170 騒ぎの前の騒ぎ
読者の皆様、投稿が遅れてすいません。そして、前回サブタイに始まった数々の誤字脱字、なるべく近日中に直します。読みづらくて申し訳ないです。
それでは今週の不憫をどぞ!
翌日、出来上がった保存食数点をリーダーに渡し、一旦新築の村を後にすることにした。1日しか経っていないが、多分リーダーの部下や保護した人たちが心配しているだろう。
その上で、義姉を預かってもらっている以上それなりのリスクもある。あれほど強力な魔眼を持っているのだ。とはいえ、ここまで動きがないのと今まで受けた扱いから、教会側が間抜けにも気付いていない可能性が浮上しつつあるが。
「この村だったら丁度いいか。」
義姉を匿う場所として。
この地の呪いはほぼ中和したが、その周辺までカバーできなかった。そうなると、魔族・魔人族の恨みを買っている教会側の人間が無事にたどり着く可能性は当然低い。
そして奴隷商人ならば問答無用で土地に排除されることだろう。
「確かにそうだろうが、そこまで考えてここ立て直したわけではないだろう?」
魔王からの厳しい評価。いや、その通りではあるが。
「こう言ってはなんだが、我が弟子ならばいい加減計画性を持って行動しろ。」
ジャム爺さんの時間稼ぎや魔王による旧時代の遺産爆破や強制白夜攻撃等の貯蓄があっても、確かに時間は惜しかった。特に、兄貴の居場所がふわっとしかわからない以上、もっと危機感を持つべきなのだろう。
本当その通り過ぎて返す言葉がない。ただ、魔王にだけは言われたくない。魔王だってよく修行を思いつきで行うのだから。こっちは何度『そうだ』の一言から甚大な被害を受けたか。
思い出して顔を歪ませていると、魔王にため息を吐かれた。
「吾が行動は確かに一見意味がないように見せているが、全てちゃんと意味があってやっている。」
それがわからんではまだまだだな。
うんうんと頷く魔王。だが、背後の親父の表情から適当言っているのが丸わかりだった。そしてそんな親父もまた同類であることを忘れているという。
ただ、ここでこの話題を掘り返すと碌なことにならないのが見えているので、黙ってさっさと行くことにした。
魔王による風速強行ジェット機に乗って。
いや、私や親父以外の乗客がいなければ余計に気を使わない魔王の特性を思い出さなかった私が悪いとはいえるが。それでもこれはない。
「「ぎゃぁあああああああ」」
断末魔の叫び声をあげながら、遮るもののない空の旅を堪能するのだった。途中振り落とされそうになって少しちびったのは、内緒である。
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ところ変わってラインハルト達がいなかった元盗賊団のアジトでの出来事。
ラインハルトが義姉と呼んでいる少女アンネローゼ・ツェツィーリア・フォン・グリューネウェラーは、顔を俯かせていた。ラインハルト達が去ってからずっとなので、周囲の大人は心配そうにしていた。
この様子に最初こそ奴隷商に商品にされかけた人々は気にかけていたが、今は放置していた。どう接していいかわからなかったのと、精神的な余裕があまりなかったからであった。
大方自分達同様、奴隷にされかけたことへのショックと親しい様子の救世主兼庇護者から離されたから不安なのだろう。そう判断して彼女の気が済むまで放置することにした。
そして俯いている少女アンネローゼといえば、別に落ち込んでいるわけでも泣いているわけでもなかった。ただ、そこで何もしていないというわけではなかったが。
「!? いた、そこね。」
強いて言うなら魔眼で自分の好きな相手の姿を探していたといえばいいのか。彼がどこにいるのか、どんな状態なのか。
最後にゲス商人から聞いた話だと、自分を救うために奴隷落ちしたとのことだったが。果たして今も無事な姿なのか。それとももうこの世に存在しないか。
彼女自身の経験から、この世界が孤児や奴隷等後ろ盾も身分もないような存在に厳しいことを知っている。命なんて簡単に散る。それこそシャボン玉みたいに。
少し自分より上の人が風を吹けばプチッと潰れる。
彼女は商人に売られて以来、そんな様をずっと見てきた。自分が嬲り殺されないことを不思議に思いながら。
「よし、今助ける。」
そして前回も前々回も何らかの力が働いてこうして無事でおるという事実。その上今回彼女の眼球に特別な力が眠っていたことが判明した。現在もそれは正常に機能していた。
それだけで彼女は変に自信がついており、また若さからか大変無謀だった。
「行こう、急がなきゃ。」
魔眼で見た先の映像が頭を過る。
自分をかつて慕っていた妹分の変わり果てた姿と、それを光をささない眼で見つめる少年。
妹分の姿は衝撃的だった。
手足がなく、全身切り傷や青あざ、火傷だらけ。しかも肋骨でも折れているのか呼吸が苦しそうである。極め付けに、正気を失っているのか眼が完全に空になっていた。
商人の話によれば、彼女は裏社会の娼館に売られたとのことだった。そこでの生活は悲壮だと聞いていたが、まさかここまで酷いとは。
あの時、彼女を逃すことができれば。
そして、彼女にとって最愛の彼の姿もまた、悲壮としか言いようがなかった。
色白だが健康的だった肌はミミズ腫れや破れかけの痕が目立ち、いたるところに切り傷が見て取れた。爪は剥がされたのかなくなっており、手足も変な方向に曲がっていた。
それにしても顔が心なしか赤い。
よく見れば、傷口が少し膿んでいる。息も上がっており、変な汗をかいているところから。もしかしたら熱でもあるのかもしれない。
不衛生な縄で縛られ、裸のまま檻に入れられていれば確かにそうなるかもしれない。もう見ていられないほど苦しそうな表情をしている。
だから、今すぐ会いに行きます。
彼女は顔を上げ、周囲を見回した。よし誰もいない。
ライと名乗る少年から緊急用と置いておかれた魔力ポーション。今手元にあるのは2瓶。その1つの封を開けてを煽る。酷い味と臭に一瞬吹きそうになるも、何とか我慢して飲み込んだ。
すると、先ほどまであった酷い倦怠感があっという間に消えた。
少女は音を立てないように1つ置いた。残りの1瓶は持って行く。非常に飲みたくないが、そうも言っていられない。
見たいものを見る程度の能力で、彼女はアジトの抜け穴と現住民の動きを見る。構造を見ようとするだけでも頭が割れそうに痛いが、住民の位置を追加した途端さらなる激痛が走った。
だが彼女はそれを耐える。こんなものは、彼や妹分の味っている苦痛なんぞと比べて小さい。今は彼らを助けることが最優先。
音を立てないよう、ソロリとキッチンへ向かった。そこに子供程度が通れる煙突があったはず。封鎖されていなければ通れる。
そして彼女は賭けに勝った。
こうして誰にも気取られることなく、アジトを後にした少女。このことに皆が気づいたのは、彼女が大分森深くへと進み消息がつかめなくなった頃だった。
少女は魔眼に従って進む。彼女の望む彼がいるところへと。ただし、魔力が続く限り。
魔力ポーションは強力だが、後1瓶。さて、彼女は無事その場までいけるか。
若いって想定以上に大胆な行動とれる点で偉大。怖いもの知らずともいう。