3 色んなイミで危機一髪(19/2/17改稿)
読者の皆様どうもこんばんは。
さて、早速今週の不憫第二弾をどぞ!
あれからさらに2年経過、4歳児の出来事。
周囲360°から迫る無数の物音。
上空からの煩い視線。地中からのノック音。前後左右からの殺意100%な殺意。
そんな絶対殺すマン多勢の敵陣。というか最早殺陣。もちろん逃げ場も交渉の場も無い。
グラウンドは密林地帯。低木から高木まで様々で、極相に達しているのだろう。枝葉が邪魔で満足に身動きも取れない。幼児期の肉体にはきつい。せめてもう少し身長と筋肉があれば。
ところで一体ここはどこだろうか。
地図も無く、頼りにならなかった方位磁石はさっき戦闘中落としてしまった。買う当ては今のところ無し。ここはコンビニ1件どころか人里すらない人外マ境。人生活圏外で生活する弊害はこの辺りか。
巨大蛇の頭を巨大マンティスの釜攻撃使って叩切き落としつつ(強制同士討ち)、無性に叫びたくなった。私に平穏な生活をくれ、と。
一旦落ち着こう。わかっていることもあるのだ。
とりあえず後方に向かうと断崖絶壁があることだけは分かっている(さっき来た道)。左右方向へ行けば蜂の巣と蜘蛛の巣がある(1・2週間前に行った道)。
残すは前進あるのみ、ということはわかっている。
そう、私には逃げ場がないことだけはわかっている。
思わず白目剥きたくなる現状に置かれた状況。前世の4歳児って何していたっけ(白目)
しかし現実は無情で無常。死にたくなくば前へ逃げろ。
「本当に何度目だよ、この修羅場」
事態を招いた元凶を白い目で見つつ、どう逃げるか算段をつけんと体制を整えた。毎度のことなので最早慣れた作業と化している。
とはいえ、できることなんて武器防具の装備と魔術式展開くらいだが。
〈……つべこべ言ってないでさっさと逝くぞ〉
お前が言うな!
そうハリセンで突っ込みたい所だが、今それどころじゃ無い。
「……いくよ。」
展開した魔術式へ魔力注入。
ドカン、パラパラパラ……ズズン
木っ端微塵に砕け散った巨大甲虫と植物系の魔物の残骸(液体含む)を避けつつ、一瞬空いた包囲網を駆け抜ける。0.01秒でも速く、俊敏に。
耳障りな羽音へ向けて第二陣の展開済み魔術式。魔力注入。発動成功。
前方の敵、後方の敵を消しとばしで進む。
進め、歩みを止めてはならん。その瞬間に喰われる。
短刀で紫色の触手を切り飛ばしつつ、兎にも角にも前へ前へと押し進む。
こんなところで蟲の餌食は真っ平。
只今逃走中也。
背後に迫るのは『スタンピード』、所謂魔物群暴走のこと。
多勢に無勢を象徴する魔物の集団暴走は、理不尽そのものを象徴すると言えるだろう。村とか街とかを潰すので、冒険者ギルドではS級災害指定されていると聞いた。主に親父関係の幽霊から。
そんなやばいものに追われて絶体絶命な現状。もう慣れた。
この状況は今回ので3回目。いい加減心が折れそうになっている今日この頃である。
一体いつになったら転生前に望んだ平穏ほのぼの隠居生活が送れるのだろうか。
目前へ次々犇く魔物へ、骨ナイフを構える。
GRUAAAAAAAAAA
GYAAAAAA
GURURURURURURURUR
木霊する不気味な鳴き声。ビリビリと空気が揺れる。
流れる汗を拭いつつ、気合いを入れる。
まだまだ敵陣の層は厚い。切っても切っても途切れることのない絶望感。這い寄る恐怖と混沌の波は、今日も止まるところを知らない。
ええいもう面倒だ! 一気に消し炭細切りにしてやる、全員まとめてぶっ飛ばす!!
なんてテンションへ現実にはならんが、なるたけ気合(と魔力)を込めて魔術式展……
〈?!ライ!〉
慌ててキャンセルして何かを避け、反射で反撃。
切りつけたソレはイボだらけの触手だった。キモい、やばいという言葉が一瞬浮かぶが、気持ちをさっさと切り替える。ついでにナイフを振って毒色の血を払った。
前を向くと、目が合う。宙に浮かぶ血管の浮き出た巨大目玉である。
嗚呼次から次へと。ブーンと耳障りな羽音を避けると、発生した鎌鼬が周囲をズタズタにした。
危なかった、また敵の姿へ意識が飛びかけた。
〈ライ、平気か?〉
「一瞬意識飛びかけた」
追って来る連中は、一瞬目が合っただけでこれだ。ヤンキーか。
しかもただでさえ狂気に満ちた目つき(というか目玉)なのに、醜い触手と昆虫の羽の組み合わせである。周囲を覆う黒緑の爬虫類的外骨格が尚のことこちらのSAN値を削ってくる。
そんな見た感じ大体タコな生物は、タコなんて可愛い生物ではなかった。
触手の付け根に肛門を兼ねた大きな口があり、鎌鼬で死んだ生物を取り込んでいる。だから、生物学的には海綿か海月の近類か進化系だろう。とにかく人の嫌悪感をこれでもかと盛り込んだ姿の魔物だといえる。
私はこいつらが大嫌いだ。見た目も含め、生理的に受け付けない。
何よりこの生物、結構遭遇率が高い上に厄介な性質がある。
目玉の攻撃性能が高く、相手を恐慌状態、金縛り状態にする原因不明の状態異常を付与する魔術式が組み込まれている。そう親父と親父の自称友人ならぬ友霊が言っていた。経験済みなので、これは正しい。
しかも、状態異常にかかればあっという間に根元の大きな口が迫ってくる。距離を適度に開けていないと強力な催眠毒と酸性毒を含む生臭い息が掛かる。そうなればもう、餌も同然。
いくら耐性があったとしても、個体別で強度や性質が異なることから油断できない。
避けた直後、目前で鈍く輝く鋭利な牙がガチンと閉じた。隙あり。
牙を足場に触手モンスターからさっさと距離を取った。
着地と同時に背後にいた魔物2体を真二つ。蜂と蜘蛛へアルマジロの外骨格足した姿の魔物。ピクピクと痙攣しているが、猛毒を持つ毒糸が出かかっていたのが見えた。
一息つきたいが、やはりそんな暇は無い。
嫌な気配を半身で避けた直後流れる黄緑の涎。数秒後に溶け出す地面へ冷や汗が出る。その間にも涎の主はトカゲの餌になり、トカゲもまた餌になっている正に食物連鎖。私もまた別の魔物を切り刻んでいた。
それでも依然として減る様子の無い魔物の群。
今し方死んだ魔物の影から見える無数の獰猛な眼光。野蛮な息遣いに荒々しい足音や羽音。昼間の太陽は魔物の影と毒霧で遮られ、辺りは夕方より薄暗い。
奴らが狙うのは一瞬の油断。
気を抜いたが最期。人間の持ち合わせないその鋭利な牙、爪、針、あるいはその巨体でもって蹂躙されることになる。抗う間もなく塵にされるだろう。
そんな怖く恐ろしい魔物大暴走。
尚、暴走メンバーは刺々しい見た目の爬虫類系から触手や昆虫まで選り取り見取り。
「減らない……」
思わずため息が漏れた。すると、少し離れたところで戦っていた親父が振り返る。
〈なあ、この中の魔物は従えないのか?〉
確かテイマー目指していたよな?
などと、ヤケクソ気味に血迷ったことを続いてほざいた親父。親父の劇薬で溶け出す爬虫類を無視して、汚物を見るような目で見返してやった。もちろんこの間にも手は止めない。
「幾らテイマー目指していても、な……」
語外にこんな連中は論外と伝えると、まぁそうだよなと返す親父。見た目も触り心地も無理だが、まず前提として調伏出来る自信が無いので無理。それに普段からこんなのに囲まれていたらSAN値直葬するだろう。
結論を述べるなら、リアルモン○ンは勘弁願うという話だ。
〈敵が減れば楽できるのに。〉
他人事のごとく勝手なことを言う馬鹿親父。次の瞬間疲れたと自分だけ上空へ。一息つく姿へ軽い殺気を覚えた。
「おかしい。」
手を動かしつつ、元凶をジト目で見上げる。思い切り顔をそらされるが、本当になんとかしろと目線で訴える。割と切実に。
結局こうなったか、頑張って逃げねば。
こっちは生身。幽霊みたいに実体は消せない、上空に逃げられない。相手はただでさえ車サイズの巨体。踏み潰されただけで即終了。噛み付かれでもしたら感染症待ったなし。
尚、この時の私は知らなかった。
私や親父の拠点へ一度に幽霊が集まったことで、元より綻びのあった大気の霊子・魔粒子バランスへ影響がでていたこと。別件で人外マ境を拠点とする種族の怨念が集まっていたこと。この影響で何度もスタンピードが起きていたこと。
そして、これらの積み重ねでとある『危険生物』の封印が解かれていたことを。
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スタンピードからの逃走時、親父と逸れたで候。
あの後なのだが、途中で別方向から来た魔物の大群と我々を追っていた魔物が衝突して乱戦状態になった。その隙に私はむしゃらに逃走。親父は自然とついてきていると思っていた。
で、やっと撒いたと安堵したらぼっちだったと。
親父がいないことに気づいたが後の祭り。どうしよう。そも、4歳児にどうしろと?
どうしようも無い。
迷子の室内放送でもあればいいが、そんな便利な文明の利器は存在しないのである。ここは異世界、大自然。しかも、よく考えてみたら第一村人との遭遇すら済ませていない身(そういえば戸籍とかもなかった)
これもしや、遭難しても探してもらえないパターンでは……
私はもう、考えないことにした(達観)
取り敢えず安全を求めて歩いてみた。途中チョコチョコ雑魚の襲撃受けながら。いい加減疲れてきたので雨風攻撃防げそうな場所を探した。一箇所だけやけに静かだと気づいて行った。
そして、何か変な物が見付かった←
「なにこれ?」
好奇心の赴くままに近づいて観察してみた。
この時私は相当疲れていたらしく、警戒心という言葉は吹っ飛んでいた。
それはまさに、透明な球体と言うべき物体。
森の中で光りながら宙に浮かんでいた。
触れたらレベルアップか巨大化するだろうか、某赤い配管工のごとく。などとふざけた思考が一瞬浮かぶ。だが、すぐに違和感に気付いた。
よく見なくとも中心が形容し難い色で濁っているのである。その上これは、周囲から魔素やら霊力やら奪う様に渦巻いているのが見て取れる。
その様は、禍々しい以外の感想が抱けないほどだった。
これやばいやつかもしれないと、脳内で遅すぎる警鐘が鳴った。
嗚呼でも、逃げるには遅い。油断しすぎ。近づくべきではなかった。
疲れすぎて、逃げるにせよ物音を立てずには不可能。距離を取ろうにも、今から多分魔物がいる場所(強歩30~1時間程)まで行ける自信がない。こんな時ばかりは肉体年齢4歳なのが憎い。スタミナがもっとあれば全速力で逃げられただろうに。
だから、何事も無かったかの様に通り過ぎることが不可能になったということである。
どうしよう。どうしようもない(達観)
これはもう清く諦めるほかないだろう。仕方がない。せめてなんとか生き残るため最大限努力するしかない。
せめて体力を温存するかと座り込んだ。ついでに水筒の水を呷った。後残り少ないので、温存せねば。
逃走を諦めてしばらく、物体に突然変化が起こった。
まず中央の濁りが酷くなり、更に周囲の大気から奪う力が強まった。一応空気の層で出来たバリアと思しきものでブロックしており平然としていられるが、こちらの力も色々奪おうとして来るのは明らかだった。
しかもこちらの存在を確実に気付かれている。
やがて、酷い色をしたその球体は球体ではなくなった。
光の筋が縦に伸びていき、それを追うように球体が伸びる。禍々しい光が渦巻き、その形が徐々に人型を成す。影、手足、頭……この間にも逃げようと思うが、どうにも足が震えて動かない。
そうして光が晴れると、姿が顕になった。
金色の禍々しく捻れた角2本。メタルブラックの髪。蒼白通り越して土気色の肌色。人形じみた端正な目鼻立ち。
全てマネキンだったら良かったのに。
しかし、それが生きていることを表すかのごとく目がパチリと開く。そして向けられる鋭い眼光。太めの眉毛や眼帯と相まって、とても堅気とは思えない雰囲気を醸し出していた。
これでド派手なスーツと般若の刺青でもしていたら裏街のヤの付く職業だと言われても納得するだろう。実際には中世ヨーロッパ貴族風の服装。そのことへ少しだけ安堵した。
一方で、全身へ纏う色彩が黒、茶、紫であることへ警戒する。シンプルで目立たない、そのことがひどく不安をかきたてる。地味だからこそ背後から迫れる、暗殺。
もしやと思い、もう一度見る。
雰囲気は正しくRPGとかで見かける『裏ボス』であった。間違ってもこんな序盤で出会うべきではない類の生物だ。
「ふむ、復活出来た様で重畳。」
身体を見回すなり渋めの低い声で人の言葉を喋った人型魔物、ではなくもっと質の悪い奴。
これはいよいよ人生詰んだか。まだ何とか逃げるチャンスは、いや、これは難しそうだ。
「気付いておるぞ、逃げられるとでも思っておるのか?」
ニヤリと薄気味悪い表情を浮かべ、目の前に君臨する裏ボス(仮)
これはもう、あの言葉を言うしかあるまい。
「魔王からは逃げられない……」
達観した目でそう呟く。すると、裏ボスは一瞬目を見張るように私を見た。そして、嬉しそうに表情を崩すと大声を出して笑った。
笑い声にビリビリと空気が揺れた。だが、そんなことお構いなしに笑い続けた。
そうしてひとしきり笑うと、懐かしそうに目を細めた。
「如何にも、余こそが第45代魔王『追撃師』の2つ名を持つ者。」
やはり、か。
「そうかそうか、憶えてくれていた存在がまだ居ったのか。」
思い出すのは親父の親友と思しきマッドな幽霊の話。中でも特に歴史に詳しい奴の言っていたこと。
確か45人目の魔王が敵から『振り向けば奴が居る』『ストーカー魔王』と怖れられていた話しだったか。
一応有名人であるものの、地味な攻撃が多かったせいでマイナー扱いされていた不憫な魔王でもあった。
なんでそんなドマイナー魔王知っているかといえば、詰め込んだからである。
当時2歳児だった私は覚えないと死霊の谷へ突き飛ばすと脅されて、頑張ったのである。未だトラウマになっている。
後日、死霊の谷へ修行は冗談だったと謝られた。地団駄を踏んだら親父に爆笑されたので、こっそり親父秘蔵のワインをくすねてやった(閑話休題)
よく考えなくてもこの魔王、復活したら不味いのでは。主に(遭遇すらしていないが)人類的に。
青ざめていると、魔王はご機嫌なまま偉そうに言った。
「さて、では改めてニンゲン。まだ余の復活は不完全なので……」
ここでいきなり強い殺気。魔王の顔もシリアス。
非常に嫌な予感しかしない。
「余の復活のため、余の糧と「だが断る、先手必勝『テイム』!!」?!」
予感的中。
何となく用意しておいたほぼレベル上限スキル『テイム』を咄嗟に使用した。管理人が保証する効力を有する能力、自分の今世の命を賭けるには十分だろう。
瞬時に発動したことがわかった。
辺りにテイム中の温かな光が漏れる。正常な反応、順調でなにより。だが、使う力は以前契約した強力な魔物の亡霊と契約した時以上。あの日より断然禍々しく、流石は魔王だと思った。
そうして保有魔力を1/5消費した頃、兆しが見えてくる。
徐々にだが私の魔力の受け入れを抵抗する力が弱々しくなり、光量が減少して行く。魔力もそれ程消費しなくなって来た。相手から出ていた謎の威圧は薄れ、禍々しさは殆ど感じられない。
もう直ぐ終わると直感が告げる。
目に見える程の魔力で出来たパスの様なものが自分から伸びて行く。この感覚は既に何度か経験しているが、中々馴れないものだ。その先端部分が相手の魔力波長へ同調させる。しんどい作業だが、まだまともに戦うより勝機がある。
そうして馴染んだ所でパシュッと相手へぶっ刺す様に繋げた。コンセントみたいに。
テイムはこれで終わりでは無い。そこらの魔術式と一味違うのがテイム系魔術式。
「『汝、吾に従う魔ノ者となり吾が配下として以後も精進せよ』それから『制約に従い、汝は吾への殺生を禁ずる』、『制約に従い、汝は吾の求めに応じよ』」
ここでやっと一安心。だがそれだけでは面白く無いのでもう1つ条件を入れておく。
「『汝、制約に従い吾を最高へと鍛えよ。共に鍛錬へ励み、吾の望みし高見へ登らん。』」
最後の言霊を告げると、光が収束して魔王を象った。
現れたのはド派手なスーツの男。思わず固まる。
眼帯は健在のまま般若の刺繍と思しきものを腹に描き、腰には匕首が刺さっているヘビ皮スーツの魔王。顔を見ると狂気じみた目。瞳孔が開き切っている。
「……よぉもやってくれたな、小僧」
ぴぃ。
眼帯をしていない方の目で恨みがましい目つきで睨まれる。恫喝中のヤンキーのごとく。だが、今何より恐ろしいのは世界の意思。別世界で権利が保障される文化は原則異世界に持ち込むことは厳禁なのである。
ちゃんと守らねばプチッとされるとは、親父の談。その上タチが悪いことに、どこまで許容されるか分かったものでは無いのである。すべては世界の意思次第。
だからテイム魔術式の『魔法の言葉』を述べた。
「……取り敢えず『チェンジで』」
何だか最近オッサンホイホイのタグを付けるか迷っております。それでは次回もどうぞ宜しく御願い致します。
訂正)光り→光 遅くなり申し訳ないです。




