んだ事無いのだ! 無茶言わないで欲しいのだ!」


「学んだ事無いのだ……はっ、そうか! 思い出したぜ!」


 呂蒙は己の閃きを信じ、勇敢に怪物の進路に立つ。

 そして、堂々と怪物の前で、己の胸をあらわにする。

 だが、怪物はやはり気にせず、迂回して進路を行き続けた。


「あのー、蒙ちゃん。あなた、そういう趣味があったのだ?」


「んなまさか! アタシは魔法学院に通ってた時、友達が作った怪物と戦って、最終的に変になつかれて、鎧脱がされて恥ずかしい思いをしたって話したはず! で、アイツがその怪物に似てるからもしかしたら応用で大人しく出来るかなぁ、と」


「それ、確か緊急時用の生物を大人しくさせる薬のせいだって覚えてるのだ……ってこんな事してる場合じゃないのだ!」


 怪物は話している間に、宿との距離を大きく縮め続ける。


「来た、生憎ですがここは陸伯言が通しませんよ!」


 同時に、陸遜が爆炎槍を構え、待ち受ける体勢を整えていた。


「陸遜……本当にごめんなのだ!」


「仕事と私情は別ですからね……さぁ、これでも食らえ!」


 爆炎槍の先端より、溜めに溜めた灼熱の砲弾が放たれる。これで怪物は重傷を負う……が、報復として水魔法ーー強烈な水流を放つ。


 これに陸遜は対応できず、地に背を付け大の字になる。怪物は、待っていましたと言わんばかりに手を伸ばし、陸遜を空に掲げ、


「こら、お前! 陸遜に一体何をするの……」


 器用にアロハシャツを脱がして見せた。


「あわわ、やばいれす! 陸遜がやばいれす~!」


「ほらぁ周瑜殿、やっぱり奴は女が効くじゃないか……ほらほら、何か言ってくださいよ」


 魯粛があたふたし、呂蒙が肘でつついて来る中、周瑜は考えた。


(決まった時間を裏切り現れ、こちらの攻撃を学び、露出した呂蒙ではなく真逆な陸遜を選び、服を脱がし出す……なのだー!)


「レークさん、ちょっと辺りを探して、怪しい奴をとっちめて欲しいのだ!」


「え、何故?」


「あの怪物には『探究心』があり、根元となる『賢さ』があるのだ! でもそれだけなら海だけには留まらない……つまりここに、奴を留める『指揮者』がいるはずなのだ!」


 周瑜は、露になった上半身を触られまくる陸遜に告げる。


「非常に申し訳ないが、耐えて欲しいのだ陸遜! この周公瑾が必ず助けてみせるのだ!」


「何謝ってるんですか周瑜殿、さっき俺をひどい目に合わせたのは手前でしょうに……今さら心配する暇があるなら、行動してくださいよ!」


「……感謝するのだ。魯粛、呂蒙、直ちに黒幕をあぶり出すのだー!」


「兵達も頼んだぞ! おお、まだ店にいたのか……ケリー、フロンティヌス、お前らも手伝え!」


 かくて、孫呉の三人とレークの一派は、黒幕捜索を開始する……

「って、ケリー、フロンティヌス! 何でお前らがここにいるんだ!」

 が、呂蒙のおかげで即、黒幕は明るみとなった。


「ああ、あれが例の二人なのだ?」


「そうだ、怪物を作ったあの二人だぜ!」


「いや、待て、誤解だ!」


「以下同文。私達はここでバイトをしていただけ……」


 と、二人は不自然な身振り素振りをしつつ、言い訳を口にする。が、皆の疑いは全く晴れない。


「お前らか、さんざんこの海岸を騒がせたのは……!」


「いや、レーク様、これは……」


「フロンティヌス、もう言い逃れはできない……逃げよう!」


 二人は水泡を作り勢いよく炸裂させ、目を眩まさせる。この隙を付き彼らは、海岸から逃げていく。


「懐かしいよ、あの怪物が魔法学院に評価された事が。その後、実は単なるイカにそれっぽい見た目と、学習能力を与えただけで、魔法を反射出来るのは物真似しているだけとバレ、がた落ちしたけどね」


「走馬灯みたいな事言うなケリー! まだ俺らは終わっていない! またどこかで奴を暴れさせ、俺達の発想力と実力を見せてやろうじゃないか!」


「そうだなフロンティヌス、弱気になってすまない……頼んだよ君! 思いっきり暴れて奴らを倒してくれ!」


 懇願空しく、怪物は陸遜にすっかり夢中になっていた。


「そこは触るな気持ち悪いっ……いや、だからくずったいって……おい、手前、どこに手をつけてる!?」


 上半身の観察を十二分に行った怪物は、過程故に湿りに湿った海パンに手をつける。刹那、それは主の元から引き剥がされた。

 同時に、微かに膨らんだ胸、僅かに締まっていない幼げな腰、程よく丸みを帯びた尻……それらを盛り合わせた、濡れ艶やかになった裸体が、陽の元に晒される。


「……何だよ! 先に言えよ! あいつが女だったって事をよ!」


「う、美しい……」


「くぬぬ……今ですよ皆さん!」


 陸遜に目を奪われた二人は、間もなくお縄となった。一瞬の出来事であった。



 その後、陸遜は救出され、フロンティヌスとケリーは仲良く牢屋行きとなった。また、かの怪物は自治領近辺にあった国の、魔法研究所に送られた。

 そして孫呉の四人は、さらなる疲労と、割りに合わない報酬を得て自治領を去り、帰路についた。


「……ごめんなのだ陸遜。あなたをひどい目に合わせて」


「いいって事ですよ。先達の尻拭きをするのも、若輩のする事ですから」


「ありがとうなのだ……んー、でもやっぱりパンいち陸遜はボクながら、貧相な陸遜を匠にいかした激可愛い策だと思うのだ!」


「あの、お詫びとして俺に一つ失言させてくれませんか」


 周瑜が首を縦に振ったのを確認すると、陸遜は言う。


「イガキリで風呂に入る時も思ったんですが。何か周瑜殿、自分の胸が大きい方だと思ってませんか? 魯粛殿と呂蒙殿を大の中とすると、周瑜殿は中の下ぐらいに俺は見えるんですが……何かうぬぼれてるみたいで腹が立つんですよねぇ」


 ひっそりとうなずく魯粛と呂蒙の隣で、周瑜は絵にかいたような動揺をする。

 

「んなまさか! そんなの傲慢なのだ、空しいだけなのだ! それにこれくらいの方が華奢で美しいのだ!」


「はい、わっかりました」


「ま、とりあえず『下手なあらわし』は危ないって事は、よく学ばさせてもらったぜ」


「れすね」


【第十三回 完】

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