小学生編2
安心安全だった日常は、化け物の存在によって打ち砕かれた。
あまりの恐怖に絶叫をあげる者や、何が起きてるか理解が追いつかず立ち尽くすしかなかった。
このクラスは二階にあり窓からは逃げられない。前のドアにはオジサンが、後ろのドアからは逃げられそうだが、近くに大きな犬がいる事によって、次の犠牲者になりそうで近づけない。既に意識のない女の子が噛み千切られている。
僕は、次の犠牲者にならないように隅へ隅へ…
『机でバリケードを作れ‼イスでみんなで殴るぞ‼来るぞ!』
他の男子のかけ声に、数人が机と椅子を構える。
みんな泣きそうな顔なのに、戦おうとするだけ立派だ。
依然にもこんな事はあった。友達と遊んでる時にからまれ、殴られカツアゲされた時。生命の危機を感じ何も出来なかった。今回は本当の命の危機だが、一緒のようなものだ。
小心者の臆病者、それが僕の本性で…趣味のゲームで1番になろうとする事も、この事実が根本にあるのかもしれない。
クラスメートが死んでもその本性は変わらない、誰か早く化け物をやっつけてと願うしかなかった。
大きな犬は俊敏だった。所詮小学生の腕力で振り回す机や椅子では致命傷を与える事はできない。振り回す隙をつかれ、足を噛まれのたうつもの、前足の爪で引っ掻かれ血を流し倒れるもの…
ここは本当に学校の教室だろうか?女の子の死体、飛び散る血…
僕は震える体で祈る事しか出来なかった。恐怖というものは、残酷だ。生命の危機であればあるほど、呑まれた者を縛り付ける。
少しずつ…少しずつ…後ろの人混みへ…後ずさる…
後ろの人に当たる…それでも掻き分け後ずさる…その時。
ドン… 背中を押され前に倒れこむ。誰かが自分可愛さに押した。押し出したのだ。憎悪という黒い炎が膨らんだ時、犬はその臆病者の僕に標的を定める。
大きな口を開け鋭い牙で…僕の首を噛み千切ろうとする時も僕は動けない。
ただただ、絶望に悲惨な顔をしているだけだった。
しかし噛まれた瞬間、キン…という高い金属音
噛もうとした犬が何故か後ろに下がっている。首は…なんともない。噛まれたときに名札が一瞬光った気がするが…
動転する僕は何故か名札を握りしめる。神がここに、ここにいる。そんな気持ちなのかもしれない。
犬はもう一度僕に飛びかかってくる。次は噛もうとはせず、覆い被さってきた。動けないのに、動きを止めて逃げられないように始末しようとしたんだろう。
たがその動きを止めたとき、犬もまた動きが止まる。
『うぉぉおあぁ!』
椅子で犬の頭を横から振り抜く。助けにきた よしあき君だった。
犬は横に倒れこむ。このチャンスは逃せない、他の男子が机で押さえつける。1つでは足らず2つで押さえ込む。
しかし、その大きな犬にダメージはない。ただ押さえこむ事で
時間は稼げた。
『たけぇぇええし!!!』
『わかってるって‼これね、ケルベロォォーォス!!!』
たけし君が手品じゃねーよって言ってた炎を、犬の口めがけて投げ込む。炎は大きな口の中にスッポリ入り…とたんに異臭が教室の中に充満する。獣が焼かれた匂いというものだろう。犬は明らかにダメージを追い暴れだすが、顔を焼かれ苦しんでいるこの状態は見逃せない。複数の男子によって、袋叩きにあう。
机で椅子で、脳ミソが飛び散るまで殴り続けられる。
犬が動かなくなって、一安心し、やっと周りを見渡す視野が広がると…
オジサンが黒板の前で短剣を持ってニヤニヤしている…
『なんなんだよオマエ!どうしてくれるんだよコレェ!』
誰もが叫ぶ。教室の中は死体もあり、血も散々飛び散っている…
この責任はどうするのかと。
だが、オジサンは何も答えなかった。
友達を殺された悔しさを晴らすため、前に出て文句を言う女子をニヤニヤ眺めながら、見つめていた。
次第に沸く殺意の感情はクラス全体に広がり、モップを持ってきた男子が短剣を払う。女の子を見つめていたオジサンは、短剣が払われて初めて声をあげる
『グゲァグゲェ』
気色悪い声をあげながら、モップを持った男子に飛びかかり殴りかかる。小さい割りに力がある。男子をマウントポジションに取り殴り放題殴る。気持ちよくなったのか、グゲァグゲェと叫んでいる。1体1なら、殴り殺されそうだが…
『たけえええし‼』
『デジャーブ!!』
よしあき君がまたもや椅子で、真横から殴り払うと同時に、たけし君が近寄り炎で顔を焼いた。
オジサンゴブリンは焼かれて苦しんでいたが、ほどなくして動かなった。
非現実的な世界を目の当たりにし、体中の細胞が高熱を持ったかのように熱くなっていたが、動かなくなった死体を呆然と見つめているうちに、冷静さを取り戻していく…
『テレレッテッテ~♪、たけしはレベルが上がった。』
『いや、今、そんなのはいいから。』
惨状の空気を読めない たけし君とそんな会話をしてると隣のクラスから様子を見にくる者も来て、あわただしくなる。
そして大きな犬とゴブリンオジサンの死体は、みんなが見ている前で…消えてしまった。