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おうじさま。

彼女のおでこに自分のおでこを軽くぶつけた。


これが僕なりの愛情表現だ。


そのあと彼女を抱きしめて、彼女の頬に自分の頬をつけた。

ひんやりとした彼女の頬は、かなり気持ちがいい。


そして僕の鼻をくすぐるのは、僕の大好きな彼女の匂い。


鼻で大きく息を吸う。


いかん、過呼吸になりそうだ…。


「どうしたの?」


彼女の頬が動く。

僕は彼女の耳に息を吹きかけるように言う。


「好きだ」


彼女の体がぴくんと跳ねて、甘い声が漏れる。


珍しい。

彼女はこういう刺激には強い人なのに…。


僕は肺がいっぱいになるように彼女の香りを吸って、ゆるゆると彼女の耳に吹きかけた。


「…やっ……」


可愛い。


僕は彼女の肩に両手を置くと、頬に軽くキスをしてそのまま後ろに寝転がった。


今日は彼女のベッドではなくて彼女の部屋のごわごわのじゅうたんの床なので、寝心地はあまり良いとはいえない。


ちなみに、僕は今の一連の作業をするだけでかなり精一杯である。


力加減が難しいのだ。


ドキドキや戸惑いに敗けっぱなしだとキスもできないし、だからといって、本能の手綱を手放してしまえば何をしでかすかわからない。


僕はそんなヤツだ。


「…ねえ?」


いつの間にか僕の隣に寝転がっていた彼女に言う。


「好きだよ」


彼女はこれもまた珍しく、照れるような身振りをして僕に顔を押し付けた。


「…うるさい」


彼女がぼそっと言ったので、僕は

「ごめんね」と謝って彼女の頭を撫でた。


「…ゆるす」


「ありがと」


彼女の頭を優しく二回叩いて手を離した。


今日の彼女は可愛い。


…まぁ、いつも思っていることなのだが。


僕は自分に呆れて口の端で少し笑った。自分が少し気持ち悪かった。


いつもなら僕の体のいたるところをつついてくる彼女もおとなしいし、今日はわりと平和な感じだ。




目を閉じた。



僕の心臓の音と時計の秒針の刻まれる音、そして彼女の寝息。


「…寝るの早すぎませんかねぇ?」


僕の呟きが聞こえるわけもなく、彼女の幸せそうな寝息はリズムを崩さない。

ちょっとむかついたので、


「えいっ」


彼女の頬をつついてみた。


「…むー…?」


彼女は顔をしかめて、少し下を向いた。


僕はどうすればいいのだろうか。

起き上がってみようとしたが、彼女に腕をつかまれていた。



突然だが、彼女には特殊能力がある。



彼女の隣に座っていると、ものすごく眠たくなるのだ。

彼女が眠っていたり、自分が寝転がっていたりすると完璧にその能力の餌食だ。


彼女の前で眠るのはとても危険なことのように感じられる。

僕の眠りは結局深いので、彼女のくすぐりではおそらく起きないだろう。


でも体は反応するだろうから、僕の

「エロボイス」が大好物の彼女には絶好のエロボイス日和になるだろう。


……かなりぞっとする…。



と、いうわけで。


「起きてくれー…」


僕は彼女をゆさゆさしてみることにした。

ちなみに、腕から無理やり離したぐらいでは、彼女は起きなかった。


「…んー…?」


彼女の手がぴくんと動いた。


意外と寝起きは悪くないようだ。


瞳がゆっくりと開く。

僕は彼女の顔の両横に手をついて、上半身だけ覆い被さるようにして彼女の様子を見ていた。


瞳が完全に開いた。

僕の方を不思議そうに見た後に、頭を少し動かして頭上の時計を見て、また僕の方を見た。


両手が動きだした。

彼女は目をこするとその両手を目の前に伸ばし始めた。

目の前ってのは僕の方ってこと。

「どうした?」と口を開こうとしたら、彼女の両手が僕の両頬に触れた。


眠たそうな瞳が再び閉じられる。


ぐいと僕の頭は彼女の唇に引き寄せられた。


「んっ!?」


僕はとっさに目を閉じた。


彼女は僕のおでこにキスをして、僕の頭を解放してくれた。


「お…、おきた?」


僕がびくびくした声で聞くと、彼女は眠そうにこくこくと頷いた。


僕はふうと息をついて起き上がった。

彼女は僕の服を引っ張って起き上がってきた。


「ねーねー」


彼女が僕を呼ぶ。

僕が彼女の方を向くと、


「うむっ!?」


そのままキスされた。

今度はしっかり唇に。




前言撤回。

寝起きは最悪だ。




驚いた僕が抵抗すると、彼女はすぐに僕を解放してくれた。


「おはよ」


彼女はいつものにやっとした笑顔を浮かべて言う。

僕は額に手をあてて息をついた。


「おはようございます、キス泥棒の白雪姫」


「生憎りんごは食べてないなぁ」


「じゃあ、眠り姫ですかねぇ」


くすりと彼女が笑った。


「ずいぶんとキスの苦手な王子さまですこと」


僕は彼女にデコピンをくらわせた。

彼女は小さく声をあげたけど、懲りずに僕に言う。


「大好きだよ、王子さま。キスがヘタでもね」


「るっさい」


にらみつけてみたけど、彼女があんまり可愛らしく笑ったので、少しひるんでしまった。


しょうがない。

今回だけは許してやるか。

珍しいものも見られたし。



「……好きだよ…同じぐらい……」







……今回だけだからな!!








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