0 不憫死を遂げた者の処遇とは(19/2/2改稿)
読者の皆様どうもこんばんは。初めての方々、初めまして。
ビュオオオオオオオオォォォォ……
嗚呼、強く吹き付ける風が折角整えた髪を乱してく。折角旅先なのでかっこつけたのだが。
今となっては物凄くどうでもいいことだが、それでも恐怖心を少しでもマシにするために思いついたことはその程度。目を開けば見えるだろう、着実に迫り来る地面。想像しないようあれこれ考えても、あるいは目を瞑っても全て無駄なようだ。
覚悟を決めて目を開いたのは地面にぶつかる3秒前。走馬灯が流れ、生命危機を脱しようと全身が構えるも、全てが徒労で終……
ああやっぱり死んじゃったか…
白なのか黒なのか判別が付かないもやもやとした空間。それが今私の彷徨っている所……私が私自身である証明は一切無いけれど、今ここに居る私という存在が死んだ後行き着いたのはここか。
まず考えた事はそれだった。
原因は分かっている。ドジッ子な友人の落としたバナナを踏み潰して転んだ結果あの崖から自由落下してスプラッタしたのだろう。今頃泣いているか焦っているか、顔が浮かぶ。
けど今となっては正直どうでもいい。
死んでしまったものは仕方が無い、何となく死に方に釈然としないが。
そんな風に暇つぶし自己分析をしていたら、突如として横からにゅっと何かが触れた。いや、正確にはビタンとかベチンといった具合か。痛みはないものの、衝撃自体は触れるというよりビンタに近い感覚だった。
唖然としていると透明なそれはあっという間に私を捕まえ、引き摺った。
あーれー(棒読み)
ところで私はどうなっているのだろうか。痛みこそないが衝撃がある状態で、なんだか消えそうな不安定感がある。そんな状態でどこへ向かっているのか。不安な感覚が割と強めに押し寄せてくる。
今更だが、死後は天国地獄では無かった説濃厚。人生引退後も定年後同様安泰でいられないとは、なんとも世知辛い世の中だ。これぞ世も末なんて。
無駄な事を考えているといつの間にか顔の感覚が戻った。
驚いたことに目線を下げると手足も有る。爪先から指先第一関節までちゃんと動かせるのはやはりいい。生きている感が半端ないと言えばいいのか。いつの間にか『今にも消え入りそうなソワソワ感』も無くなっていた。
これは復活したと考えていいのか……なぜこのタイミングで復活したのか。安心すると、次々疑問と不安が浮かんできた。
「復活はしていませんよ。と言うか、先程から随分冷静ですね。」
生前よく言われた、全然表情変えないねと。
でもその実ただのビビリな小心者である。実際、今も内心ビクビクし過ぎて声が出ていないだけである。
むしろビビらない人はいないと思う。さっきまで身体が文字通り無い状態だったのだから。
あの中身だけひん剥かれた剥き出しの変な感触。露出した自分の全感情が今にも溢れ、混じり合いそうな気色の悪さ。より具体的に表現するなら、水に絵の具を落とした場合か、ボールへ卵を割り入れた様子か。
「それは申し訳ないことをしましたね。」
そう本当に申し訳なさそうに話す声。
ところでさっきから話しかけてきているのは誰? 何者?
「私は『管理者』と呼ばれるものです。」
管理者……病院とかだと院長だし、会社だと社長とか呼ばれている立場の人か。ならばここはどこぞの秘密結社とかカルト教とかそういう怪しい感じの場所か。さっきの変な感覚といい、変な生贄系儀式にでも巻き込まれたのか。
まさか、またもや幼馴染のトラブルに巻き込まれたパターンだろうか。
「違います。全然、全く、的外れですね。」
心外ですと言わんばかりに不機嫌な声が答えた。そんな野蛮で無知な村存在ではないと声は続けた。
「そうですね、分かり易く言えば貴方達の信じる神と似た様な事の出来るセカイのシステムですかね。」
神、ね。
「ただ、我々は神と違って信仰度合いで権限が持てると言った制約無しにセカイの舵取りをする権限が与えられています。だから一緒にされるのは心外です。」
でも分かり易い例えでしょう? などと不機嫌そうな声は語った。
把握、確かにわかりやすかった。つまり『管理者>神』で色々できるってところか。
「身も蓋もない話しですがその通りです。」
じゃ、その管理者へ質問だが、一般庶民の私に一体何用か。まさか、死んで搾りかすみたいになった私という個人を消滅させる為とか今更言うのだろうか。今の自分の状態自体わかっておらず、とても不安なんだが。
「消滅なんて勿体無い事しませんよ。そもそも君があの場であんな死に方することが想定外でしたから。」
……え、それは一体?
「だから、君はあの日あの時死ぬ事にはなっていなかったのでした、が、しかし……」
うっそだろ、オイ……………(がびーん)
「あんな場所にバナナが落ちる事も、それを踏む事も本来なら予定に無かった出来事でした。本当、なぜこうしたバグが発生するのやら。つくづくセカイとは予測不能な存在で舵取り毎度苦労します。」
あ…何と言うか、すいません?
「いえいえ、貴方自身が悪い訳ではないので何とも言えません。」
むしろ被害者ですね。そう声が優しく答えた。
「悪いのは全てコ・イ・ツ」
鋭い声でそう続けると、何かを引きずる音がした。
同時に、潰れた様な奇声と空からつまみ出された黒い楕円体。よく見れば目鼻口、ついでに針金みたいな手足付きの模様。
「こいつは君の居た第341地球を管理していたはずの管理者33224142の―――号。居眠りして〇〇を君達で言う所の観測器? に零して壊した。その結果として、長年異常を取除く事無く君があの場でバグの犠牲になりました。同僚が誠に申し訳ないです。」
疲れた声で答える管理者。
その間にもグエッと更に絞められた声が黒いのから聞こえた。発光した白い手に潰されるつや消し色の黒は、なんだか握り心地良さそう。ゴムボール的な意味で。
管理者の話で幾つか聞こえない用語については恐らく彼らが私より上位であるため聞き取れないのだろう。あるいは単に聞き取る程度の権限が必要か。
それにしてもこの管理者、日頃から尻拭いさせられる不憫キャラなのかもしれない。疲れたため息に、私も思わずため息をこぼした。一体この後どうなるのだろうと。
さて、黒いよく分からん生物はいつの間にか復活して此方をじっと見て来ていた。
だから私も観察返し。
ぎょろりとした目玉と黒より黒い三日月型の口。ついでに何故か黒っ鼻、ピエロの鼻を墨にドボンした状態といえばわかりやすいだろうか。そんなのが楕円形の先頭に着いており、その身体を支える細い針金4本。
黒いやつの口はますます笑みを深め、笑っていない目で私を眺めた。
正直直視は辛い。某見るだけで正気を失せる神話生物を前にしているみたいに色々削られている気がする。怖い。だが、目が離せないのでせめてもの抵抗として睨みつける。
一瞬、緊張感で空気が固まる。
その空気を最悪な形で破ったのは黒いやつだった。
「それにしてもあんなので死んだのかコイツ……ダッセw」
プギャーと指差し爆笑する黒。死亡者本人を前にワイヤーの手足を振りながら笑い転げ回る黒。
あんまりにあんまりな対応へ別の意味で固まった。
一瞬で更に明るくなる空間、とても嫌な予感がする。黒も何か感じ取ったのか逃げようと別の意味で転がりだした……やっぱりあの手足は写真立て的な役割だったか。
余計なこと考えていたら横からぬっと白い触手が伸び、速攻で捉えられた黒いやつ。
痛がる黒、恐らくあれってアイアンクロー……そしていい笑顔?を浮かべていそうなオーラを浮かべる管理者。キラキラ通り越してギラギラ輝き今にも大爆発起こしそうな管理者。
さっきの笑顔から一転、とても悲しそうな顔でこちらを見る黒。
私は心から軽蔑したゴミを見る様な視線を黒へと送った。
「え? 俺の味方無しなの?! って、イテテテテテ…」
この場に及んでそんな事をほざくクソゴムボール。
「フフフ……一度逝ってみようか?」
日頃の恨み辛みの乗った(推定)握力。メリメリという音こそ鳴っていないが、心なしか中央から萎みはじめた黒。それが徐々に進むたびにグエッと苦しげに声をあげてジタバタしていた。
黒が焦っているのは、ほぼ初対面な私にさえ明白だった。
「!? ちょ、やめ…ッ!! 痛い、痛い!?!! って、潰れる!!! 凹んでるから!! やばっ……オゲッ、出る、出ちゃう、出ちゃうからマジで止めて!!?! 俺が悪かったからもうやめてくれぇぇぇエエエ!!!?!?!!」
尚、焦っていても声を出す程度の余裕はある模様。
上目遣い管理者へ嘆願する黒。その気色悪い眼差しに気づいた様子の管理者。だが管理者の手は止まらない。むしろよりギリギリと締めていく様子。よほど日頃の鬱憤とか恨みとか色々たまっていたか。
管理者の触手攻撃は止まるところをしらず、黒はもう涙目だった。そのうちゴム風船みたいにパーンするのだろうか。
そんなくだらない事を考えていたら、黒が咄嗟に声を絞り出す。
「給料と有休返上して転生させるから許しッ!? オゲぇぇぇエエエ!?!! ゲボ、ゴホ!!!」
同時に解放された黒。いきなりだったためか、変な呼吸した後噎せて咳き込んでいる様子。
それより気になったことは『テンセイ』という言葉。
それって一体何だろうか。
展性とか天声とかのことか。もしくは点睛か。そうなると私は絵の一部か。個人的には鳥獣戯画の一部になりたい気がする。獣率高くてコミカルだからけっこう好き。あれって政治的な背景知っていると特に楽しめるらしい。
だいぶ脱線したが尋ねようと見上げると、黒と管理者はジト目を向けてきていた。解せぬ。
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「本当に、本当に同僚が迷惑掛けて申し訳有りませんでした……次の人生はしっかりした管理者のセカイへと送りますのでご容赦を。」
「いえいえ、此方こそお世話になりました。」
あの後の事を少し語る。
結局管理者は黒を絞って更に減給してもらい、その分私を優遇させる事にした。というのも、私がごねれば黒は消滅の危機だったらしい。
存在を1人殺した場合、バタフライエフェクトが凄いそうだ。
そして、地球が滅べば黒は存在を抹消。そのしわ寄せで銀河系いくつかの寿命が極端に縮むとのこと。
今回は何とかそれを逃れる事が出来たものの、結構不味い状況であったらしい。仮に私が殺した事へ怒っていた場合、私の怒りが世界へ掛かるストレスに上乗せされて、別の世界で新たなバグが生じていたとか。
全く意味は通じなかったが、被害が大きいことだけは理解した。
それでも私の感情次第で世界へ影響が出るということにはなんとなく納得いかなかった。
今現在私は殺された事に関してはちゃんと不本意では有る。
ただ、それを起こしたのが友人だったこと。幾らバグで生じたイレギュラーだったのだとしても、ちゃんと友達だった。確かにやる事成す事阿呆でうざいのに、妙に人気で不気味なところは思い返せばあったし、私もその被害に遭った。けれど、奴自身に悪気はなくて、むしろお人好しでこちらが困るくらい性格は良かったのだ。
だから、奴の情けない顔を思い出して仕様がないと思っただけである。それと黒の所業は別問題。ちゃんと私だって不平不満はあるし、まだ生きたかった、何で私だったのか等思う所だらけだ。
結局、生き返らないと言われたからあっさり諦めただけの話しで。
さて、ここで一つ朗報。
今回の件があんまりだった事もあって、テンプレ宜しく優遇された状態で転生する事になった。黒さんの給料的なもの消費で。
いや、給料だと語弊があるか。
正式名称はわからないが、どうやらセカイを拡張するリソース的なものを私個人へ割いてくれるらしい。それ自体は、管理者が働いた分だけ世界から貰える(あるいは還元してもらえる)ものらしい。
そんなすごいものを使えば、かなり優遇された状態で転生できそうだろう?
そして何と、私自身の容量が多目に設定されていたのでその分付けられる特典が多いとのこと。
黒曰く、個人の持つ容量とはその人物の人生に関わるものとのこと。私の人生が査定された結果、上の下程度の影響をセカイへと与えリソースを増やしていた事、バグのフォローをしていた事を評価されたらしい。色々苦労した甲斐はあったのだろう。
だから私は生前叶えられなかったある野望を叶える事にした。
私の野望、それ即ち魔獣ふれあい牧場の設立。
生前は動物が大好きであり、俗に『モフラー』等と呼ばれる人種だった私。VRゲーム等でも絶対従魔を使役してモフモフツルツルしながら一緒に戦うタイプだった私……まあ言うまでも無かろう。
地球では大型の獣等都会の狭い自宅では飼えなかった。
なら責めて、次の人生では是非大型のソレを飼育できるようにしてくれ!次いでにどんな危険な奴ともじゃれたり訓練したりして遊んでもいい様なスペックを下さい。
そんな風にお願いした結果、何か色々良くしてくれました。
そして、そして。
最終的にこんな感じのステータスに落ち着いた。
(名前・性別・年齢を記入)
(レベル表示)
主職業 テイマー
副職業 魔術師予備軍 剣士候補 錬金術師候補 吟遊詩人候補 調合師候補 主夫予備軍
HP 100
MP 56,100
STR 100
VIT 100
INT 100
MND 100
DEX 100
AGI 100
LUK 50,000
騎獣:―(0)
従魔:―(0)
称号:【餌付け人】【被害者】【天然疑惑】
■魔術・魔法
【水Lv.1】【金Lv.1】【風Lv.1】【火Lv.1】【木Lv.1】【土Lv.1】【空Lv.1】【光Lv.1】【闇Lv.1】【従魔Lv.8】
■武術
【刀剣Lv.3】【大剣Lv.1】【短剣Lv.1】【体術Lv.3】【柔術Lv.4】【合気Lv.3】
■生産
【調合Lv.1】【調理Lv.5】【錬金Lv.1】【楽器Lv.5】【歌Lv.3】【詩Lv.2】
■収集
【食材眼Lv.1】
■鑑定・隠蔽
【植物鑑定Lv.1】【鉱物鑑定Lv.5】
【魔獣鑑定Lv.1】【気配察知Lv.3】
【隠蔽Lv.2】
■強化
【知力Lv.5】【運Lv.5】
■その他
【MP自動回復Lv.1】【地形Lv.2】【危険察知Lv.10】【ステータス】
職業はテイマーのみほぼ完成型にしてもらった。
正直地球の日本で平々凡々、とは言い難いかも知れないが少なくとも平和だった所出身の私。余程の事がないと敵対者を殺せないだろうし、もう少し精神的に落ち着いて訓練積んだら強くなるようにしてもらった。
それ以外にも自力である程度頑張りたいって希望が有った。そしてその分余剰が出たので、別の方面で優遇してもらったので良いかと。
称号については割愛させて頂く。異論は認めない。
さて。これでこの空間ともお別れか。特に感慨深くも無いな。
「……最後まで動じる事なく冷静でしたね。まあいいでしょう。」
では御送りしましょうかね。そう言うと、管理者は私の足下に穴を開けた。
「ではいってらっしゃい、元『春日井亮貴』……新たな人生を。」
ああそうだった。私は春日井亮貴、今年で18になったばかりの高校生。修学旅行中に友人の落としたバナナで死んだ男、などと言われると少し情けないが。
穴をゆっくり落ちながら、私は自分の人生を少し振り返った。
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「あ、しまった……」
「…一体どうしたのですか?」
「あの称号除くの忘れてた……ヤッベ〜、マジどうしよう…」
「まさか…」
「うん、このままだと彼色々巻き込まれて平穏じゃなくなるね…まあその方が面白いけどさ★って、痛ってェ!!?」
「そんな問題ではないでしょう!?!!仕様がない……代わりに別の称号を与えておきますよ…全く、減俸ですからね。」
「…ウェ〜…マジかよ……いや、ホント、反省はしているんです!!だから握らないで!!!?!?」
お読み頂き感謝です。
さて次回は次の週……と言いいたい所ですが、明日第一話を入れたいと思っております。それではどうぞ宜しく御願い致します。