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第十一回 国の暗雲を払う

 『LoveCraft』の舞台、ロジスティック大陸の真西、ホイプペメギリ地方に『イガキリ王国』という小国がある。

 周りには四つの大国があり、さらに周りにはそれらを囲うように山脈がある。

 四つの国は現在進行形で争い続け、一進一退を繰り返し、均衡状態となっている。

 イガキリ王国は『中立』を唱え、それら全てとの同盟、貿易を行う。

 これによりイガキリ王国は四国の貿易窓口となり、莫大な富を築き上げている。


 お察しの通り、今回の舞台はここである。


 仕官を求むとの書が届き、目標の都合上、本当なら定住は避けたいのだが、仕事を選ぶ余地は無いので訪れた次第だ。


「すげえデカイ壁だぜ」


 全ての国と同盟を組んでると言えど、戦乱の世に安全は無い。万が一攻められた時を考え、イガキリ王国は巨大かつ強固な壁に、囲まれている。


「よくぞ来てくれた!」

 門を潜ると、大量の兵と共に男が視界を埋め尽くした。


「俺の名前はハイド・ダーク、この王国の君だ! 立ち話もなんだ、馬車に乗れ、話は城でしよう!」


 王は是非を聞かず四人と共に馬車へ乗せ、自分は別の馬車に乗り、大きく賑わう城下町を通り、城へ向かった。

 直後、これまた是非を聞かず城の案内が始まった。



「で、私達に何の用があるんれすか?」


「仕官だぞ? 用はその都度話すから、そう焦るなよ。あ、ここだここだ、今回の目玉は!」


 ハイドはとあるドアを開け、非常に広く、豪華な部屋を四人に見せびらかした。


「おおー、凄いのだー!」


「ベッドもふかふかれすー!」


 これに四人は大興奮する。


「ここはお前らの部屋だ、好きにしていいぞ!」


「……こんな豪勢に、大丈夫なんですか?」


「民にも、臣下にも、下の者に優しくするのが王の仕事だからな!」


「流石だ! 本当にありがとな!」


 呂蒙はハイドの手を無理矢理取り、溢れんばかりの好意と尊敬を込めて握手した。が、


「王に易々と触れるでない!」


 親衛隊が彼女を突き飛ばし、即刻やめさせられた。


「そんなに怒るな、怪しまれるぞ……どういたしまして! そしてすまない、ここで待機してくれ!」


 十分後、王は戻り、城の案内を続けた。図書室、浴場、庭園等、余す事なく公開し、そして……


「ここが宴会場だ! ほら、もう匂いでわかるだろう!」


 豪華な料理、楽器の手入れをする奏者――そこで歓迎の宴の準備がされていた。


「さあ遠慮なしに席につけ! 思う存分楽しんでくれ!」


 お言葉に甘え、四人は席につき、早速料理を楽しみ始めた。


「普通においしいれす~、これ!」


「いやー、結構結構! ささ、食べるだけでなく飲むのも忘れずに!」


 ご親切にハイドは四人の杯に注いでやる。


 不遇と困窮と転戦を繰り返し、疲労が溜まってきた四人の事である。今までの鬱憤を全て晴らすため、四人は狂おしい程に宴を楽しんだ。


「ははは! ほら飲むのだー! 国王も飲むのだー!」


 すっかり宴スイッチが入ってしまった周瑜は、召し使いからボトルを取り上げ、我が物のように他三人と、ハイドに振る舞る。


 同じ状態の魯粛と呂蒙は喜んで飲む。が、


「はあ、ありがとうございます」

 テンションの高さ、もしくはあまりの羽の伸ばし様にドン引きしたのか、陸遜はちびちびと毒味するかのように飲み、


「ほ、ほら……君も飲め」

 同感であろうハイドは、杯を部下に渡しながら引き笑いした。


「ちょっとすいません、俺トイレに行ってきます」

 陸遜は立ち上がり、トイレへ向かう、その最中――正確にはハイドの背後を過ぎる時、一ジトのコインを落とす。タイルに激突し、微かな音を鳴らす。


「ふっ、何だ!」


 それに気づいたハイドは飛び上がり、召し使いに詳細を調べさせる。


「異変らしい異変と言えば、これです、コインが落ちていました」


「あ、すいません! それ俺のです!」


 慌てて陸遜は引き返し、召し使いからコインを受け取った。


「はぁ、気を付けてくれよ。金は大事だからな」



 宴の後、陸遜は図書室を訪れていた。

「歴史、歴史……」


「ここにいたか陸遜殿!」


 ちょうどよくハイドが親衛隊と共にやって来たので、陸遜は彼に尋ねる。


「この国の歴史とかが書かれた本はありませんかね」


「ない。周りの国と同盟し、外交しまくった。それだけの歴史だからな」


「そうですか」


「それよりここにいて良いのか? 他の三人が待っているぞ」


 陸遜は速やかに部屋へ戻る、と、


「陸遜、お風呂に行くれす!」

 魯粛が風呂に誘ってきた。


「俺は後で行きます」


「えー、何故れすー」


「ははーん、さては陸遜、一緒にお風呂に入ると、嫉妬しちゃうから行きたくないのだー」


「嫉妬? 一体何の事れす?」


「これなのだ」


 周瑜は魯粛の大きく膨らんだ胸を揺らして見せる。


「陸遜はほんの少ししか膨らんでない男の子みたいな身体なのだー、そりゃ嫉妬も仕方無いのだ」


「わ、わかりました! 行きますよ俺も!」


「そうこなきゃ面白くないのだ! じゃ、行くのだ魯粛、蒙ちゃん、陸遜!」


 こうして四人は揃って浴場へ行った。そして陸遜は湯船に浸かりながら、考えた。


(あんな煽り無視しておけばよかった……さて、この後どうやって外に出ようか……)


「露天風呂もあるじゃんか! どれ、行ってみよー、って寒!」


「あはは、そりゃ裸で夜風を浴びたらそうなるのだ!」


 陸遜は決心した、『これだ』と。


「そうなんですか、じゃあ俺行ってきます」


「カッコつけて身体壊しても虚しいだけれすよ」


「のぼせて来たから身体冷ましたいんですよ」


 上手い事理由をつけて、露天風呂に来た陸遜は周りの風景を眺める。


(ざっと五十メートルはあるでしょうか……しかし目的のためだ、恐れている暇はない)


 陸遜は意を決して、その身を宙へ放り、風を浴びる。


(あれだっ!)


 うっすらと両手から魔法で火を放ち、勢いを弱めながら、公園の噴水へとダイブした。


「ちっくしょー、あの野郎絶対イカサマしたはずな……」

 

 そして自然に行動するために、たまたま通りすがった人を襲撃、服を奪い、街を出歩いた。


(あの王から外出許可を貰えばすんなり出られるが、その場合家臣の眼下だからとおべっかを使う。こう身分を隠した状態で行けば、必ず真意が見えるはず)


 貿易で儲かっている国にも関わらず格安の四人を雇い厚遇し、目まぐるしく情勢が変わるのにも関わらず記録を取らず、宴会に俺達以外の家臣がいない、そして何よりあの王の警戒心が強すぎる事。


 これらの違和感を感じ取った陸遜は、この国の秘密を探るべく、お忍び外出を決行したのだ。


「この野郎テメェ! 殺してやらぁ!」

「ほら見ろ! これがアイツから奪った宝だ!」


 さて、街を回ってみると昼の賑やかさの裏のように、汚ならしい者達が汚ならしい言動を行う、無法地帯になっていた。


(ここは街の中心なはず……何で賊が平気で居られるんだ?)


 やがて陸遜は住宅街に来た、賊を恐れてか、夜とは言えど生気すら感じない程静まりかえっていた。


「おらぁ! 金返せやゴラァ!」


 それ故に際立った、荒い声が陸遜の耳に届く。早速現場へ向かうと一人の賊が、老人を家から引っ張りだし、襲いかかっていた。


「金を返すべきはあなたでしょうが! 本来ならば貸すべきではない賊に仕方なく貸してやったというのに……」


「賊にとってはなぁー、他の奴が持ってるものは全部こちらの物なんだよ! イキってんじゃねーぞ、このジジイ! ぶち殺……」


 物理的に、賊の身体に火が付き、彼は石畳にのたうち回る。


「誰だこんな事した奴はー! ふざけんじゃねーぞ! 国軍に付き出してやればテメーなんか……」


 もう一発火の玉を撃ち込まれ、あっという間に賊は灰となった。


「大丈夫ですか」


 きょとんとする老人の前に、陸遜は姿を現す。


「な、何をする! 助けてくれたお礼に何を求む気だ!」


 格好が格好故に賊だと思われる。しかし陸遜は臨機応変に、


「ええ、お礼はしてもらいますよ……ええじゃあ、この国の事を教えてください」


「? ああ、そういう事か……おいで、ここは寒いからね」



 城内は城内で騒がしくなっていた、突如陸遜がいなくなったのが原因である。


「一体どこに行ったんれすかね、陸遜……」


「ひょっとしたら周瑜殿の煽りで誇りを傷つけられて露天風呂から……」


「ん、んなまさかなのだ! 蒙ちゃん、勿論冗談なのだ? だ?」


「けどやっぱそれ以外現実味が無いと思うぜ。露天風呂の出入口はあそこしかないし……」


「……何話してるんですか」


「ああ、お風呂入ってる最中に陸遜がな……って陸遜!」


 三人はいつの間にか居た陸遜を見て、大いに驚く。


「陸遜! 一体どこに行っていたのだ!」


「皆がのぼせ気味の最中に一人であがって、そっから城内でぶらぶらしてました」

(城に忍び込むのは大変だった……特に城壁登りは)


 陸遜が自分がいる事を捜索隊に言い、この騒ぎはすぐに落ち着いた。


「全く、一時はどうなるかと思ったれす……」


「本当に申し訳ありませんでした。勝手に城を抜け出していて」


「終わった事だからいいれすよ……って、城を抜け出したれす!?」


「陸遜! お前さっきは城内でぶらぶらしてたと言ったじゃないか!」


「建前ですよ、建前……この国の闇を暴くための」


 国民から引き出した、イガキリ王国の闇を淡々と陸遜は語り出す。 


【第十一回 完】

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