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飛び降りたら異世界へ

初投稿です!よろしくお願いします!

コンコンコンと、薄暗い階段に足音が響く。階段と壁が灰色なため、外気温によって低くなった階段内の温度をさらに低く感じさせる。


 そして、最上階へとたどり着き、目の前の隅の方が所々錆びて茶色くなった緑色のドアを押し開けると、冬も三月の夜の寒い空気が入り込んできて、思わず身震いする。


 そうして着いた屋上から、まずは景色を見渡す。無窮の夜天とその下に無数にちりばめられたダイヤモンドのような都市の明かりが織り成す景色は、一時全てを忘れさせる美しさと、まるで質量を持って迫って来るかのように感じさせる迫力とを併せ持っていた。


「おお…」


 その景色を見て、私―――吉野 果穂(よしの かほ)はため息を漏らす。


「最後に見るのをこの景色にした私の判断は間違ってなかったみたいね…」


 そう、私は今晩ここに自殺しに来た。


 自殺しようと思った経緯を思い出してみる。


 私の家族は父、母、私の三人家族で、私の父親は製薬会社に研究員として勤めていて、私の家は生活には困っていなかった。けれど、私が小学三年生の時に父親が転勤することになり、一家全員で今のこの市に引っ越してきた。


 だけど、これが悪夢の始まりだった。


 私が転校先で入った公立小学校のある地域はわりと裕福な家庭が多くて、親同士の繋がりもかなりあった。そうなると、小学三年生という微妙な時期、加えて私の性格がそこまで積極的でないことを加えると、私が学年の中で孤立するのは当然の流れだった。

 

 それでも、小学校はまだよかった。問題は中学校だった。


 私の地域は小学校と中学校がとても近くにあり、小学校を卒業したらそのまま近くの中学校に進学するのがほとんどで、私もそうだった。

 

 しかし、中学生になると子供というのはあれこれやるものだ。そのうちの一つに"陰湿なイジメ"があった。最初は元々、新環境での不安、不慣れ、ストレスなどの発散のために少し何かをしたかっただけだったのだろう。当然、そのイジメの対象は、小学校と同じメンバーの中で未だに孤立していた私になった。


 最初はただの暴言、悪口だった。そして私はあまり積極的でない性格から、何も言い返したりしなかった。すると、私をイジメていた人達は味を占めて、イジメはどんどんとエスカレートしていった。


 さらに良くなかったのは教師達だった。


 教師達はイジメの事実には気がついていなかった。私が時々学校を休んでもただ、


「昨日休んでたが今日は大丈夫か?」


と、聞くだけでイジメのことなんてまるで知らないようだった。いや、ようだった、ではなく実際知らなかったのだろう。


 教師に訴えてもイジメに気づいてくれない、気づけない。まともに聞く耳を持ってくれない。私は教師という物を信用できなくなった。


 私が学校を休む頻度が少し上がり、更に学校に行くストレスに耐えかね通学途中で家に引き返したりするようになり、しまいには不登校になることでようやく学校側はイジメ問題を把握したらしい。中学二年生の秋だった。


 こんな状態でも、私が自殺なんてせず、一応生きていたのは、


"Another Reality"


このゲームがあったからだろう。


 "もう一つの現実"をコンセプトに作られたこのゲームは、世界初の五感型VRゲームということもあって、非常に人気があった。そして、私もこのゲームをプレイして魅力された。ゲームの中では現実の自分を忘れ、自由に動いていた。


 だが、仮想と現実の違いや、現実の厳しさと、教師に何度も言われた学校に来いという私の事を考えてくれているのかいないのか分からない言葉にもう、私は人生に絶望してしまった。


 そこからもう、自殺しようという考えに至るのは速かった。


 そして、今に至る。


「遺書はしっかりと残してきたし、親に知られたくない物は隠してない。うん。大丈夫!」


 そう言いながら私はフェンスに手をかけ、身を乗り出す。冬の夜の寒さで冷たくなったフェンスから思わずすぐ手を離しかけ、冷や汗をかく。さすがにこんなドジをやって死にたくはない。


 死んだあとに転生するなんて事は無いと思うが、この現実という地獄から解放されるならもうどうでもよかった。


 さあ、いよいよだ。


「今までありがとう、この世界!」


 そう言ってフェンスから手を離し、冬の夜の冷たく澄んだ空気の中に飛び込んだ。地面のアスファルトにどんどん近づいていって、最期は目を閉じて―――――グシャ、というおそらく自分の頭が潰れた音と、ボキッというおそらく自分の首の骨が折れた音とが、やけに明瞭に聞こえた。




~~~~~




「う…」


 暖かい日の光のような物を感じて、目を開ける。


「ここは…」


 うつぶせになっていた体を起こして周囲を見渡す。私は大きな木の真下にいるようだ。服装は真っ白なワンピース。そういえば私が自殺したときに着ていた服はどうなったのだろうか。血とか諸々でグッチャグチャなんだろうか…うわあ、嫌な想像しちゃったなぁ…。

 

 木の周囲は全て平坦な草原となっていて、一面の黄緑の中に黄色や赤色の小さな花が所々に彩りを添えていた。穏やかに吹く風が心地良い。


「目が覚めたようじゃな」


「ッ!?」


 草原を見つつ、適当なことを考えながらボーッとしていたので、突然掛けられた声にとても驚いてしまった。


 慌てて振り向くと、そこには綺麗な木目が入ったウッドスツールに座った、一人の老人がいた。


 その老人は白いゆったりとした天使とかが着てるような白い服を着て、口元に立派な白い顎髭を湛えた見た目ザ・神な姿だった。


「あなたは…」


 誰ですかと、問おうとしたが途中で老人が差し出した手によって遮られてしまう。老人が座っているスツールのテーブルを挟んだ反対側にも同じスツールがあり、老人はそこに座るよう手で促していたので、とりあえずスツールに座る。


 座った途端、木漏れ日でほんわかと温かくなった少し木の柔らかさを感じるスツールに驚いていると、唐突に老人が話しはじめた。


「まずはいきなり声を掛け、驚かせてしまった事を謝罪しよう。申し訳ない」


「いえ、そんな…」


「そして自己紹介しておこう。わしは神で、ここはわしの神域じゃ」


「はあ…」


「まあいきなりそう言われても、この人頭大丈夫?と思うじゃろうな。とりあえずそちらの質問に答えようと思うがどうかの?」


 まさにそう思ってました。なんて言えない。


 そう言われて、気になっていたことを尋ねてみる。


「えっと…まず、なんで私はここにいるんですか?」


「ふむ。おぬしにはこれから別世界に転生してもらう。おぬしの世界の小説にある転生モノの当事者になるわけじゃ」


 なんと。自殺したら異世界転生とは。なら、小説でよくある質問を。


「私の転生先はどんな世界なんですか?」


「おぬしの転生先はおぬしの世界で言うところの剣と魔法のファンタジー世界っちゅうやつじゃ」


 おお!剣と魔法とな!?ゲームしてて、使ってみたいとは思っていたが、まさか自殺したら叶うとは!自殺サイコー!


「ふむ…何やら狂ったことを考えとるようじゃが…まあいい。おぬしには転生した先でしてもらいたい事がある」


「してもらいたい事?なんですか、それ?」


「それはの、転生者狩りじゃ」


「え?」


 おおう。何やらやばいことが聞こえてきたんですが…


「ああ、言い方が悪かったの。悪事をはたらいておる転生者を狩ってほしいのじゃ」


「?どういうことですか?」


「少し前にの、わしらが管理しておる世界の内、様々な原因で停滞しておった世界におぬしの世界で死んだものを転生させたことがある。その結果、その世界は良い方に進んでの。その結果、まだ若いことも原因だったんじゃろうが転生を担当していた神が調子に乗っての。あちこちの世界に転生者を送り込みおったのじゃ。その結果、世界を良い方に進めた転生者もおれば、悪い方に進めた転生者もおった。ここまでいえばわかるじゃろ?」


「はい。その世界を悪い方に進めている転生者を狩れというんですね」


「まあ、そうじゃ。といっても実際殺すわけではない。こちらに送還してほしいのじゃ」


「わかりました。でもどうやってこちらに送り返すんですか?」


「おぬしに転移能力を付与しておく。それでこちらに送還してほしいのじゃ」


「了解です」


 おお…面白いことになってきた。第二の人生とは嬉しすぎる。しかも転移能力付きとは。あれ?私、勝ち組確定?そんなわけないですよね。はいすいません。


「他に質問は無いかの?」


「特に、無いです」


「そうか。では最後に一つ。おぬしの使命を忘れず、今度はしっかりと生きておくれ。ではの」


 神様がそう言ったと同時に私の足元に魔方陣が浮かび上がり、私の意識はゆっくりと融解していった…

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