18 戻り、移り変わる日常
読者の皆様投稿遅れて申し訳ないです。それでは今週の不憫をどぞ!(※行間は後日直します)
魔王が魔王城(元自宅)を半壊させ、魔王の弟子が魔王王弟を拉致するという文字面だけ見れば混沌な所業から数日……
「情けない、それでもお前は〇〇なのかァ!!」
ズヒュン「…ヒィ」「……」
「…情けない、実に情けない。そんな貴様等に朗報だ…後で腕立て1000回追加だ!!」
相も変わらず扱かれる修行日和だった。
魔王は相変わらず横暴魔王全開で、お気に入りの木刀をビュンビュン元気に振り回していた。ブンブンではなくビュンビュンであることがポイント。風圧でさっき埋めたばかりの地面が割れ、ピシッキシッと亀裂の入る不穏な音が聞こえてきた。
地面が壊れる前に退避、退避ベキベキ「ギャヒィィイイ……」あらら、魔王王弟改め弟弟子は間に合わなかったか。
そうだった。誰に言うわけでもないが、前の修行とは変わった点が一つある。それは、魔王被害者の会会員が一人追加された事。たった今穴に落ちて拾いあげたばかりの号泣している弟弟子、ギル君のことである(巻き込んだともいう)。
グズン「なでたずけでぐれだがった(なぜ助けてくれなかった?)」
恨みがましくこちらを見上げるギルは、鼻垂れ状態になっていたのでとりあえずチーンとさせつつなだめた。
すっかりあの時の怪我は良くなったのにまた一段とボロボロになったな。地面の割れ目に落ちたためか、体は泥まみれで、岩盤に当たったのか角とか歯とか折れてまたもや悲惨な事になっている。
魔王の気合が入りすぎると毎回ああなるから、要注意なのである。こればかりは慣れとしか言いようがない。
私自身は既に馴れた。幼少期からあの鬼畜外道共の訓練を受けているせいなのかやばい状態は察せられるし、既に耐性などを見れば一部カンスト状態になっていることだろう。怖くてみるのやめたが。
きっとこれは喜ぶべきことなのだろうけど、それ以上にその過程で色々失って悲しい気持ちだ。
遠い目をしながらも、油断なく背後から飛来して来る両手斧を回避。次々飛んできたそれらは遥か彼方まで猛スピードで消えていった。直後、チュドーン、ジュゥゥウゥ……などの何かが溶けるような不穏な音が聞こえた。それをなるべく無視しつつ、魔王の木刀直撃を避けた。
そう、余計なことは模擬戦中考えてはいけない。あの両手斧500kgオーバーなのに音速越えて次々飛来しているとか、親父の新作『爆発する毒物α(溶解ver.)』が塗ってあるとか、突っ込んだら負けなのである。
そうして私が躱している横で、つい先ほどギル君が半ベソかきながら斧の持ち手に炸裂されてお星様になった。涙目で、唖然とした顔で声の無い悲鳴を上げながら遠ざかるギル君。知っているか? 人間って本気で怖い時って悲鳴は出ないんだ(実体験)
それにしてもギルはまだ運が良い。当たった場所が持ち手で本当に良かった。刃の部分だったらスプラッタ直後昇天する間もなく親父がスカウトしに来ていることだろう。
その間にも魔王の攻撃を捌きつつ、ギルの行方を追う。どうやらギル飛来に親父の部下が気付いたらしい。慌ててその方向へ飛んで行くのが目に入った。きっとあの部下、この後親父直属の元騎士団長から特別訓練受けることになるだろう。骨は拾ってやるから存分に扱かれるがいい。
こちらも明日は我が身。同情とか心配とかしている余裕が無い。あんな風にどこぞへ飛ばされたくも扱き追加にされたくも無いったら無い。器用にとはいかんが、何事も泥臭く逃げるしか無いのである。他人に押し付けて(下衆)
「やはりライの時の方が骨があったな。ありゃだめだ、基礎からやり直し。鍛錬メニューに地獄ブートキャンプ追加だな。」
やれやれと肩をすくめる魔王へ、思わずいやいやいやと突っ込みたくなった。木刀連打を躱し往なしつつ、何年下に対して大人気ないのではといい年した大人へ白い目を向けた。
一応私は精神年齢高校生以上なので、雑な扱い受けてもそれ程ダメージ無い。だが相手はまだまだ子供なのである。3歳児である。その頃って大概母親にべったりで一から十まで面倒見て甘やかしてもらうことが多いだろう。なのにこんな、大人でさえきっつい虐待同然のこんな訓練に参加させるなど。
こんなこと法治国家日本でやらかせば、まちがいなく児童相談所待った無しである。とはいえ、ここは異世界で人外マ境だが。
(参加する様然りげ無く誘導した事はこの際スルーするとして)魔王なんて酷い人なのだろうか(元凶)、鬼畜外道魔王。人外(お前が言う)な最強め。
攻防を繰り広げつつ、弱い者苛めをするえげつない大人を咎める様な、名付けて『ゴミ屑ビーム』を太陽光線の如く送り続ける。届け、この思い。すると、こうかはばつぐんだった模様。
次第に魔王はバツが悪いような表情を浮かべ、攻撃する手が徐々にだが弱まった。何やら思う所があったのか顔が引き攣り頰がピクピクしていた。よしよし。
これぞ『呆れた子供の目』攻撃。やられた相手は地味にライフと社会的地位をガリガリ削られる。効果は覿面だった。
そして、到頭耐えられなくなったのか手を休める魔王。弁明する様に喋り出した。
「勘違いしている様子だから言うが、ヤツやお前より年上だぞ」
・・・・・・・・
はて、聞き間違いだろうか?
確か魔族・魔人族って嘘をつけないはずなのに。しかも自分の保身の為に真っ黒な嘘吐くなんてことはない。魔王は脳筋で傍若無人だが、それだけはできないはずなのに。
もしや、人外すぎて到頭魔族・魔人族ですらなくなってしまったんだろうか。
胡散臭いものを見る目を向けると、魔王はため息をつく。こめかみがピクついているのが若干怖い。
「無い考えているか想像できるが、それは違うとだけ伝えておこう。とりあえずもう一度言うが、あいつはあんな形だがお主よりもだいぶ年上だ「いやだから、嘘だろ?」」
やれやれと肩をすくめる魔王。
「やはり知らなかったか、不勉強がすぎるぞ。」
これではいかんな。
そう呟いた魔王は攻撃訓練を中止し、急遽座学の時間とすることになった。曰く、私が余りにも色々常識に欠いているらしき事を思い出したとか。
というか、魔王に常識問われてしまったどうしよう(がーん)
いや、この場合は魔王が単に失礼なだけか。
そうだ、いくら(今世)人外マ境育ちの私であっても常識くらい知っている。風呂やトイレ、食事(和)のマナー知らんかったヤツが何言うかと抗議をする。だが逆に怪訝な顔をされた。地味にショックだ。
そうして魔王の気まぐれ講義が始まった。
尚、魔王の座学は実学絡んでいる為か参考になるし面白い。それにさっきの訓練で結構消耗しているのでこう、束の間の休憩が入るのは本気で有り難い。この後峠上の腕立て1000の追加が有るので特に。
魔王は偶にこうして気紛れを起こす。今回は座学だったので良かったものの、酷い場合だと思いつきで深淵に突き落とされるか浮遊魔術括り付けて暴風漂う空へ飛ばされる。数週間掛けて帰宅出来た後、暫く魔王だけ3食乾パン(現地冒険者仕様)になった事は言うまでも無い。
(閑話休題)
「さて、魔族及び魔人族の年齢についてだが……」
長い話を要約するとだ、魔族・魔人族は見た目年齢が色々詐欺だと言う事が分かった。特に魔族と呼ばれる連中は強さや性質に優劣が有り過ぎて寿命がいつ来るか分からない謎種族で有ると言う事がよく分かった。謎が謎を呼ぶ謎種族とは魔族全般を指すのだろう。迷宮入りしそうな魔族の謎生態へ、若干遠い目になる。
魔人族はあれだ。良く有る一部の長寿テンプレ。
長耳族も同じらしいが、正規√の成長ならテンプレ通り遅いらしい。例えば一部の短命(魔人基準)な部族で言えば、普人族の10年が相手の1年に相当する等。そして成人を迎えても年を取らず、年取る時は死ぬ間際だそうだ。
例外は、成長が一気に進む場合。
これは普人族でも偶に起こる現象なのだが、魔物を大量に倒したり修行をしたり。そして、同族を大量虐殺する事等をした後急激に成長する事が有るそうだ。そうなると、同時に中々年も取らないらしい。
これって恐らく私が認識している『レベル』が急成長した結果器が成長するとかそう言う話しなのだろ。そんな風に思うが、実情は分からん。そんな特徴を持つ連中は人外。それこそ英雄とか勇者・魔王が該当するとかしないとか。
そして、この話をする魔王もまたよく考えれば大概だ。
衰弱封印からの復活→現役復帰って本当なんなんだろう。聖剣で切られた筈の古傷とかも前風呂で見たら治っていたし。何より姿形が封印されて長い筈なのに一切伝承と変わっていない。もう封印したらしい勇者的なサムシングは絶望していいと思う。
話しを戻すが、結局先程紹介した人外型でその大半が成長する種族こそ魔人族であるらしい。
チートだ、種族チート等と一瞬思うがそれも違う。なぜなら、それって裏を返せばつまり、いつ、どのタイミングで成長するか分からないと言う事だからである。そればかりか成長する前に死ぬ個体が大半だとのことだ。
魔人族は姿形や精神年齢が平和な環境に置かれる程成長が乏しくなる特徴が有る。
成長の切っ掛けは大概『精神年齢』の急激な成長によるものらしいので、恐らくは中身の成長に伴い器が成長するのだろうと思う。故に、長耳同様放置すれば一応いつかは成人になっている。しかし素の精神年齢の成長率が鈍行である魔族。当然途方も無い時間を要する事となる。
これは当然魔族、いや、鬼型魔人であるギルにも相当する訳で……
「なら見た目と年齢が私以下に見えるギルは、」
自分より随分身長や考え方、それ以外諸々幼い子供。どう頑張って見ても3・4歳にしか見えないのにも関わらずだ。
「想像の通りだ。」
魔王(従)によれば、精神年齢が足を引っぱり生まれてから30年既にあの姿のままなのだとか。それは何と言うか、今まできっと余程恵まれていたのだろう。或いは逆に保護され過ぎ系の恵まれない環境に居たか。
今世0歳0日の状態で実親から放置プレーされた私からしたらある意味羨ましい話しだが。ま、まあ今の環境も気楽で好きだが。
ふざけるのは後にして、真剣な顔で(珍しく)真面目に魔王へ向き合う。
「今の所成長の見込みは無いのか?」
血のつながりは無いが、アレでも最近可愛くなって……いや、正直微妙だが弟弟子である。あの廃墟同然の城から拾って来た人間としては、最低限自活出来る程になるまでは面倒を見たい。故に、これは越権行為ではないだろう。その筈だ。
……違うよな? 不安だが無視して魔王へ尋ねた。
「兆しは……まあ、皆無とは言わんが」
そうか。だが、このままだと一生あの姿の可能性も有るというわけだ。それこそ、私が死んだ後もそのままって事も。
ならば、思い切って切っ掛けになるかどうかは正直分からんが、“あの事”言った方が良いか?
そう思った事が顔に出たのか、魔王グルジオラスから止められた。
「まだあの事は言わないでやれ。多分それこそ受け入れられんだろう、餓鬼のままだから仕方が無い。」
確かにそうか。今はまだ受け入れ難いかも知れないな。
特に精神年齢が頑固な程成長の兆しを見せないのなら精神的に子供なままな訳で、世の理不尽、諸行無常は中々受け入れ難いものだろう。
嗚呼、事情が事情だけに難しい。だが、デリケートな事だから部外者は口を閉じておくべきだろうというのは正解か。いつかは告げないといけない事だが今は黙っているか。そして時期が来たら話そう。
◆□◆◇◆□◆◇◆□◆◇◆□◆
〈おいおい、やり過ぎじゃないか!!何がどうしてこうなった?!〉
魔王の投げた斧を中和剤片手に回収して来た親父が言う…確かに周囲はどこぞの怪獣が暴れ回った後に様にクレーターだらけになっている。特にこの辺に生えていた筈の木々は既に瓦礫と化している様は唖然とさせられる。
環境に優しく無くて本当にすいません出直してきます御免なさい。って、私が悪い訳ではなかった。
魔王様へ再びジト目攻撃遂行、こうかはてきめんだ。
やがて耐えられなくなった様子の魔王はウガーと文句を言いたげにしながらも術式展開様の魔力を流し出す…相変わらず繊細な使い方だな。見た目と発現では几帳面なこの性格は判断出来まい。
「こんなものはこうしてしまえばいい…フンッ」
魔王(従)が腕を振るった瞬間銀色の風が辺りへ舞った…よくよく見ると、風の銀砂は1つ1つが細かい紋様になっている。これは古代文字の1つである楔形文字か。情報量が多すぎて今の私では解読不能と言うのが少し悔しい。
そうして銀が広がると同時に、徐々にだが森が息吹を吹き返した様に次々生えて来た。
「吾が弟子を名乗るのならばこの位朝飯前になってくれよ、ライ。」
瞬きを2・3回している間に森は完全復活…違う、それ以上に活性化されて元気になっていた。生い茂った緑の塔は天高くそびえ立ち、空は瞬く間に緑色の屋根に覆われた。外から見たら多分この部分だけ北海道土産…毬藻状態だろう。
こうして訓練開始前の昼間なのに真っ暗な森が戻った。
「……目標は遠いな。」
ぽつりと自然に紡がれた言葉に自分が1番驚くも、納得した部分も有る。
確かに平々凡々で平穏無事な人生を望んでいる。その事には変わりない。但し、“好きな者達”に囲まれた人生であって欲しいと願っている。それは存在その者が正義であり、溺愛するモフモフやツルツルは勿論。
だけど、それ以上に今の周囲へ愛着が有る。
「人は変わる、か。」
魔王が魔王弟を回収する為飛んで往く様子を見ながら、ふと自分の目標が少しだけ変更された事にどこか満たされた温かい気持ちを感じていた。
相対しているのが冷たい手の幽霊や怪というのがまた不思議な気がした。
魔王・魔族・魔人族辺りの説明、もし分かりにくかったら申し訳ないです…要望が有れば後日別で用語説明的なものを投稿します。
次回は日曜日、原稿上がり次第投稿します……具合いが悪かった反動で今リアルが多忙です。また具合い悪くならない様少しセーブするつもりだったのに無理そうです(涙
それで次回もどうぞ宜しく御願い致します。